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11. 二人の攻防 



 今日は五月上旬の所謂ゴールデンウィークである。

だからと言って家庭教師に行かない訳はない。逆に時間が取れるので今日は半日ほど昌の面倒を見る。

家庭教師を始めてからもう今日で7回目… そろそろスピードアップさせて本格的に勉強させようと思っている。



 お昼過ぎに碓井家に到着し、さあこれから家庭教師の開始となる。


「うっす、昌… 今日も楽しい勉強の始まりだよ~ん」


ちょっとからかうような感じの言葉をかけながら昌の部屋に入ると昌は机で頬杖をつきながらだるそうにこちらを向いた。


………あんた誰?


 そこにはすっぴんでだらけた格好をした昌がいる。

今日は連休中で外に出る予定もないので化粧もしていないのだろう。


だがすっぴんの昌の顔は… とんでもなく可愛かった。


素材の良さをぶち壊していた派手なメイクがなく、素材の良さが引き立っている。

そんな昌の顔を見て俺は凍りつく。


ヤバい… 今の昌を見てると… 惚れてしまう。


ダメだ、何とかしなくては… 昌に惚れるなんて俺のプライドが許さん!

しかし俺の心拍数は上昇しだし、変な汗が出てくる。そしていつもの軽快な悪口を出せなくなる。



「お、おい… 勉強を始めるぞ…」


すっげ―やりにくい… ってかいつものように近寄れない。


「はぁ~っ… んで、何からやんの?」


そう言ってようやく俺の方を向いた昌… すると昌は暫く俺を見詰めたまま黙っている。


ん? どうした? ってかあんまりこっちを見るな… 照れる。


俺がそう思って少し焦っていると昌は何故か急にキョドった態度になった。



「す、数学からやろうか…」


い、いかん… うまく口が回らない…


「う、うん… わかった…」


 何故か昌は少し顔を赤らめて素直に言うことを聞く。

なんか… 俺も変だが昌の様子も変だぞ…


理由は分からないが明らかに昌の様子はおかしい… それも俺と同じ様に。

それから勉強を始めたが、俺も昌もお互いを絶対直視しない。そして互いに少し離れて絶対に距離を詰めなかった。

―――――――――――――――


(昌からの視点)


 あ~あ… だるい。 なんで今日は半日も家庭教師があるの? 今は連休中だよ?

愁一さぁ~ どんなけ暇なの? さっさと彼女でも作れば?… 無理か、基本ボッチだし…


あんたがイケメンになったところでその性格は治んないでしょ?

だって江藤君と同じ匂いがするもん… ボッチに特有の…


はぁ~ 江藤君…いいな。 やっぱ諦めるのいやだ…



 私が机に向かってそんなことを考えてると部屋に奴が入ってきた。

何が「楽しい勉強の始まりだよ~ん」だ。… マジでウザい。


そう思って愁一を見ると… あれ、どうしたの?


パーカーにジーパンでずんだれた格好… 髪もセットせずに以前のボッチな雰囲気が戻ってる。

それにどことなく表情もだるそうで… ヤバい、江藤君の雰囲気そっくりだ。


どーしよ… あんな雰囲気で近くに居られたら… 惚れちゃう。


嫌だ嫌だ… あんな奴好きになるの絶対嫌だ!

でも愁一のあの感じ… 私の大好きなツボをピンポイントで押さえてる。


とにかく普段通りに… ダメだ、顔が緩んじゃう…

顔を見ちゃダメ… 昌、頑張るのよ。私が大好きなのは江藤君。…

――――――――――――――



 連休中で相手に気を遣う気など微塵もなかった二人…

そんなお互いの格好は相手が最も好むものだったという訳の分からないことが発生した。


勉強が始まっても二人の動きはぎこちない。まるで油切れのロボットのように関節をギシギシと言わせながら二人は動いていた。



「こ、ここの解き方がわかんない…」

「ど、どれ… こんな感じで解くんだぞ」


「なるほど、凄いね」


昌がそう言って愁一の顔を見る。そして二人は互いに見つめ合う。


「ど、どうした?」

(やっべー、超可愛いんですけど… た、頼む、お願いだからこっちを見ないでくれ… )


「うんん… 何でもない」

(キャァ~! いい…その感じいい。 カッコいい… ずっと見ていたい…)



時間を増すごとに二人の顔はまっ赤になっていき、二人ともフラフラの状態になる。


「ちょっと早いけど休憩するか…」


愁一は臨界点を迎えて暴走の危険性が出てきたため休憩を挟むことにした。


「だったら何か飲もうか?」


昌が言った言葉に愁一も頷き二人はリビングへ向かったが、途中で昌が「先に行ってて」と言って部屋に戻ったので、愁一は1人でリビングに入りソファーに腰を掛けた。



ふぅ~… 今日は参った。昌ってビッチ辞めたらあんなに可愛いんだ。流石ひなのさんの妹…

あれで髪色を黒に戻して清楚な服なんて着られたら… ヤバい、完璧に惚れるな。


昌、頼むからビッチなままでいてくれ… そっちの方が仕事がしやすい。




 愁一がソファーで寛いでいるとき、昌は愁一の態度が何故おかしいのか考えていた。


今日の愁一は絶対おかしい… 私もだけど…

なんでだろ?… いつもと違うことといえば… もしかして………

だったら試してみちゃおうかな。 もしかしたらあいつの弱点が見つかるかも。


昌はそれからリビングへ向かった。

リビングの扉を開けて中に入り愁一に声をかける。


「お待たせ、愁一は何を飲む?」

「ああ、悪いな… 俺は…………」


振り向いて昌を見た愁一は固まった。


昌の服装はさっきまでとは違いベージュ色の清楚に見えるワンピース。

化粧もせず上品なワンピースの裾をひらひらとさせながら歩く昌… その姿はとても優雅に見える。


ただ残念なことに髪の毛だけは相変わらず錆びたような金髪。

だが色白の昌が金髪でワンピースを着ているとまるで欧米にいる白人のように見える。

愁一は一言も言葉を発することができず、呆けるようにその姿に見惚れていた。


ヤバい… 綺麗すぎる… ぐうの音も出ねえ!


昌が可愛いなんて死んでも言いたくない愁一だったが、もはや限界となった。



「あきら… 凄く綺麗だ、似合ってるよ…」


勝手に口から出てしまったその言葉… 愁一はそう言ってしまったことを死ぬほど後悔した。


「…………あ、あり がと…」


言われた昌の方も固まる。



 昌は愁一はおそらく化粧をしていない自分に魅力を感じていると思った。だったら更に雰囲気を清楚系にしてやろうと考えて服を着替える。そして「これでどうだ、参ったか!」と言わんばかりにその姿を愁一に見せつけた。


昌は自分好みになった昌を見た愁一がドキドキして焦る姿を見て楽しもうと思った。

だが予想外に愁一から素直に綺麗だと言われる… 大好きな江藤君とそっくりな雰囲気で。


き、綺麗だって… なんか江藤君に綺麗だって言われたみたいな感じ… 嬉しい。


結果、愁一の言葉に昌の方がドキドキして焦ってしまった。


愁一も何故か赤くなっておどおどしている昌の様子を見て思い出した。

そう言えばこいつは素直に褒められることが苦手だったはず…



相手の弱点をなんとなく握った二人… これから攻防戦が始まる。



 冷たいお茶を用意した昌は芝居がかった感じで涼やかに「お茶だよ」と言って愁一に差し出す。

但しその姿をガッツり見せるために真正面からぐっと体を近づけて…


一瞬クラっときた愁一だが、自分の太腿をつねり正気をたもたせて反撃に移る。


「一段と可愛くなった昌にいれてもらったお茶は格別に美味しいよ」


この言葉を聞いた昌は顔が真っ赤になり俯いてしまう。だが昌も負けない。

昌は急に立ち上がるとワンピースの裾を自分で少し持ちあげてヒラリと回って見せて


「どう? 私でも清楚な感じの服って似合うかな…」


と言ってかなりあざとく上目遣いで愁一を見つめる。


ぐぬぬ…

本当はもう正面向いて昌の顔を見るのも限界に近い愁一だが、それでも顔を赤くしながら攻撃に出る。


「昌は凄く可愛いから何を着ても似合うよ」


この言葉を聞いて昌はもう耳の先まで真っ赤っ赤… 顔から湯気が出ている。



可愛い姿を見せつける昌… その姿を褒め殺す愁一…

二人のバトルはさらに続いたが、やがてその方向性が変化してきた。



愁一: 昌、もっと可愛いところを見せんかい! お前ならまだできる!

昌 : 愁一、もっと…もっと褒めて! まだまだ全然足りないよ!


二人はもはや自分の欲求を満たすためだけにバトルを繰り広げた。

そんなことを30分以上続けた二人は心身ともに限界に近付いてくる。


「昌、ちょっと休憩しようか…」

「そうだね… なんか疲れたよね…」


そう言って二人ともソファーでぐったりと項垂れる。

休憩しようと言ってリビングに来ておいて「休憩しようか」とはこれいかに?


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