12. 小説家 昌
今日はゴールデンウィークの最終日、今日も昌の家庭教師をするのだが、いつもとは事情が異なる。
前回、家庭教師に行ったときに「次回は愁一の部屋でやって欲しい」と昌が言い出した。
何で?…そう思って理由を聞くと俺の家の近くにある大きな本屋に行く用事があるのと男の一人住まいの部屋を見て見たいという事らしい。
「本当に真面目にやる?」…そう聞くと「絶対真面目にやる」と真剣に言うので昌の希望通りにすることとした。
お昼過ぎから夕方までやるということになったので、俺は昼過ぎに駅まで昌を迎えに行った。
駅で待っているとスマホに『今着いたよ』とラインが入ったので、改札口に近付いて待っていると昌がこちらの方へ近づいてくるのが分かった。というか一目ですぐわかる。
前回の教訓で今日来るときの格好を「ビッチスタイル」に指定しておいた。
あいつに清楚な格好をされるとこっちがヤバくなるし、まともに授業ができなくなる。
だから電車を降りて改札に向かってくる人混みを見ても昌をすぐに見つけられた。あんなに派手な格好の女の子は昌の他にいるはずがない。
「愁一、来たよ~」
派手な化粧と恰好で笑いながら近づいてくる昌… やっぱりあいつはビッチな格好が板につく。
「とりあえず本屋からだったな?」
「そうそう、早くいこ」
そう言って先ずは本屋へと二人で向かう。
本屋に入ると昌は目的のコーナーへ一直線… 何やら真剣に本を探し始める。
俺も折角だからと趣味の小説が並んでいるコーナーに行って興味を引きそうなものが無いか探した。
昌の付き合いで立ち寄った本屋だが、趣味の小説本を見始めるとつい時間のたつのも忘れてしまう。
昌に「買い終わったよ」と言われてようやく我に返った。
それから二人で俺の家に向かい、途中コンビニでジュースなどを買ってから家に到着した。
「へぇ~ これが愁一の部屋か~」
部屋に入ると昌は物珍しそうに俺の部屋をあっちこっちと見て廻る。
来るのが分かっていたので一応掃除はしておいたし元々見られて困るようなものもないので好きにさせておいた。
「ねえ… エッチな本とか無いの?」
多分聞いてくるとは思ったが、実際に俺は持っていない。
「そんなものないよ。それより勉強始めるぞ」
「え~~っ、本当に愁一ってつまんない男だね…」
うるせーよ… お前にだけは言われたくない。
「とにかく始めるぞ。今日は最初数学、次は英語」
俺はそう言ってテーブルの上に教科書を用意させて授業を開始した。
昌、言っておくが今は情報化社会… 今どき紙の本なんていらねーんだよ。
エッチな本が無くてもエッチなサイトさえ知っていれば事足りるんだよ。
数学を教え始めると昌は真面目に勉強に取り組んだ。なんだかんだ言ってこの辺は昌はしっかりしている。少しずつ意味を理解しながら問題を解くようになってきたので、結構応用問題なども最近では解けるようになってきている。
何問か昌と一緒に解いて、それからいつものように練習問題を一人で解かせてみる。
いつもだったら解いてる様子などを見ているのだが、今日は自分の家ということもあるので暇つぶしに俺はパソコンの電源を入れていつものサイトにアクセスした。そしてお気に入りの小説を読み始める。
どれどれ… おお、なんか一気に更新されてる。
お気に入りの小説を見て見ると新しい話が5話もアップされていた。
この作者なかなかやるな… 俺はワクワクしながら最新の話を読み始める。
女子高生が主人公の小説なのだが、スタート時は高校2年だった主人公も今は3年生に進級している。
しかも主人公の好きな男の子とは進級しても同じクラス… ま、よくある設定だわな。
ふむふむ… へー、なるほど…
読み始めると主人公の女子高生はとうとう大好きな彼に告白する… まで行きかけてやめた。
やっぱな~ そうだよな~
なかなか進展しない二人の関係が読者である俺達を苛々させる。でもそれが面白い。
夢中になって読んでいると「終わったよ」と昌に言われたのでいったん中断、昌の解答を見に行く。
昌の解答は全問正解、しかも解き方も良いので花丸を付けてあげた。
「よし、頑張ったからちょっと休憩するか?」
そう言うと昌も喜んでバタンと仰向けに寝っ転がって携帯を弄り始めた。
それじゃ続きを読もうかな…
俺もさっき読んでたネット小説の続きを読み始める。
読み進めていくと主人公も高校3年になったので受験勉強を始めたようだった。
そして… ん? 親が勝手に家庭教師を雇った? へ~、結構リアルだな。
そして家庭教師に来たのは………
根暗でダサくてボッチな某大学の薬学部の学生…………
へ、へぇ~… ま、薬学の学生なら家庭教師も結構やるわな…
そ、それに… ちょっと暗そうな奴も多いし…
そして喋ると性格も最悪でいちいち嫌味を言ってくる… しかもその女子高生をエロい目で見る。
ちょっと派手だが純情で可愛い主人公の女子高生の体を秘かに狙う変態家庭教師………
その男の名前は「安曇修一」………
…………昌、てめーだろ… この小説書いてんの?
いや… ちょっと待て、… まだ奇跡的な偶然なのかもしれない…
9割は昌だと思うが最終確認だけやろう…
一体どうなってるんだと焦る気持ちだったが、とにかく確認しないと分からない。
「昌、次は英語だったな…」
「そうだったね…」
携帯を弄りながら生返事を返してくる昌。
「じゃあ問題出すぞ」
「な~に?」
「『太い』って英語で言ってみな」
「太い?… 簡単じゃん『 Fat 』でしょ?」
「じゃあその反対語は?」
「太いの反対は…薄いか~ じゃあ『 Thin 』だね」
昌、やっぱおめーだな… この小説書いてんの!
もう間違いねー!
「昌、この小説に見覚えねーか?」
俺はそう言ってパソコンの画面を昌に見せた。その小説の作者は「シン」となっている。
「なによ~ どしたの?」
昌はだるそうに画面を見るとその表情は一変した。驚きのあまり固まってる。
もう間違いない。 昌、てめーなんてもん書いてくれんだ!
作者は「シン」→ thin → 薄い → 碓井…
こいつはバカか? なに本名で小説投稿してんの?
それよりも俺の名前をまんま本名で出すんじゃねーよ!
僅かな救いはこいつが俺の名前を漢字で知らなかったことぐらいか…
「………な、なに それ… へ、へ~ そんなサイトあるんだ…」
昌は慌てていた… 頬はヒクつき、目は完璧に泳いでいる。
「お前が書いてんだろ?」
「そ、そんな訳ないでしょ…」
昌はあたふたしだして動揺しまくり…
「だったら俺がこのサイトにクレーム送ってもいい訳だな?」
「そ、それは………」
「正直に言え…」
「…わ、分かったわよ… 書いてるのは私です…」
お前… いい加減にしてくれ、本当に…
「どーしてくれんだよ! これをうちの学部のやつが読んだら速攻でバレるだろ!」
「だ、大丈夫だって… みんな作り話としか思わないから…」
しかし… 本当にヤバい。
この小説はかなり人気がある。週間ランキング1位をとってるんだぞ…
どれだけの人がこれを読んでるか… 想像したくもない。
「大体なんでご丁寧に学部まで正直に書く?」
「だって… その方がリアリティーがあるし…」
「リアリティーあり過ぎるだろ!」
本当に参った… まさか俺のお気に入りの小説を書いてたのが昌だったなんて…
もしかして俺、こいつが書いてる小説を楽しみにして読んでたわけ?
だめだ… 目眩がしてきた。 なんかもう意味が分かんねー。
「で、でもこの小説… かなり人気なんだよ。凄いでしょ?」
「だから困ってんだよ!」
「書籍化されちゃったりして…」
「されちゃ困るんだよ… とんでもないこと言うな!」
あ~~~~~っ! どうしたらいいの? おれ………




