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金曜日に別れた君と、もう一度恋をする。  作者: こよみん


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8/29

第1期 第8話 好きだから、嘘が増えていく

挿絵(By みてみん)


「今日で、終わりにする」


土曜日の午後。


仁科ミヤビは、そう決めていた。


昨夜から今朝まで。


ユウキの部屋で過ごした。


抱きしめられて。


何度もキスをして。


同じベッドで朝を迎えた。


初めてだった。


誰かと過ごした翌朝に、


――帰りたくない。


そう思ったのは。


だから、決めた。


他の関係は全部終わらせる。


ユウキだけの彼女になる。


そのはずだった。


*


待ち合わせ場所は、駅から少し離れた喫茶店だった。


向かいに座る男は、ミヤビより二歳年上。


付き合いは一年以上になる。


そして。


ミヤビが最も依存してきた相手だった。


「最近、連絡減ったよね」


「……うん」


「なんで?」


ミヤビは膝の上で拳を握る。


言え。


今日で終わりにしたい。


たったそれだけだ。


「私……」


スマートフォンが震えた。


画面を見る。


ユウキ。


『勉強始めた』


続けて。


『ミヤビもちゃんと勉強しろよ』


思わず笑いそうになった。


「誰?」


「……友達」


また。


嘘をついた。


「男?」


「違う」


また一つ。


「最近、変だよ」


向かいの男が言う。


「俺のこと嫌いになった?」


その瞬間。


胸の奥がざわつく。


嫌いになったわけではない。


ただ。


ユウキを好きになった。


だから終わらせたい。


それだけなのに。


「ミヤビ」


名前を呼ばれる。


「俺から離れるの?」


怖い。


その言葉が。


異常なほど怖かった。


昔からそうだった。


誰かが自分から離れていく。


誰かに必要とされなくなる。


その想像だけで。


胸に穴が開くような感覚がする。


「……分からない」


言ってしまった。


「分からないって?」


「少し、考えさせて」


終わらせられなかった。


*


帰り道。


ミヤビは一人だった。


スマートフォンを開く。


ユウキとのトーク画面。


『勉強終わった』


『そっちは?』


涙が出そうになる。


『私も今終わったよ』


嘘。


『お疲れ』


『来週楽しみ』


その一言だけで。


胸が温かくなる。


同時に。


痛くなる。


「……ごめんなさい」


誰にも聞こえない声で。


そう呟いた。


*


それから一週間。


ユウキは何も知らなかった。


学校ですれ違えば。


ミヤビはいつものように他人の顔をする。


そして。


姿が見えなくなった途端。


『今、目合った♡』


メッセージが届く。


『学校でニヤニヤするなよ』


『ユウキくんもしてたよ』


『してない』


『してた』


そんなやり取りが。


楽しかった。


金曜日だけではなく。


朝も。


昼も。


夜も。


ミヤビからの連絡が来る。


付き合う前より。


明らかに増えていた。


木曜の夜。


電話もかかってきた。


『ユウキくん』


「どうした?」


『声聞きたかった』


「明日会うだろ」


『明日まで長い』


「あと十五時間くらい」


『長いよ』


「寝たら一瞬だろ」


『じゃあ寝るまで電話して』


「勉強は?」


『今日は終わり』


「仕方ないな」


『やった』


電話越しの声が嬉しそうだった。


それから一時間。


どうでもいい話をした。


最後。


『ユウキくん』


「ん?」


『好き』


「俺も」


『大好き』


「俺も好きだよ」


沈黙。


『……もう一回』


「好き」


『もう一回』


「明日直接言う」


『けち』


「おやすみ」


『おやすみ』


切ろうとして。


『待って』


「何?」


『……明日、いっぱいキスして』


ユウキは数秒黙った。


「電話で言うことか、それ」


『だってしたいから』


「……俺も」


電話の向こうで。


ミヤビが笑った。


*


金曜日。


放課後。


「お邪魔します」


「いらっしゃい」


もう三度目。


ミヤビがユウキの部屋へ来ること自体。


少しずつ日常になっていた。


「ユウキくん」


「何?」


玄関のドアが閉まる。


鍵がかかる。


次の瞬間。


ミヤビが抱きついた。


「おっと」


「会いたかった」


「学校で見ただろ」


「見るだけじゃ足りない」


「昨日電話もした」


「声だけじゃ足りない」


「欲張りだな」


「うん」


顔を上げる。


「だから」


目を閉じた。


ユウキは笑う。


「はいはい」


「はいは一回」


「注文多いな」


頬に手を添える。


キス。


「ん」


離れる。


「もう一回」


二度目。


「もう一回」


三度目。


「まだ玄関だぞ」


「昨日いっぱいしてって言った」


「覚えてたのか」


「ユウキくんとのことは覚えてるよ」


四度目。


そして。


ミヤビが胸元へ顔を埋めた。


「……やっぱり落ち着く」


「玄関で?」


「場所じゃないの」


ユウキの背中へ腕を回す。


「ユウキくんだから」


*


その日の夕食は。


二人でオムライスを作った。


「見て」


ミヤビがケチャップで文字を書く。


『ユウキ♡』


「恥ずかしくない?」


「全然」


「俺が恥ずかしいんだけど」


「じゃあユウキくんも書いて」


「何を」


「ミヤビ大好き、って」


「長い」


「じゃあ♡だけ」


仕方なく。


ユウキもミヤビのオムライスにハートを書く。


「……これでいい?」


ミヤビは。


しばらくそのハートを見つめていた。


「食べないの?」


「もったいない」


「ケチャップだぞ」


「ユウキくんが書いてくれたから」


「また書くよ」


「ほんと?」


「それくらいなら」


「じゃあ毎週」


「毎週オムライス食うの?」


「それもいいね」


ミヤビは笑った。


そんな未来が。


本当に来ればいい。


心からそう思った。


*


午後九時。


二人はベッドに並んでいた。


先週より。


ずっと自然に。


ミヤビがユウキの胸元に寄り添う。


「ねえ」


「ん?」


「今日も泊まっていい?」


「そのつもりで来たんだろ」


「ばれた?」


「荷物増えてる」


「ちゃんと着替え持ってきた」


「計画的犯行だな」


「彼氏の家に泊まるのは犯罪ですか?」


「じゃないです」


「なら問題なし」


ミヤビが笑う。


それから。


少しだけ静かになった。


「ユウキくん」


「何?」


「私が毎週泊まったら、迷惑?」


「別に」


「ほんと?」


「むしろ嬉しい」


ミヤビの目が揺れる。


「……嬉しい?」


「好きな彼女と一緒にいられるんだから」


「そっか」


ぎゅっと。


抱きついてくる。


「じゃあ」


小さな声。


「ずっとこうしてて」


ユウキは彼女の背中に腕を回す。


「いいよ」


「離さないで」


「今日は甘えすぎじゃない?」


「金曜日だから」


「金曜日なら何でもありか」


「ユウキくんの日だから」


その言葉に。


ユウキは笑った。


意味を。


完全に勘違いしたまま。


「俺の日?」


「うん」


ミヤビが顔を上げる。


「金曜日は、ユウキくんだけ」


嘘ではなかった。


金曜日だけは。


本当にユウキしかいない。


だからこそ。


残酷な言葉だった。


*


「ミヤビ」


「ん?」


「キスしていい?」


「聞かなくてもいいよ」


「一応」


「恋人なんだから」


唇が重なる。


一度。


二度。


三度。


今夜は。


ミヤビの方が離れようとしなかった。


ユウキの胸元を掴んで。


唇が離れると。


また自分から近づいてくる。


「……今日どうした?」


「何が?」


「いつも以上にくっついてくる」


「嫌?」


「嫌じゃない」


「じゃあいいの」


もう一度。


キス。


「ユウキくん」


「うん」


「好きって言って」


「好き」


「もう一回」


「好きだよ」


「もっと」


「大好き」


ミヤビは。


泣きそうな顔で笑った。


「私も」


そして。


また唇を重ねた。


*


夜は深くなっていった。


部屋の明かりが消える。


同じ布団。


互いの体温。


暗闇の中で何度も名前を呼ぶ。


唇を重ねて。


抱きしめ合って。


互いがそこにいることを確かめるように。


やがて。


言葉より近い距離で。


二人だけの時間が静かに過ぎていった。


*


深夜。


「ユウキくん」


「ん……?」


「寝た?」


「半分」


「半分寝るって何」


「眠いってこと」


「そっか」


ミヤビはユウキの胸に頬を寄せる。


「じゃあ寝ていいよ」


「ミヤビは?」


「もうちょっと起きてる」


「なんで?」


「幸せだから」


眠そうだったユウキが。


少しだけ目を開ける。


「意味分からない」


「幸せな時間って、寝るともったいない気がしない?」


「明日起きてもいるだろ」


「……うん」


「なら寝ろ」


頭を撫でられる。


「おやすみ、ミヤビ」


「おやすみ」


少しして。


ユウキの呼吸が一定になる。


ミヤビは眠れなかった。


スマートフォンを見る。


土曜日。


日付が変わっている。


通知。


あの男からだった。


『明日会える?』


胸が冷たくなる。


隣を見る。


ユウキ。


自分を信じて眠っている。


返信欄を開く。


『会えない』


打つ。


これでいい。


送ればいい。


けれど。


『この前の話、ちゃんとしたい』


追加のメッセージ。


指が止まる。


怖い。


関係を終わらせることが。


それ以上に。


今は。


ユウキを失うことが怖い。


なのに。


その二つの恐怖の間で。


ミヤビはまだ正しい方を選べなかった。


『少しだけなら』


送信。


直後。


激しい自己嫌悪が押し寄せる。


「……何してるんだろ」


スマートフォンを伏せる。


隣で眠るユウキの胸に。


もう一度身体を寄せる。


「ごめんね」


そして。


眠っている彼の唇へ。


そっとキスをした。


*


翌朝。


「おはよう」


「……おはよ」


ユウキが目を開けると。


ミヤビがすぐ隣で笑っていた。


「何時?」


「七時半」


「早い」


「起きちゃった」


「土曜なのに」


「ユウキくん」


「ん?」


「キス」


「起きて最初の言葉がそれ?」


「おはようって言ったよ」


「二言目じゃん」


「早く」


「はいはい」


軽く唇を重ねる。


「もう一回」


「歯磨きしてからにしない?」


「気にしない」


「俺が気にする」


「じゃあ一緒に歯磨きしよ」


「狭いぞ」


「いいじゃん」


ミヤビがベッドから起きる。


それを見て。


ユウキは思った。


こんな毎日も悪くない。


毎週金曜日だけではなく。


いつか。


毎日。


同じ部屋で朝を迎える。


そんな未来があったら。


幸せなのかもしれない。


*


午前九時。


玄関。


「じゃあ、また学校で」


「うん」


「来週も?」


「来る」


「泊まる?」


「泊まる」


「即答だな」


「嫌?」


「嬉しい」


「……好き」


不意打ちのキス。


「じゃあね」


「駅まで送るよ」


「今日はいい」


「なんで?」


「予定あるから」


ユウキは気にしなかった。


「友達?」


ミヤビの胸が痛む。


「……うん」


嘘。


「そっか。気をつけて」


「うん」


ドアを開ける。


でも。


出られなかった。


「ミヤビ?」


「……最後に一回だけ」


「さっきしただろ」


「お願い」


ユウキは不思議そうな顔をして。


それでも。


優しくキスをしてくれた。


「これでいい?」


「……うん」


「じゃあ来週」


「ユウキくん」


「ん?」


「大好き」


「俺も」


扉が閉まった。


*


三十分後。


ミヤビは電車に乗っていた。


ユウキの家から離れていく。


唇には。


さっきのキスの感触が残っている。


それなのに。


これから会うのは。


別の男だった。


最低だ。


自分でも分かっている。


それでも。


まだ切れない。


一人になることへの依存が。


長い時間をかけて作った歪んだ関係が。


ミヤビの足首に絡みついている。


*


一方。


ユウキは。


何も知らない。


ミヤビが忘れていったヘアゴムを見つけて。


『忘れ物』


写真を送る。


返事。


『来週まで持ってて♡』


『了解』


それだけ。


ユウキは机に向かう。


数学の問題集を開く。


受験。


卒業。


大学。


その先。


未来には。


当然のようにミヤビがいると思い始めていた。


そして。


ミヤビもまた。


同じ未来を望んでいた。


だからこそ。


嘘が増える。


失いたくないから言えない。


言えないから、さらに隠す。


隠すために、また嘘をつく。


好きになればなるほど。


秘密は重くなる。


そして次の金曜日。


二人の関係に初めて。


小さな亀裂が入る。


きっかけは。


ミヤビのスマートフォンに表示された――


**ユウキの知らない男からのメッセージだった。**


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


ユウキたちの物語を少しでも「続きが気になる」「面白かった」と思っていただけましたら、評価をいただけると、とても励みになります。


また、


「このシーンが好き!」

「このキャラを応援したい!」

「ここからどうなるの!?」

「自分ならこうする!」


など、短い一言でも大歓迎です。


皆様の感想・コメント・レビュー、楽しく読ませていただきます。


特に推しキャラについて語っていただけるのも嬉しいです。


ユウキ、ミヤビ、アヤネ、イノリ、アグリ――。


物語が進むにつれて、それぞれの恋や選択も大きく動いていきます。


誰を好きになるか。


誰を応援するか。


ぜひ皆様自身の目で見届けてください。


そして、続きも読んでみたいと思っていただけましたら、作品のフォロー・ブックマークもしていただけると嬉しいです。


それでは、次のお話で。


次回もよろしくお願いします!

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