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金曜日に別れた君と、もう一度恋をする。  作者: こよみん


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7/28

第1期 第7話 朝まで、恋人のままで

挿絵(By みてみん)


「……帰りたくないって言ったら、困る?」


金曜日。


午後九時を過ぎた、ユウキの部屋。


ベッドの端に並んで座ったまま。


ミヤビは、そんなことを言った。


「もう少しだけ」


彼女の指がユウキの手に絡む。


「恋人らしく、一緒にいたい」


その意味が分からないほど、ユウキも子供ではなかった。


二人とも十八歳。


付き合ってから、毎週のようにキスをした。


抱きしめ合った。


今日だって、何度唇を重ねたのか覚えていない。


それでも。


その先だけは。


まだだった。


*


「ミヤビ」


「うん」


「それ、本気で言ってる?」


聞くと。


ミヤビは俯いた。


「……うん」


いつもの彼女なら。


『どういう意味だと思ったの?』


なんて笑って誤魔化したはずだ。


けれど今夜は違う。


絡めた指に、少しだけ力が入る。


「でも」


「でも?」


「ユウキくんが嫌なら、帰る」


「嫌じゃない」


即答してしまった。


ミヤビが顔を上げる。


「……ほんと?」


「好きな彼女にそんなこと言われて、嫌なわけないだろ」


「そっか」


嬉しそうに笑う。


なのに。


その笑顔には少しだけ緊張が混じっていた。


ユウキは、ふと思う。


「ミヤビ」


「ん?」


「無理してない?」


目を見て聞いた。


「俺に合わせなくていいから」


その瞬間。


ミヤビの瞳が揺れた。


「……なんで?」


「なんとなく」


「こういうとき普通、男の子って喜ぶんじゃないの?」


「喜んでる」


「喜んでるんだ」


「そこ拾うなよ」


「ふふっ」


ようやく、いつもの笑顔が戻った。


「でも」


ユウキは続ける。


「ミヤビが後悔するなら嫌だ」


しばらく。


彼女は何も言わなかった。


やがて。


こつん。


ユウキの肩に額を預ける。


「……優しくしないでよ」


「なんで」


「もっと好きになっちゃうから」


「それは別にいいだろ」


「よくない」


小さな声だった。


「私には、よくないの」


「ミヤビ?」


「なんでもない」


顔を上げる。


そして。


「キスして」


ユウキは頬に触れた。


ゆっくり。


唇を重ねる。


*


一度。


離れる。


もう一度。


今度はミヤビから。


三度目。


四度目。


抱きしめたまま、何度も唇を重ねる。


いつもと同じはずだった。


なのに。


今夜だけは、一度離れるたびに互いの距離が近くなっていく気がした。


「ユウキくん」


「ん?」


「好き」


「俺も」


「もう一回言って」


「好きだよ」


「……もう一回」


「好き」


ミヤビが笑う。


「何回言わせるんだ」


「いっぱい」


「なんで」


「覚えておきたいから」


「来週も言うよ」


「再来週も?」


「言う」


「卒業しても?」


「そのつもり」


「大学生になっても?」


「同じ大学受かったらな」


「じゃあ勉強頑張らないと」


「最初から数学できるくせに」


「あれは忘れて」


二人で笑った。


それから。


またキスをした。


今度は、長かった。


*


やがて。


二人はベッドに横になった。


向かい合って。


すぐそばに相手の顔がある。


「……近いね」


ミヤビが囁く。


「今さら?」


「今までより近い」


ユウキは彼女の髪をそっと撫でた。


「嫌?」


「もっと」


「え?」


「撫でて」


言われた通りにする。


さらさらした黒髪。


ミヤビは目を細めた。


「落ち着く」


「猫みたいだな」


「にゃー」


「適当すぎるだろ」


「じゃあ」


ミヤビがユウキの胸元に潜り込む。


「これなら?」


「甘えん坊」


「今日だけ」


「来週もやりそう」


「ばれた?」


抱きしめる。


ミヤビも背中に腕を回す。


しばらく。


言葉は必要なかった。


聞こえるのは。


時計の音。


互いの呼吸。


そして。


近すぎるくらいの鼓動。


「ねえ」


「うん」


「電気、消して」


ユウキの心臓が跳ねた。


「……いいの?」


「うん」


「本当に?」


「何回聞くの」


「大事だから」


その言葉に。


ミヤビは少しだけ笑った。


「大丈夫」


そして。


「ユウキくんといたい」


部屋の明かりが消えた。


*


暗闇。


カーテンの隙間から、街の明かりだけが差し込んでいる。


「ユウキくん」


「ここにいる」


「手」


「ん」


探るように伸びてきた指を握る。


「キスして」


唇を探す。


少しずれて、頬に触れた。


「そこ違う」


「暗いんだから仕方ないだろ」


「下手」


「じゃあミヤビから」


「しょうがないなあ」


暗闇の中。


柔らかな唇が触れる。


一度。


二度。


三度。


やがて。


数える意味もなくなった。


「ユウキくん」


「うん」


「好き」


「俺も好き」


「……大好き」


抱きしめる腕に力が入る。


ミヤビの体温が近い。


もう、間に何も挟みたくないと思うほどに。


それでも。


ユウキは急がなかった。


何度も確かめた。


本当にいいのか。


怖くないか。


嫌になったらすぐ言ってほしい。


そのたび。


ミヤビは。


「うん」


と答えた。


そして最後に。


「ユウキくんだから、いいの」


そう囁いた。


その夜。


二人は初めて。


キスより先へ進んだ。


*


時計が日付を越えても。


二人は眠らなかった。


同じ布団の中。


ミヤビはユウキの胸に頬を預けている。


「……ねえ」


「ん?」


「寝た?」


「寝てたら返事できないだろ」


「それもそうだね」


静かな笑い声。


「ユウキくん」


「なに」


「後悔してる?」


「してない」


「即答」


「ミヤビは?」


「……してないよ」


少し間があった。


「ただ」


「ただ?」


「怖い」


「何が?」


ミヤビは答えなかった。


代わりに。


ぎゅっと抱きついてくる。


「ミヤビ?」


「もう少しこのまま」


「いいけど」


「朝まで」


「うん」


「起きても、隣にいて」


「俺の家なんだからいるだろ」


「そういう意味じゃない」


「じゃあどういう意味?」


沈黙。


やがて。


「……なんでもない」


またそれだ。


秘密。


ユウキにはまだ。


その言葉の重さが分からなかった。


*


深夜二時。


ユウキは眠っていた。


ミヤビだけが目を開けている。


すぐ隣。


穏やかに眠る彼氏。


暗闇の中で。


ミヤビはそっとユウキの頬に触れた。


「……ごめんね」


小さく。


本当に小さく呟いた。


今夜。


ユウキは何度も聞いてくれた。


大丈夫か。


本当にいいのか。


そして。


好きだと言ってくれた。


だからこそ。


胸が痛かった。


ユウキにとって今夜が特別だったことを。


ミヤビは知っている。


自分が彼の「初めて」の相手になったことも。


だから。


言えなかった。


自分には。


彼が思っているような「初めて」は残っていなかったことを。


それどころか。


恋人になったあとも。


すべての関係を終わらせられていないことを。


「最低だ……私」


涙が一滴。


枕に落ちた。


それでも。


ユウキの隣から離れたくなかった。


ミヤビは彼の胸に顔を寄せる。


すると。


眠っているはずのユウキの腕が。


無意識に彼女を抱き寄せた。


「……ずるいよ」


涙を拭う。


「そんなことされたら」


もう。


戻れなくなる。


本当に。


この人だけが欲しくなる。


*


翌朝。


ユウキが目を覚ます。


最初に感じたのは。


自分の胸元にある温もりだった。


「……ミヤビ?」


「ん……」


眠そうな声。


黒髪が枕いっぱいに広がっている。


昨日のことを思い出す。


途端に顔が熱くなった。


「……おはよう」


ミヤビが目を開ける。


「おはよ」


数秒。


見つめ合う。


「ユウキくん」


「何?」


「朝だね」


「朝だな」


「隣にいるね」


「いるな」


ミヤビが嬉しそうに笑った。


そして。


「おはようのキス」


「そんな習慣いつできた?」


「今」


軽いキス。


離れる。


「もう一回」


「朝から?」


「朝だから」


二度目。


「もう一回」


「多いって」


「昨日より少ない」


「比較対象がおかしい」


三度目。


四度目。


「……ミヤビ」


「ん?」


「幸せそうだな」


何気なく言った。


その瞬間。


ミヤビの動きが止まる。


「……うん」


少しだけ。


泣きそうな顔で笑った。


「幸せだよ」


ユウキは理由を聞かなかった。


ただ。


抱きしめた。


ミヤビも抱きしめ返した。


*


朝食は二人で作った。


といっても。


トースト。


目玉焼き。


インスタントのスープ。


それだけ。


「なんか新婚さんみたい」


ミヤビが言う。


「気が早すぎる」


「いいじゃん。想像くらい」


「大学にも受かってないぞ」


「じゃあ大学卒業したら?」


「さらに先になったな」


「ユウキくん」


「ん?」


「私がお嫁さんだったら嫌?」


「……嫌じゃない」


「そこは嬉しいって言って」


「嬉しいよ」


「ほんと?」


「ほんと」


ミヤビは笑う。


その顔を見て。


ユウキも笑った。


何も知らずに。


*


午前十時。


ミヤビは帰っていった。


玄関で。


「じゃあね」


「うん」


「来週も来ていい?」


「もちろん」


「泊まっても?」


「……親御さんに怒られないなら」


「大丈夫」


「ならいいよ」


「ほんと?」


「毎週は勉強できなくなるけど」


「じゃあ勉強もする」


「本当か?」


「たぶん」


「信用できない」


笑い合う。


最後に。


ミヤビが背伸びをする。


キス。


「来週も」


「うん」


「絶対ね」


「分かってる」


扉が閉じる。


その瞬間まで。


二人は。


どこにでもいる幸せな恋人だった。


*


マンションを出たミヤビは。


スマートフォンを開いた。


通知が溜まっている。


金曜の夜から今朝まで。


返信していなかったメッセージ。


『昨日何してた?』


『最近避けてない?』


『今日会える?』


別々の名前。


ミヤビは立ち止まる。


昨日までなら。


怖くて断れなかった。


けれど。


今は。


ユウキの腕の中で迎えた朝を覚えている。


「……終わらせる」


一人目。


『もう会えない』


送信。


二人目。


『ごめんなさい。終わりにしたい』


送信。


三人目。


指が震える。


それでも送った。


四人目。


五人目。


そして――。


最後の一人。


『別れよう』


文字を打つ。


送信ボタンへ指を伸ばす。


そのとき。


着信。


画面いっぱいに表示された名前を見て。


ミヤビの顔から血の気が引いた。


長い間。


自分が一番依存してきた相手。


切らなければいけない。


分かっている。


なのに。


指が動かない。


着信が切れる。


直後。


メッセージ。


『今日会って話そう』


ミヤビは画面を見つめた。


「……会って、終わらせればいい」


自分に言い聞かせる。


ただ別れ話をするだけ。


それで全部終わる。


今日で。


ユウキだけの彼女になれる。


そう信じて。


『分かった』


送信した。


*


同じ頃。


ユウキはベッドのシーツを整えていた。


昨日までとは違って見える部屋。


スマートフォンが震える。


ミヤビ。


『昨日ありがとう』


続けて。


『来週も泊まりたい』


そして。


『大好き♡』


ユウキは笑った。


『俺も』


送信する。


それから。


机の上に数学の問題集を開いた。


来週も会える。


再来週も。


卒業しても。


大学生になっても。


そんな未来を。


当たり前のように信じていた。


けれど、その日の午後。


ミヤビは。


最後に残った一人との関係を終わらせるために、会いに行く。


そしてそこで。


彼女自身が一番恐れていた弱さに。


もう一度、負けることになる。


**ユウキだけの彼女になりたい。**


その願いと。


**誰かに捨てられるのが怖い。**


その依存が。


初めて真正面からぶつかる。


次の金曜日。


ユウキはまだ何も知らないまま。


笑顔でミヤビを部屋に迎えることになる。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


ユウキたちの物語を少しでも「続きが気になる」「面白かった」と思っていただけましたら、評価をいただけると、とても励みになります。


また、


「このシーンが好き!」

「このキャラを応援したい!」

「ここからどうなるの!?」

「自分ならこうする!」


など、短い一言でも大歓迎です。


皆様の感想・コメント・レビュー、楽しく読ませていただきます。


特に推しキャラについて語っていただけるのも嬉しいです。


ユウキ、ミヤビ、アヤネ、イノリ、アグリ――。


物語が進むにつれて、それぞれの恋や選択も大きく動いていきます。


誰を好きになるか。


誰を応援するか。


ぜひ皆様自身の目で見届けてください。


そして、続きも読んでみたいと思っていただけましたら、作品のフォロー・ブックマークもしていただけると嬉しいです。


それでは、次のお話で。


次回もよろしくお願いします!

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