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金曜日に別れた君と、もう一度恋をする。  作者: こよみん


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4/30

第1期 第4話 金曜日だけじゃ、足りなくなった

挿絵(By みてみん)


「来週もキスしよっか?♡」


そんなメッセージを送ってきた本人が。


月曜日になると、まるで何事もなかったような顔をしていた。


*


昼休み。


佐藤ユウキは購買から戻る途中、廊下の向こうに仁科ミヤビを見つけた。


友達と三人で歩いている。


目が合った。


金曜日。


誰もいない公園で三度もキスした相手だ。


否応なしに意識する。


ところがミヤビは微笑むこともなく、軽く会釈しただけで通り過ぎた。


「……なんなんだよ」


その直後。


ポケットのスマートフォンが震えた。


『今、キスしたかった?』


足が止まる。


振り返る。


遠ざかっていくミヤビもスマートフォンを持っていた。


『するわけないだろ。学校だぞ』


『じゃあ二人きりなら?』


『……』


『返事ないね♡』


完全に遊ばれている。


『金曜日まで待て』


送信。


数秒後。


『うん。待ってる』


続いて。


『楽しみ』


ユウキは画面を消した。


自分で金曜日まで待てと言ってしまったことに気づいたのは、その直後だった。


*


そして金曜日。


放課後。


「ユウキくん」


「遅い」


「また言った」


「今日は五分遅刻」


「待ってたんだ?」


「……帰るぞ」


「ごめんって」


ミヤビが笑いながら隣に座る。


机の上には教科書もノートもない。


ユウキはそれを見た。


「今日は数学は?」


「もう口実いらないでしょ?」


あっさり言われた。


「じゃあ何しに来たんだよ」


「会いに」


即答。


ユウキの言葉が止まった。


「……そういうの、さらっと言うなよ」


「どうして?」


「勘違いするだろ」


「何を?」


「俺のこと好きなのかな、とか」


冗談のつもりだった。


けれど。


ミヤビは笑わなかった。


「勘違いだったら困る?」


「え」


「私がユウキくんを好きだったら、困る?」


静かな教室。


遠くから運動部の掛け声が聞こえる。


「……分からない」


それがユウキの本音だった。


「でも」


「でも?」


「嫌じゃない」


ミヤビの頬が少し緩む。


「そっか」


机の下。


指先が触れた。


ミヤビの小指だった。


絡む。


たった一本だけ。


それなのに、キスしたときより妙に恥ずかしい。


「ユウキくん」


「ん?」


「今日も、する?」


何を。


とは聞かなかった。


*


二人は、人のいなくなった校舎の階段踊り場にいた。


窓から夕日が差し込んでいる。


「ここなら誰も来ないと思う」


「お前、妙に詳しいな」


「探したから」


「何を」


「二人きりになれるところ」


その言葉だけで心拍数が上がる。


ミヤビが一段上に立つ。


これで目線がほとんど同じ高さになった。


「ユウキくん」


「うん」


「今日はそっちからして」


「難易度上げるなよ」


「先週は私からしたもん」


「……分かった」


肩に手を置く。


ミヤビは逃げない。


目を閉じた。


ユウキは顔を近づける。


そして。


唇を重ねた。


一度。


離れる。


ミヤビが目を開く。


「短い」


「注文多いな」


「もう一回」


二度目。


今度は少し長く。


離れた瞬間。


「もう一回」


「また?」


「だめ?」


三度目。


四度目。


触れては離れる。


キスをするたび、最初に感じていた緊張が少しずつ消えていく。


代わりに。


もっと近くにいたいという気持ちが強くなる。


五度目のあと。


ミヤビはユウキの胸元に額を預けた。


「……なんか落ち着く」


「キスして?」


「ううん」


制服越しに、ミヤビの指がユウキの服をつまむ。


「こうしてるの」


ユウキは迷ってから、その背中に腕を回した。


抱きしめる。


ミヤビの身体が一瞬だけ強張った。


「嫌だった?」


「逆」


小さな声。


「もうちょっと強くして」


腕に力を込める。


ミヤビも背中へ腕を回してきた。


二人とも何も言わなかった。


ただ抱きしめ合った。


十秒。


二十秒。


もっと長かったかもしれない。


やがてミヤビが顔を上げる。


「ユウキくん」


「何?」


「もう一回」


「キス?」


「うん」


今度はミヤビから唇を重ねてきた。


*


帰り道。


二人は当然のように手を繋いでいた。


「なあ、ミヤビ」


「ん?」


「俺たち、付き合ってないんだよな」


「まだね」


「まだ?」


「そこ気になった?」


「気になるだろ」


「じゃあ付き合いたい?」


質問で返された。


ユウキは黙る。


ミヤビと会うのは楽しい。


金曜日が待ち遠しい。


メッセージが来ると嬉しい。


キスしたい。


抱きしめたい。


他の男子と話しているところを見ると、少し気になる。


それが恋なのか。


十八年間彼女がいなかったユウキには判断できない。


「……ミヤビは?」


聞き返した。


「ずるい」


「お互い様だろ」


「私は」


そこで言葉を止める。


「もう少しだけ、このままがいい」


「なんで?」


「……怖いから」


初めて聞く声だった。


いつもの余裕がない。


「何が?」


「秘密」


またそれだ。


けれど、ユウキは追及しなかった。


「分かった」


「聞かないの?」


「言いたくなったら言えばいいだろ」


ミヤビが立ち止まる。


繋いだ手が引かれて、ユウキも止まった。


「どうした?」


「……ユウキくん」


「うん」


「そういうところ、ずるいよ」


「何が」


答えの代わりに。


ミヤビは背伸びをした。


唇が触れる。


不意打ちだった。


離れて。


もう一度。


短いキス。


「これで許して」


「何を?」


「秘密にしてること」


「キスで誤魔化すな」


「じゃあ、もう一回?」


「……それは別に拒否しない」


「欲張り」


三度目は。


どちらからともなく、同時だった。


*


その夜。


ミヤビはベッドの上で膝を抱えていた。


スマートフォンには、一週間の予定表。


月曜日。


名前。


火曜日。


名前。


水曜日。


名前。


木曜日。


名前。


金曜日――ユウキ。


土曜日。


名前。


日曜日。


名前。


ずっと続けてきた生活。


一人になりたくない。


誰かに必要とされていたい。


誰かと触れ合っていれば、空っぽなところが埋まる気がした。


だから曜日ごとに相手を変えた。


それがおかしいことくらい、ミヤビにも分かっている。


けれど。


やめられなかった。


今夜もメッセージが届く。


土曜日に会っている相手からだった。


『明日、いつも通り?』


いつもなら即答する。


けれど。


ミヤビは自分の唇に触れた。


今日。


ユウキと何度もキスした。


抱きしめられた。


それだけなのに。


今まで誰かと過ごした夜より、胸の奥が満たされている。


『ごめん』


文字を打つ。


止まる。


消す。


『明日は少し遅くてもいい?』


結局、それだけ送った。


まだ切れない。


怖い。


一人になることが。


「……最低」


自分自身に呟いた。


もしユウキが知ったら。


どういう顔をするのだろう。


きっと嫌われる。


だったら、今のうちに離れればいい。


それなのに。


スマートフォンが震えた。


『来週も会おう』


ユウキだった。


たった六文字。


ミヤビの表情が崩れる。


「……会いたい」


誰もいない部屋で呟いた。


そして返信する。


『うん』


『絶対ね』


少し迷って。


もう一通。


『大好き』


送信ボタンの直前で指が止まる。


まだ。


それを言う資格はない気がした。


全部消して。


代わりに送る。


『おやすみ、ユウキくん♡』


*


翌週。


金曜日。


「今日はどこ行く?」


教室に来るなり、ミヤビが尋ねた。


「勉強は完全に消えたな」


「最初から目的じゃないし」


「開き直った」


「ねえ」


ミヤビが机に両手をついて顔を近づける。


「今日は学校の外に行こうよ」


「どこ?」


「ユウキくんの行きたいところ」


「急に言われても」


「二人きりになれるところがいい」


意味深な言い方だった。


「……公園?」


「もっと二人きり」


「カラオケ?」


「それでもいい」


ミヤビは微笑む。


「ゆっくりできるところなら」


その言葉に、ユウキの胸が騒いだ。


*


結局、二人は駅前のカラオケに入った。


歌うためではない。


飲み物だけ頼んで、ソファに並んで座る。


「……近くない?」


「二人きりだからいいでしょ」


肩が触れている。


ミヤビがユウキの肩にもたれた。


「ユウキくん」


「ん?」


「キスして」


「入って三分だぞ」


「時間関係ある?」


「ないけど」


顔を上げたミヤビと目が合う。


キス。


一度。


「もう一回」


二度。


「もう一回」


「今日多くない?」


「嫌?」


「嫌じゃない」


三度。


四度。


何度目か分からなくなったころ。


ミヤビはユウキの胸元に頬を寄せた。


ユウキも彼女の肩を抱く。


「ねえ」


「うん」


「このまま時間止まらないかな」


「受験できなくなるぞ」


「雰囲気壊さないでよ」


「ごめん」


ミヤビが笑う。


そしてまた、唇が重なった。


今度は長かった。


離れたあとも。


二人の距離はほとんど変わらない。


額を寄せ合う。


「ユウキくん」


「なに?」


「私のこと、好きになった?」


心臓が跳ねた。


答えを探す。


けれど。


もう本当は分かっていた。


「……たぶん」


「たぶん?」


「かなり」


ミヤビが笑う。


嬉しそうなのに。


なぜか泣きそうにも見えた。


「そっか」


「ミヤビは?」


長い沈黙。


そして。


「私は――」


彼女はユウキの胸に顔を埋める。


答えなかった。


代わりに。


ぎゅっと抱きしめてきた。


*


その夜。


ユウキはまだ知らない。


自分がミヤビに惹かれるほど。


ミヤビの中では、別の恐怖が大きくなっていることを。


秘密がばれたら終わる。


けれど秘密を抱えたまま近づけば、もっと傷つける。


それでも。


金曜日が来るたび。


ミヤビはユウキに会いたくなる。


キスしたくなる。


抱きしめられたくなる。


そして――。


金曜日だけでは足りないと思い始めていた。


次の金曜日。


二人はついに。


「友達以上」という曖昧な言葉を捨てることになる。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


ユウキたちの物語を少しでも「続きが気になる」「面白かった」と思っていただけましたら、評価をいただけると、とても励みになります。


また、


「このシーンが好き!」

「このキャラを応援したい!」

「ここからどうなるの!?」

「自分ならこうする!」


など、短い一言でも大歓迎です。


皆様の感想・コメント・レビュー、楽しく読ませていただきます。


特に推しキャラについて語っていただけるのも嬉しいです。


ユウキ、ミヤビ、アヤネ、イノリ、アグリ――。


物語が進むにつれて、それぞれの恋や選択も大きく動いていきます。


誰を好きになるか。


誰を応援するか。


ぜひ皆様自身の目で見届けてください。


そして、続きも読んでみたいと思っていただけましたら、作品のフォロー・ブックマークもしていただけると嬉しいです。


それでは、次のお話で。


次回もよろしくお願いします!

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