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金曜日に別れた君と、もう一度恋をする。  作者: こよみん


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27/30

第3期 第1話 南イノリは、待っていた

挿絵(By みてみん)


四月。


大学二年生。


新しい講義。


新しい教室。


新しい時間割。


そして。


佐藤ユウキの隣には。


もう桜井アヤネはいない。


*


「ユウキ、おはよ!」


朝。


キャンパスの正門。


大西アグリが手を振る。


「おはよう」


「顔死んでる」


「朝一だから」


「ほんと?」


「ほんと」


「アヤネのこと考えてた?」


ユウキは。


少しだけ。


黙った。


「……ちょっと」


「そっか」


アグリは。


それ以上。


聞かなかった。


*


カナダへ行ったアヤネとは。


連絡を取っている。


毎日ではない。


でも。


数日に一度。


写真。


メッセージ。


時々。


ビデオ通話。


『雪すごい!』


『こっちまだ春』


『時差つらい』


『寝ろ』


『ユウキが冷たい』


『今そっち午前二時だぞ』


そんなやり取り。


以前より。


距離は遠い。


でも。


完全に切れたわけではない。


それが。


良いのか悪いのか。


まだ分からなかった。


*


「佐藤くん」


声。


振り返る。


南イノリ。


白いシャツ。


淡い色のカーディガン。


長い髪。


いつも通り。


静かな表情。


「おはようございます」


「おはよう」


「新学期初日から寝不足ですか?」


「分かる?」


「目の下」


「みんな俺の顔見すぎじゃない?」


「見ていますから」


「……え?」


イノリは。


一瞬止まる。


そして。


「人の顔は見て話すものです」


「そっちか」


「他に何が?」


「何でもない」


少しだけ。


イノリの耳が赤かった。


*


三人で。


講義室へ向かう。


「アグリ」


「ん?」


「時間割同じ?」


「午前は同じ」


「イノリは?」


「一限だけです」


「じゃあ二限別か」


「はい」


「寂しい?」


アグリが。


ニヤニヤしながら言う。


イノリは。


真顔で。


「少し」


答えた。


「え」


アグリが止まる。


ユウキも。


少し驚く。


「……何ですか?」


「いや」


アグリが。


イノリを見る。


「今年のイノリ、攻める?」


「何を?」


「なんでもない」


そのとき。


ユウキだけ。


意味が分かっていなかった。


*


講義。


教授。


黒板。


数式。


ユウキは。


久しぶりに。


集中できていた。


横。


イノリ。


ノートを取る。


十五分後。


小さな紙。


机の上。


『ここ分かりません』


ユウキは。


横を見る。


イノリは。


黒板を見たまま。


『あとで』


紙に書く。


戻す。


しばらくして。


もう一枚。


『今は?』


『授業中』


『先生より佐藤くんの方が分かりやすいです』


『聞け』


『嫌です』


『なんで』


『佐藤くんに教えてほしいので』


ユウキの手が。


止まった。


横を見る。


イノリは。


まだ。


黒板を見ている。


でも。


頬が。


少し赤い。


*


講義終了。


「イノリ」


「はい」


「今の」


「数学の質問ですね」


「違う」


「では何でしょう」


「……いや」


イノリが。


少し笑う。


「佐藤くん」


「何?」


「放課後」


「うん」


「教えてください」


「数学?」


「はい」


「ほんとに数学?」


「何だと思ったんですか?」


「何でもない」


「そうですか」


また。


笑った。


*


昼。


学食。


ユウキ。


アグリ。


イノリ。


三人。


アヤネの席だけ。


空いている。


「……なんか変」


アグリが言う。


「何が?」


「四人だったじゃん」


「そうだな」


「アヤネ、うるさかったし」


「それ本人に言え」


「もう言ってる」


「強い」


イノリは。


静かに。


空いた席を見る。


「でも」


「ん?」


「戻ってきたら」


小さく笑う。


「また四人ですね」


ユウキは。


その言葉を聞いて。


少しだけ。


胸が痛んだ。


*


戻ってきたら。


二年後。


自分たちは。


どうなっているのだろう。


*


「ユウキ」


アグリが言う。


「止まった」


「何が?」


「顔」


「また?」


「アヤネ?」


「……まあ」


「まだ好き?」


今度は。


アグリ。


遠慮しなかった。


ユウキは。


少し考える。


「好きだよ」


「そっか」


「でも」


「うん」


「前とは違う」


「どう違う?」


「分からない」


正直だった。


*


イノリは。


何も言わない。


でも。


箸を持つ手が。


少しだけ。


止まっていた。


*


放課後。


図書館。


二人。


ユウキと。


イノリ。


「ここ」


「はい」


「この式変形して」


「こう?」


「違う」


「……難しいです」


「高校の範囲だぞ」


「忘れました」


「またか」


「桜井さんみたいですね」


ユウキの動きが。


一瞬止まる。


イノリが。


すぐに。


「すみません」


「いや」


「言わない方がよかったですね」


「大丈夫」


「……ほんとに?」


「うん」


*


「イノリ」


「はい」


「アヤネと連絡取ってる?」


「時々」


「何話す?」


「秘密です」


「え」


「女同士なので」


「怖い」


「佐藤くんの悪口も」


「やめろ」


「冗談です」


「イノリも冗談言うんだな」


「失礼ですね」


少し。


空気が軽くなった。


*


勉強。


一時間。


二時間。


外。


夕方。


「今日はここまで」


「ありがとうございます」


「分かった?」


「半分」


「低い」


「でも」


イノリが。


ノートを閉じる。


「楽しかったです」


「数学が?」


「佐藤くんといた時間が」


また。


直球。


*


ユウキは。


言葉に詰まる。


「イノリ」


「はい」


「そういうこと」


「何ですか?」


「簡単に言う?」


「簡単ではないです」


イノリは。


ユウキを見る。


真っ直ぐ。


「ずっと言えなかったので」


ユウキの胸が。


小さく鳴った。


*


「……ずっと?」


「はい」


「いつから?」


イノリは。


少しだけ。


目を逸らした。


「一年生の春」


「そんな前?」


「はい」


「俺、アヤネと付き合ってた」


「知ってます」


「じゃあ」


「だから言いませんでした」


「……」


「恋人がいる人に告白する趣味はないので」


以前も。


聞いた言葉。


*


「でも今は」


イノリが言う。


「誰の恋人でもない」


「……」


「違いますか?」


「違わない」


「では」


少し。


頬を赤くして。


「少しくらい」


「うん」


「期待してもいいですか?」


*


ユウキは。


すぐに。


答えられなかった。


アヤネ。


ミヤビ。


過去。


そして。


今。


目の前。


イノリ。


*


「俺」


ユウキが言う。


「まだ」


「分かってます」


「何も言ってないけど」


「分かります」


「便利だな」


「見ているので」


今度は。


誤魔化さなかった。


*


「私は」


イノリは続ける。


「急ぎません」


「またそれ?」


「また?」


「アヤネも言ってた」


「……そうですか」


少しだけ。


複雑そう。


「でも」


「うん」


「私は私です」


その言葉。


前にも。


聞いた。


『私は桜井アヤネです』


胸の奥に。


少しだけ。


温かいものが生まれた。


*


図書館を出る。


並んで歩く。


駅。


夕方。


「佐藤くん」


「何?」


「一つお願いがあります」


「内容による」


「今度の日曜日」


「うん」


「二人で出かけませんか?」


「デート?」


ユウキが。


冗談半分で言った。


イノリは。


止まった。


*


そして。


「はい」


と答えた。


*


今度は。


ユウキが止まる。


「……はい?」


「デートです」


「本気?」


「本気です」


「俺、まだ」


「付き合ってほしいとは言いません」


「……」


「ただ」


イノリは。


少し笑う。


「一度くらい」


「うん」


「女の子として見てほしいです」


*


日曜日。


駅前。


ユウキは。


少し早く着いた。


五分。


十分。


「佐藤くん」


声。


振り返る。


*


そこに。


いつもとは。


違うイノリがいた。


淡いクリーム色のワンピース。


小さなバッグ。


髪も。


少しだけ。


いつもより整えている。


「……どうですか?」


「何が?」


「服」


「似合ってる」


イノリが。


目を丸くする。


「即答ですね」


「聞いたから」


「……ありがとうございます」


頬が赤い。


*


「今日はどこ?」


「水族館です」


「王道」


「調べました」


「何を?」


「デートスポット」


「本気だな」


「本気だと言ったでしょう」


「そうだった」


イノリが。


少し前を歩く。


そして。


振り返る。


「行きましょう」


ユウキは。


その後を。


追った。


*


水族館。


青い光。


大きな水槽。


魚。


「綺麗」


イノリが。


少しだけ。


子供みたいに笑う。


「魚好き?」


「好きです」


「知らなかった」


「言ってませんから」


「他に何好き?」


「数学は嫌いです」


「それは知ってる」


「甘いもの」


「普通」


「静かな場所」


「それも分かる」


「佐藤くん」


ユウキの足が。


止まる。


イノリは。


正面を向いたまま。


「今のは」


少しだけ。


耳が赤い。


「好きなものの続きです」


*


「……攻めるな」


「一年待ちましたから」


「アヤネ出国してまだ一週間くらいだぞ」


「告白はしてません」


「十分近い」


「嫌ですか?」


ユウキは。


答える。


「嫌じゃない」


イノリは。


少しだけ。


嬉しそうに笑った。


*


クラゲの水槽。


青い光。


二人。


並んで座る。


「綺麗ですね」


「うん」


「佐藤くん」


「何?」


「今日は」


「うん」


「桜井さんのこと考えました?」


直球。


ユウキは。


少し驚く。


「考えた」


「何回くらい?」


「数えてない」


「そうですか」


「嫌?」


「嫌です」


即答。


「でも」


「うん」


「仕方ないです」


イノリは。


水槽を見る。


「私は」


「うん」


「桜井さんに勝ちたいわけではありません」


「……」


「仁科さんにも」


ユウキが。


目を向ける。


*


「誰から」


「桜井さんから少し聞きました」


「……そっか」


「詳しくは聞いてません」


「うん」


「でも」


イノリは。


ユウキを見る。


「過去の人に勝って」


「うん」


「私を選んでほしいわけじゃないです」


「じゃあ?」


「今の私を見て」


少し。


声が震える。


「今の私を好きになってほしいです」


*


ユウキは。


何も言えなかった。


ただ。


目の前の。


南イノリを見る。


静かで。


冷静で。


でも。


思ったよりずっと。


真っ直ぐで。


怖がりで。


頑張っている。


*


帰り。


夕方。


駅まで。


並んで歩く。


「今日はありがとう」


ユウキが言う。


「こちらこそ」


「楽しかった」


イノリの歩みが。


止まる。


「……ほんとですか?」


「ほんと」


「社交辞令では?」


「違う」


「そうですか」


そして。


小さく。


「よかった」


と言った。


*


駅前。


「じゃあ」


イノリが。


少しだけ。


迷う。


「また」


「うん」


「デートしてくれますか?」


ユウキも。


少し考えて。


「いいよ」


イノリの目が。


明るくなる。


「ほんと?」


「ほんと」


「では」


手を差し出す。


「次まで」


「何?」


「握手」


「なんで?」


「今日はここまで」


「区切り?」


「はい」


ユウキも。


手を出す。


*


握る。


ただの。


握手。


なのに。


イノリの手は。


少し震えていた。


「緊張してる?」


「……してません」


「震えてる」


「気のせいです」


「そういうことにしとく」


手を離す。


イノリは。


ほんの少し。


名残惜しそうだった。


*


その夜。


スマートフォン。


アヤネから。


『今日何してた?』


ユウキの指が。


止まる。


嘘をつく理由は。


ない。


『イノリと水族館』


既読。


しばらく。


返信なし。


*


そして。


『デート?』


ユウキは。


正直に。


『たぶん』


送る。


*


一分。


二分。


五分。


*


『そっか』


*


続けて。


『楽しかった?』


*


『楽しかった』


*


既読。


長い沈黙。


そして。


『よかった』


*


最後。


『約束したもんね』


『私を待たないでって』


*


ユウキは。


その文章を。


長く見つめた。


*


遠いカナダ。


アヤネは。


スマートフォンを。


胸元へ抱いていた。


「……よくないよ」


一人。


小さく。


呟く。


涙。


一滴。


*


一方。


日本。


イノリのスマートフォン。


メッセージ。


ユウキから。


『今日はありがとう』


続けて。


『また行こう』


*


イノリは。


ベッドの上で。


その文章を。


何度も。


読み返した。


そして。


初めて。


枕へ顔を埋めて。


声を殺して。


笑った。


*


まだ。


恋人ではない。


手も。


握手しかしていない。


キスなんて。


遠い。


それでも。


南イノリにとって。


一年間。


閉じたままだった恋が。


ようやく。


動き始めた。


次のデート。


イノリは。


ユウキの手を。


握手ではなく。


恋人みたいに繋ぎたい


と。


初めて。


願うことになる。


第3期 第1話 了

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


ユウキたちの物語を少しでも「続きが気になる」「面白かった」と思っていただけましたら、評価をいただけると、とても励みになります。


また、


「このシーンが好き!」

「このキャラを応援したい!」

「ここからどうなるの!?」

「自分ならこうする!」


など、短い一言でも大歓迎です。


皆様の感想・コメント・レビュー、楽しく読ませていただきます。


特に推しキャラについて語っていただけるのも嬉しいです。


ユウキ、ミヤビ、アヤネ、イノリ、アグリ――。


物語が進むにつれて、それぞれの恋や選択も大きく動いていきます。


誰を好きになるか。


誰を応援するか。


ぜひ皆様自身の目で見届けてください。


そして、続きも読んでみたいと思っていただけましたら、作品のフォロー・ブックマークもしていただけると嬉しいです。


それでは、次のお話で。


次回もよろしくお願いします!

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