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金曜日に別れた君と、もう一度恋をする。  作者: こよみん


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28/28

第3期 第2話 握手じゃなくて、手を繋ぎたい

挿絵(By みてみん)


二度目のデートは。


一週間後の日曜日になった。


待ち合わせは午前十一時。


場所は駅前。


佐藤ユウキが到着すると。


南イノリは。


もうそこにいた。


*


「早いな」


「佐藤くんが遅いんです」


「十分前だけど」


「私は二十五分前です」


「それはイノリが早い」


「……楽しみだったので」


さらっと。


そういうことを言う。


「今日も飛ばすな」


「何がですか?」


「なんでもない」


イノリは。


小さく笑った。


*


今日のイノリは。


薄い青のブラウスに。


白いロングスカート。


前回より。


少しだけ大人っぽい。


「……佐藤くん」


「何?」


「今日」


「うん」


「何かありませんか?」


「何が?」


イノリの眉が。


わずかに下がる。


「ありませんか」


「……髪?」


「はい」


「変えた?」


「少し巻きました」


「似合ってる」


「ありがとうございます」


嬉しそう。


でも。


「気づくまで二十二秒」


「測ってたの?」


「減点です」


「何点満点?」


「百点」


「今何点?」


「七十八点」


「結構ある」


「顔がいいので」


「そこ加点されるんだ」


「かなり」


真顔。


冗談なのか。


本気なのか。


まだ。


分からない。


*


「今日はどこ行く?」


「決めてあります」


「また?」


「デートですから」


「今度は?」


「プラネタリウム」


「また王道」


「調べました」


「検索履歴見てみたい」


「駄目です」


「なんで」


「『二回目のデート 距離の縮め方』があります」


「言ってるじゃん」


イノリが。


固まった。


「……忘れてください」


「無理」


「今すぐ」


「無理です」


イノリの頬が。


一気に赤くなった。


*


電車。


日曜日。


それなりに混んでいる。


二人。


並んで立つ。


吊革。


電車が揺れる。


「っ」


イノリの身体が。


ユウキの方へ傾く。


肩。


触れる。


「大丈夫?」


「はい」


離れる。


また揺れる。


今度は。


イノリの手が。


ユウキの腕を掴んだ。


「すみません」


「いいよ」


「……」


でも。


離さない。


「イノリ?」


「揺れるので」


「今止まってる」


駅。


停車中。


「……次、揺れます」


「そうだな」


ユウキは。


何も言わなかった。


*


目的地。


プラネタリウム。


上映まで三十分。


「飲み物買う?」


「はい」


カフェ。


「何飲む?」


「カフェラテ」


「甘いやつ?」


「甘いやつです」


「意外」


「どういうイメージなんですか」


「ブラック」


「苦いの嫌いです」


「ほんと意外」


「佐藤くん」


「何?」


「私のこと」


ストローを。


くるくる回す。


「まだ全然知らないですね」


「まあ」


「これから知ってください」


ユウキが。


一瞬。


言葉に詰まる。


「……うん」


「はい」


イノリは。


満足そうに。


カフェラテを飲んだ。


*


プラネタリウム。


暗い。


隣。


イノリ。


天井に。


星空が広がる。


「綺麗」


「うん」


小さな声。


解説。


音楽。


静かな時間。


そして。


ユウキは気づく。


肘掛け。


イノリの左手。


自分の右手。


近い。


*


指先。


あと。


数センチ。


イノリの小指が。


ほんの少し。


動く。


近づく。


止まる。


戻る。


また。


近づく。


ユウキは。


星より。


そっちが気になった。


「……イノリ」


「はい」


「手」


「何でしょう」


「さっきから」


「星を見てください」


「いや」


「星を」


声が。


少し上ずっている。


*


ユウキは。


少し考えて。


手のひらを。


上向きにした。


「……え」


イノリが。


小さく声を漏らす。


「繋ぎたいんじゃないの?」


暗闇でも。


イノリの顔が。


赤くなったのが分かった気がした。


「……」


「違った?」


数秒。


そして。


イノリの指先が。


ユウキの手へ触れた。


*


最初は。


小指。


次に。


薬指。


最後。


手のひら。


重なる。


でも。


握らない。


ただ。


乗せているだけ。


「これでいい?」


ユウキが聞く。


「……駄目です」


「え?」


「握手みたいです」


そして。


イノリが。


勇気を出すように。


指を。


一本ずつ。


絡めてきた。


*


恋人繋ぎ。


「……これがいいです」


小さな声。


ユウキの心臓が。


大きく鳴る。


「イノリ」


「星を見てください」


「顔赤くない?」


「暗いので見えません」


「声震えてる」


「解説を聞いてください」


「全然聞いてないだろ」


「佐藤くんのせいです」


「俺?」


「はい」


ぎゅ。


握る力が。


少し強くなった。


*


上映が終わる。


照明。


明るくなる。


でも。


手は。


繋いだまま。


「終わったぞ」


「知っています」


「離さないの?」


「……」


イノリは。


ユウキを見る。


「離した方がいいですか?」


その聞き方。


ずるい。


「別に」


「では」


また。


ぎゅ。


「このままで」


二人は。


手を繋いだまま。


プラネタリウムを出た。


*


昼食。


向かい合わせ。


ここでは。


さすがに手を離す。


イノリは。


自分の左手を。


じっと見ていた。


「どうした?」


「いえ」


「何かついてる?」


「違います」


「じゃあ?」


「さっきまで」


少し。


口元が緩む。


「佐藤くんの手があったな、と」


「……」


「何ですか?」


「イノリって」


「はい」


「思ったより恋愛するとポンコツになる?」


「なりません」


「今結構」


「なりません」


「二回言った」


「佐藤くん」


「はい」


「減点します」


「横暴」


「現在六十五点です」


「落ちてる」


「手を繋いだので八十五点に戻します」


「採点基準どうなってんの?」


「私にも分かりません」


「ポンコツじゃん」


「違います」


今度は。


二人で笑った。


*


午後。


本屋。


雑貨屋。


カフェ。


何でもない場所を。


二人で歩く。


そして。


店を出るたび。


イノリが。


ユウキの右手を見る。


でも。


自分からは。


なかなか触れない。


*


三回目。


ユウキが。


「繋ぐ?」


と聞いた。


「……はい」


すぐ。


手。


重なる。


四回目。


「繋ぐ?」


「聞かなくてもいいです」


五回目。


店を出た瞬間。


イノリが。


自分から。


小指を引っかけた。


そこから。


指を絡める。


*


「慣れた?」


「少し」


「朝より積極的」


「学習しました」


「優秀」


「数学以外は」


「そこ自覚あるんだ」


「数学もこれから頑張ります」


「なんで?」


「佐藤くんが教えてくれるので」


「理由それ?」


「はい」


「俺が教えなくなったら?」


「困ります」


即答。


「勉強が?」


イノリは。


ユウキを見る。


「会う理由が一つ減ります」


「……」


「なので困ります」


また。


心臓が鳴った。


*


夕方。


川沿い。


二人。


並んで歩く。


夕日。


「楽しかったです」


「まだ終わってない」


「先に言いました」


「俺も楽しかった」


「……ありがとうございます」


「今日は何点?」


「百二点」


「満点超えてる」


「手を繋いでくれたので」


「そんな加点?」


「大きいです」


「じゃあ」


ユウキは。


冗談っぽく聞いた。


「次は何したら百五十点?」


イノリが。


止まった。


*


「……聞きたいですか?」


「え?」


イノリは。


ユウキの手を。


握ったまま。


少しだけ。


近づく。


「百五十点にする方法」


「何?」


イノリが。


自分の唇へ。


ほんの一瞬。


視線を落とした。


そして。


すぐ逸らした。


「……まだ教えません」


「今絶対分かった」


「分かってません」


「いや」


「分かってません」


「二回言った」


「忘れてください」


耳まで。


真っ赤だった。


*


「イノリ」


「はい」


「俺」


「はい」


ユウキは。


少しだけ。


真面目な声になる。


「まだ、そこまでは」


イノリの表情が。


止まる。


でも。


すぐ。


微笑んだ。


「分かっています」


「ごめん」


「謝らないでください」


「でも」


「今日」


繋いだ手を。


見せる。


「これだけで十分です」


「……」


「昨日まで」


イノリは言う。


「佐藤くんと手を繋ぐことすら」


「うん」


「私にはできないことだったので」


その言葉。


軽くない。


*


「私は」


イノリが。


夕日を見る。


「桜井さんがいなくなったから」


「……」


「急に空いた場所へ入りたいわけじゃありません」


「分かってる」


「本当に?」


「うん」


「なら」


イノリが。


ユウキを見る。


「ゆっくりでいいです」


「……」


「ただ」


「何?」


「逃げないでください」


「逃げる?」


「私が好きだと分かってるからって」


「うん」


「見ないふりはしないでください」


ユウキは。


しばらく黙る。


そして。


「分かった」


と答えた。


*


「ちゃんと」


ユウキは。


イノリを見る。


「見るよ」


「……はい」


「それで」


「はい」


「俺が好きになったら」


イノリの瞳が。


少し大きくなる。


「そのときは俺から言う」


「……」


「だから待ってて」


イノリは。


俯いた。


*


「イノリ?」


「ずるいです」


「何が?」


「それ」


「え?」


「そんなこと言われたら」


顔を上げる。


目元が。


少しだけ潤んでいた。


「期待するに決まってるじゃないですか」


「ごめん」


「謝らないでください」


「今日それ何回目?」


「佐藤くんが謝るからです」


「じゃあ」


「はい」


「期待していいよ」


イノリが。


完全に固まった。


*


「……佐藤くん」


「何?」


「今の」


「うん」


「百四十点です」


「まだ百五十じゃないんだ」


「あと十点は」


一瞬。


唇を見る。


「……予約です」


「やっぱりそれキスだろ」


「言ってません」


「顔に書いてある」


「見ないでください」


「ちゃんと見ろって言ったのイノリだろ」


「今だけ禁止です」


珍しく。


イノリが。


本気で慌てていた。


*


駅。


別れ際。


手を離す。


「じゃあ」


「はい」


「また大学で」


「はい」


イノリが。


二歩。


歩く。


止まる。


戻ってくる。


「どうした?」


「……一つだけ」


「何?」


「今日」


「うん」


「佐藤くんから手を繋いでくれたの」


「うん」


「嬉しかったです」


「そっか」


「なので」


少しだけ。


背伸び。


*


ちゅ。


*


唇ではない。


ユウキの頬。


ほんの一瞬。


柔らかい感触。


「……え」


ユウキが。


固まる。


イノリも。


固まる。


*


「……」


「……」


「イノリ?」


「忘れてください」


「無理」


「今すぐ」


「いや無理だろ」


「事故です」


「自分から来たよな?」


「事故です」


「どんな事故?」


「……帰ります」


「逃げた」


「逃げてません」


「顔真っ赤」


「見ないでください!」


*


イノリは。


逃げるように。


改札へ向かった。


でも。


途中で。


振り返る。


「佐藤くん!」


「何?」


「今の!」


「うん!」


「百五十点には入りませんから!」


「採点する側そっちだろ!」


「次は!」


一瞬。


迷って。


「ちゃんとしたので!」


そう叫んで。


今度こそ。


消えた。


*


ユウキは。


一人。


頬へ触れる。


まだ。


感触が。


残っている気がした。


「……ちゃんとしたのって」


意味。


分かってしまった。


「攻めるなあ……」


でも。


嫌ではなかった。


それが。


少し怖くて。


少し嬉しかった。


*


その夜。


イノリの部屋。


「…………」


ベッド。


枕。


その上に。


顔を埋める。


「何してるんですか私は……」


頬が。


熱い。


思い出す。


ユウキの手。


指。


体温。


最後。


頬へのキス。


「……無理」


枕を。


抱きしめる。


スマートフォンが震える。


*


ユウキ。


『今日はありがとう』


『楽しかった』


続けて。


『頬のやつも』


イノリ。


停止。


三秒。


五秒。


十秒。


『忘れてください』


即返信。


『無理』


『事故です』


『自分からだったけど』


『事故です』


『はいはい』


そして。


少し間。


ユウキから。


『でも嬉しかった』


*


イノリは。


画面を見つめる。


顔。


真っ赤。


そして。


返信。


『次は百五十点を取ってください』


*


送信。


「……言ってしまった」


もう。


取り消せない。


*


一方。


ユウキの部屋。


そのメッセージを見る。


『次は百五十点を取ってください』


「……それ」


思わず。


笑う。


「俺からってこと?」


スマートフォン。


もう一件。


『佐藤くんから、です』


*


ユウキの心臓が。


また。


鳴った。


そして。


その直後。


別の通知。


海外から。


桜井アヤネ。


『ユウキ』


『今、電話できる?』


*


ユウキの指が。


止まる。


数秒前まで。


イノリとの次のデートを。


考えていた。


なのに。


その名前を見るだけで。


まだ。


胸の奥が。


揺れる。


*


通話ボタン。


「もしもし」


『ユウキ?』


久しぶりに聞く。


アヤネの声。


「どうした?」


『……声』


「ん?」


『聞きたくなっただけ』


沈黙。


*


『元気?』


「元気」


『大学楽しい?』


「まあまあ」


『イノリとは?』


その質問。


ユウキは。


嘘をつかなかった。


「今日もデートした」


電話の向こう。


沈黙。


*


『……そっか』


「うん」


『手』


「え?」


『繋いだ?』


「……繋いだ」


また。


沈黙。


*


『キスは?』


ユウキは。


答えられなかった。


頬。


たった一度。


恋人同士のキスですらない。


それでも。


なぜか。


アヤネに言うことを。


躊躇った。


*


その沈黙だけで。


アヤネには。


伝わってしまった。


『……したんだ』


「違う。頬だけ」


『そっか』


明るい声。


作った声。


ユウキには。


もう分かる。


*


「アヤネ」


『何?』


「無理してない?」


『してないよ』


「嘘」


『……』


「一年近く付き合ったんだから分かる」


電話の向こう。


静かになる。


そして。


小さな声。


『……じゃあ』


『分かってよ』


*


「何を?」


『私』


声が。


震える。


『ユウキを自由にするって決めた』


「うん」


『待たないでって言った』


「うん」


『イノリでもアグリでも』


『好きになったら付き合ってって』


「……うん」


『全部、私が言った』


「アヤネ」


『なのに』


涙声。


『本当にそうなりそうになったら』


『嫌なの』


*


ユウキは。


何も言えなかった。


『最低だよね』


「最低じゃない」


『勝手だよ』


「それくらい普通だろ」


『……ユウキ』


「うん」


『今だけ』


『元カノじゃなくて』


少しだけ。


間。


『アヤネとして話していい?』


「……うん」


*


そして。


アヤネは。


海の向こうから。


ずっと我慢していた言葉を。


初めて。


口にした。


『まだ好き』


『ユウキのこと』


『全然、忘れられてない』


*


春。


日本とカナダ。


離れた二人。


そして。


ユウキの隣へ。


少しずつ近づいているイノリ。


三人の時間が。


静かに。


もう一度。


動き始める。


第3期 第2話 了

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


ユウキたちの物語を少しでも「続きが気になる」「面白かった」と思っていただけましたら、評価をいただけると、とても励みになります。


また、


「このシーンが好き!」

「このキャラを応援したい!」

「ここからどうなるの!?」

「自分ならこうする!」


など、短い一言でも大歓迎です。


皆様の感想・コメント・レビュー、楽しく読ませていただきます。


特に推しキャラについて語っていただけるのも嬉しいです。


ユウキ、ミヤビ、アヤネ、イノリ、アグリ――。


物語が進むにつれて、それぞれの恋や選択も大きく動いていきます。


誰を好きになるか。


誰を応援するか。


ぜひ皆様自身の目で見届けてください。


そして、続きも読んでみたいと思っていただけましたら、作品のフォロー・ブックマークもしていただけると嬉しいです。


それでは、次のお話で。


次回もよろしくお願いします!

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