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金曜日に別れた君と、もう一度恋をする。  作者: こよみん


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24/30

第2期 第11話 君の未来に、僕はいない

挿絵(By みてみん)


九月。


後期が始まって二週間。


佐藤ユウキは、ようやく気づいた。


最近。


桜井アヤネがおかしい。


「アヤネ」


「ん?」


「今日、家来る?」


以前なら。


『行く!』


即答だった。


けれど。


「……ごめん。今日は用事ある」


「そっか」


「また今度ね」


笑顔。


いつもの笑顔。


なのに。


何かを隠している。


そんな気がした。


*


翌週。


放課後。


「今日、一緒に帰る?」


「ごめん」


また。


「用事?」


「うん」


「最近忙しいな」


「ちょっとね」


アヤネは笑う。


そして。


いつものように。


ユウキの袖を掴んだ。


「怒った?」


「怒ってない」


「ほんと?」


「用事あるなら仕方ないだろ」


「……うん」


一瞬。


アヤネが。


何かを言いたそうにした。


でも。


「じゃあね」


言わなかった。


*


その夜。


メッセージ。


『おやすみ』


以前なら。


ハート。


『好き』


『明日会おうね』


そんな言葉が。


いくつも続いた。


最近は。


短い。


ユウキは。


『おやすみ』


と返す。


少し迷って。


『好きだよ』


送った。


既読。


一分。


二分。


五分。


『私も好き』


返ってきた。


嬉しい。


はずなのに。


なぜか。


胸騒ぎがした。


*


数日後。


昼休み。


「アヤネ最近変じゃない?」


アグリが言った。


「やっぱり?」


「ユウキも思ってた?」


「うん」


イノリが。


静かに箸を置く。


「桜井さん、最近よく国際交流センターにいますよ」


「国際交流?」


ユウキが聞く。


「はい」


「なんで?」


「そこまでは」


イノリは。


少し迷ったあと。


「留学関係かもしれません」


ユウキの手が。


止まった。


*


留学。


その言葉を。


アヤネから。


一度も聞いたことがない。


*


その日の放課後。


「アヤネ」


「ん?」


「話ある」


アヤネの表情が。


ほんの一瞬。


固まった。


「……何?」


「留学するの?」


沈黙。


それだけで。


答えが分かった。


*


「誰から聞いたの?」


「イノリ」


「そっか」


「するの?」


アヤネは。


視線を落とした。


「……まだ決まってない」


「どこ?」


「カナダ」


「いつ?」


「来年」


「期間は?」


「……一年」


一年。


ユウキは。


何も言えなくなった。


*


「いつから考えてた?」


「高校の頃から」


「じゃあ」


胸が痛む。


「俺と付き合う前から?」


「うん」


「なんで言わなかった?」


また。


この質問。


以前。


レンのときにも。


同じことを聞いた。


アヤネの顔が。


苦しそうに歪む。


「言えなかった」


「どうして」


「だって」


声が震える。


「ユウキと付き合えると思ってなかったから」


「付き合ったあと言えたよな」


「……うん」


「何か月あった?」


「分かってる」


「じゃあなんで」


「怖かったから!」


*


アヤネの声が。


誰もいない講義室へ響く。


「言ったら」


涙が浮かぶ。


「終わりができるじゃん」


「……」


「一年後」


「うん」


「私がいなくなるって」


「……」


「考えたくなかった」


ユウキは。


拳を握る。


「でも」


「うん」


「黙ってても、なくならないだろ」


「分かってるよ!」


アヤネの涙が。


落ちた。


*


「私だって分かってる」


「……」


「馬鹿だって」


「アヤネ」


「ユウキと付き合って」


涙を拭う。


「好きになって」


「うん」


「もっと好きになって」


声が。


小さくなる。


「留学なんて、どうでもよくなってきた」


ユウキは。


息を止めた。


「……やめるつもり?」


「分からない」


「アヤネ」


「だって!」


アヤネが。


ユウキを見る。


「一年も離れるんだよ?」


「……」


「毎日会えない」


「うん」


「キスもできない」


「うん」


「抱きしめてもらえない」


「……うん」


「そんなの」


唇を噛む。


「嫌だよ」


*


ユウキは。


アヤネの前へ行く。


「俺も嫌」


「……え?」


「一年会えないとか」


「うん」


「普通に嫌だよ」


「じゃあ」


「でも」


ユウキは。


言った。


「俺のためにやめるな」


アヤネの瞳が。


大きくなる。


*


「なんで……?」


「高校から考えてたんだろ」


「うん」


「行きたいから調べてたんだろ」


「……うん」


「だったら行けよ」


「簡単に言わないで」


「簡単じゃない」


ユウキも。


怖い。


一年。


離れる。


その間に。


何が起きるか。


分からない。


かつて。


一週間のうち。


金曜日しか知らなかった恋人に。


裏切られた。


今度は。


一年。


海の向こう。


怖くないわけがない。


*


「俺」


ユウキは言う。


「たぶん、めちゃくちゃ不安になる」


「……」


「向こうで男友達できたら嫉妬する」


「うん」


「連絡返ってこなかったら心配する」


「うん」


「会いたくなる」


「……うん」


「それでも」


アヤネを見る。


「夢を諦めたアヤネと付き合う方が嫌だ」


*


アヤネは。


泣いた。


「……ずるい」


「何が」


「そんなこと言われたら」


ユウキの胸へ。


飛び込んでくる。


「もっと好きになる」


「それ前も言ってた」


「何回でもなるの!」


背中へ。


腕を回す。


「ユウキ」


「うん」


「怖い」


「俺も」


「離れたくない」


「俺も」


「……キスしたい」


「それも俺も」


アヤネが。


泣きながら笑った。


*


顔を上げる。


ユウキが。


涙を指で拭う。


そして。


一度。


唇を重ねた。


離れる。


「もう一回」


二度目。


「まだ」


三度目。


「アヤネ」


「何?」


「今日何回する気?」


「一年分」


「無理だろ」


「じゃあ今日できるだけ」


四度目。


五度目。


途中で。


アヤネが笑って。


ユウキも笑った。


*


その夜。


アヤネは。


ユウキの部屋へ泊まった。


電気を消して。


同じベッド。


アヤネは。


ユウキの胸へ。


ぴったりと寄り添っていた。


「ユウキ」


「ん?」


「寝た?」


「まだ」


「私も」


「知ってる」


「ねえ」


「何?」


「一年って長い?」


「長い」


「即答しないでよ」


「嘘つけない」


「じゃあ」


アヤネが。


胸元を掴む。


「待っててくれる?」


ユウキは。


すぐ答えた。


「待つよ」


*


「ほんと?」


「うん」


「一年」


「うん」


「他の女の子に告白されても?」


「断る」


「アグリでも?」


「断る」


「イノリでも?」


「断る」


「すごい美人でも?」


「しつこい」


「大事なの」


「断るよ」


「……そっか」


アヤネが。


安心したように。


身体を寄せる。


「私も」


「うん」


「向こうで誰に告白されても断る」


「分かった」


「毎日連絡する」


「時差あるぞ」


「じゃあ毎日できるだけ」


「うん」


「写真送る」


「うん」


「ビデオ通話する」


「うん」


「浮気しない」


その言葉。


ユウキの胸が。


少しだけ痛んだ。


*


アヤネは。


すぐ気づいた。


「……ごめん」


「いや」


「でも」


暗闇の中。


手を探す。


指を絡める。


「ちゃんと言いたかった」


「うん」


「私はしない」


「……信じる」


「ありがとう」


「アヤネ」


「何?」


「俺も」


手を握る。


「アヤネを裏切らない」


「……うん」


小さな声。


泣いているのが。


分かった。


*


しばらくして。


アヤネが。


顔を上げる。


「ユウキ」


「ん?」


「顔見えない」


「暗いから」


「近づけば見える」


「もう近いだろ」


「もっと」


「落ちるぞ」


「落ちたら助けて」


「仕方ないな」


距離を縮める。


額が触れる。


鼻先が触れそうな距離。


「見えた?」


「ちょっと」


「満足?」


「まだ」


「何が足りない?」


答えは。


キスだった。


*


一度。


二度。


静かな夜。


三度目。


唇を離しても。


アヤネは離れなかった。


「……ユウキ」


「うん」


「今日」


少し間。


「もっと抱きしめて」


ユウキは。


腕に力を込める。


アヤネも。


ユウキの背中へ腕を回す。


言葉より。


近く。


二人は。


互いの温もりを確かめた。


*


その夜は。


なかなか眠れなかった。


留学。


一年。


未来。


不安。


それでも。


二人で。


何度も話した。


向こうで何を勉強したいのか。


帰国したら何をしたいのか。


ユウキはどんな仕事をしたいのか。


二人は。


初めて。


「今」より先の話をした。


*


午前三時。


アヤネが。


眠そうな声で言った。


「ユウキ」


「ん?」


「私たち」


「うん」


「一年後も恋人かな」


「それは」


ユウキは。


少し考えて。


「今決めることじゃない」


アヤネの身体が。


少し強張った。


「……そっか」


「違う」


ユウキは続ける。


「一年後も恋人でいられるように」


アヤネの髪を撫でる。


「毎日ちゃんと好きでいる」


沈黙。


そして。


胸元から。


「……百点」


「何が」


「今の答え」


「数学?」


「恋愛」


「初めて満点取った」


「おめでとう」


「ありがとう」


二人で。


小さく笑った。


*


翌朝。


「おはよう」


「……おはよ」


アヤネは。


ユウキの胸元で目を覚ました。


「寝不足」


「三時まで話すから」


「ユウキも話してた」


「アヤネが質問するから」


「楽しかった?」


「楽しかった」


「じゃあいいじゃん」


アヤネが。


眠そうに。


目を閉じる。


「二度寝する」


「大学は?」


「今日午後」


「俺一限」


「……休んで」


「駄目」


「彼女より授業?」


「授業は出ろ」


「真面目」


「それで学年二十位以内だったから」


「高校の話?」


「そう」


アヤネが。


少し笑う。


「そういうユウキ好き」


「知ってる」


「調子乗った」


「アヤネの真似」


「じゃあ罰」


「何?」


おはようのキス。


一度。


「これ罰?」


「私へのご褒美」


「いつものやつ」


二度目。


今度は。


ユウキから。


*


十月。


アヤネは。


正式に留学へ応募した。


ユウキも。


応援すると決めた。


しかし。


十一月。


届いた通知には。


予想していなかった条件が書かれていた。


留学期間。


一年ではない。


成績優秀者向けの特別プログラム。


二年間。


そして。


帰国予定は。


大学四年の春。


就職活動。


卒業。


二人の未来は。


想像していたより。


ずっと大きく。


離れ始める。


*


「……二年」


アヤネは。


通知を握りしめていた。


ユウキは。


何も言えなかった。


一年なら。


待てると思った。


でも。


二年。


大学生活のほとんどを。


別々の国で過ごす。


そしてアヤネが。


震える声で言った。


「ユウキ」


「うん」


「私……」


涙が落ちる。


「行きたい」


その言葉を聞いた瞬間。


ユウキは。


笑った。


苦しいほど。


寂しいのに。


それでも。


「うん」


彼女の夢を。


否定したくなかった。


「行ってこい」


アヤネが。


泣きながら。


ユウキへ抱きついた。


二人はまだ。


知らない。


この選択が。


好きなまま別れるという。


一番苦しい答えへ。


二人を連れていくことを。


第2期 第11話 了

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


ユウキたちの物語を少しでも「続きが気になる」「面白かった」と思っていただけましたら、評価をいただけると、とても励みになります。


また、


「このシーンが好き!」

「このキャラを応援したい!」

「ここからどうなるの!?」

「自分ならこうする!」


など、短い一言でも大歓迎です。


皆様の感想・コメント・レビュー、楽しく読ませていただきます。


特に推しキャラについて語っていただけるのも嬉しいです。


ユウキ、ミヤビ、アヤネ、イノリ、アグリ――。


物語が進むにつれて、それぞれの恋や選択も大きく動いていきます。


誰を好きになるか。


誰を応援するか。


ぜひ皆様自身の目で見届けてください。


そして、続きも読んでみたいと思っていただけましたら、作品のフォロー・ブックマークもしていただけると嬉しいです。


それでは、次のお話で。


次回もよろしくお願いします!

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