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金曜日に別れた君と、もう一度恋をする。  作者: こよみん


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23/29

第2期 第10話 大西アグリは、ちゃんと失恋したい

挿絵(By みてみん)


日曜日。


午後一時。


駅前。


佐藤ユウキは、一人で待っていた。


今日ここへ来ることは。


アヤネにも伝えてある。


『アグリから二人で会いたいって言われた』


そう送ると。


しばらくして。


『分かった。行ってきて』


それだけ返ってきた。


そのあと。


もう一件。


『ちゃんと帰ってきてね、彼氏さん』


ユウキは。


『当たり前』


と返した。


*


「お待たせ!」


声。


振り返る。


大西アグリ。


白いブラウス。


薄い水色のスカート。


いつもの明るい笑顔。


でも。


「……何?」


「いや」


「今日可愛い?」


「自分で聞く?」


「聞かないと言ってくれなさそうだから」


ユウキは少し考えて。


「似合ってる」


アグリの目が丸くなる。


「……そういうの」


「何?」


「彼女できてから上手くなったよね」


「アヤネに鍛えられた」


「そっか」


笑う。


でも。


その笑顔が。


ほんの少しだけ。


寂しそうだった。


*


「今日はどこ行く?」


ユウキが聞く。


「デート」


「……アグリ」


「分かってるって」


アグリは笑った。


「今日だけそう呼ばせて」


「……」


「お願い」


ユウキは。


何も言えなかった。


「まず映画!」


「決めてるの?」


「全部決めてる」


「計画的だな」


「今日くらい」


アグリが。


少しだけ前を歩く。


「私のわがまま聞いてよ」


その背中を。


ユウキは黙って追った。


*


映画。


コメディだった。


恋愛ものではない。


上映中。


アグリはよく笑った。


ユウキも笑った。


手は。


繋がなかった。


肩も。


寄せなかった。


二人の間には。


一席分にも満たない。


でも。


決して越えてはいけない距離があった。


*


映画館を出る。


「面白かった!」


「最後ひどかったな」


「主人公絶対クビだよね」


「会社爆破しかけたからな」


「でも好き」


「何が?」


「こういう映画」


アグリは。


楽しそうだった。


だから。


ユウキも。


今日は普通に過ごそうと思った。


*


昼食。


買い物。


ゲームセンター。


「あ」


アグリが。


クレーンゲームの前で止まる。


猫のぬいぐるみ。


以前。


ユウキが取ったものと。


同じシリーズ。


「やる?」


「うん」


「今日は自分で取れよ」


「無理」


「最初から諦めるな」


「数学的に取って」


「またそれ?」


五百円。


失敗。


七百円。


失敗。


「ユウキ下手になった?」


「うるさい」


九百円。


落ちる。


「取れた!」


「やった!」


二人で。


普通に喜んだ。


*


「はい」


ユウキが渡す。


でも。


アグリは受け取らない。


「いらない」


「欲しかったんじゃないの?」


「ユウキが持ってて」


「俺が?」


「前の猫」


アグリが笑う。


「私が持ってるから」


「ああ」


以前取った猫。


名前を『ユッキー』にすると言っていた。


「だから」


今日取った猫を。


アグリが指差す。


「それ、アグリ」


「自分で自分の名前つける?」


「たまには思い出して」


冗談っぽい。


でも。


冗談ではなかった。


「……分かった」


ユウキは。


ぬいぐるみを受け取った。


*


夕方。


アグリが連れてきたのは。


川沿いだった。


「ここ」


「前にも来たことある」


「アヤネと?」


「……うん」


「聞かなきゃよかった」


「ごめん」


「謝らないでよ」


ベンチ。


並んで座る。


夕日。


川。


風。


そして。


長い沈黙。


*


「ユウキ」


「うん」


「私ね」


アグリが。


前を向いたまま言う。


「今日、告白する」


「……」


「知ってた?」


「なんとなく」


「そっかぁ」


アグリが笑う。


「鈍感卒業したんだ」


「アヤネに散々言われたから」


「またアヤネ」


「ごめん」


「だから謝らないでって」


少し。


沈黙。


「好きなんだね」


「……うん」


「アヤネのこと」


「好きだよ」


「そっか」


アグリは。


空を見上げた。


*


「じゃあ」


立ち上がる。


ユウキの前。


大西アグリ。


いつも笑っている女の子。


いつも冗談を言う女の子。


その彼女の手が。


震えていた。


「ちゃんと聞いて」


「うん」


「一回しか言わないから」


「分かった」


深呼吸。


そして。


笑う。


いつもの。


アグリらしい笑顔で。


「佐藤ユウキ」


初めて。


呼び捨て。


「私、ユウキのことが好き」


*


ユウキは。


何も挟まなかった。


「最初は顔」


「……みんな最初それだな」


「喋らないで!」


「ごめん」


「もう」


笑う。


そして。


続ける。


「入学式の日」


「うん」


「迷子になってたユウキ見て」


「迷子じゃない」


「喋らない」


「はい」


「面白い人だと思った」


「それ褒めてる?」


「ユウキ」


「黙ります」


アグリが。


また笑った。


*


「一緒にいて楽しくて」


「うん」


「優しくて」


「うん」


「たまに鈍くて」


「……うん」


「アヤネが好きになった理由も」


少しだけ。


声が震える。


「分かる」


「アグリ」


「私の方が先だったら」


その言葉。


ユウキの胸に。


刺さる。


「何か変わったかな」


答えられない。


「……ごめん」


「謝らないで」


「でも」


「私が遅かっただけ」


アグリは。


笑った。


*


「だから」


深呼吸。


「付き合ってください」


ユウキは。


目を逸らさなかった。


これは。


ちゃんと。


答えなければいけない。


「ごめん」


アグリの唇が。


少し震えた。


「俺は」


「うん」


「アヤネが好きだ」


「……うん」


「だから」


「分かった」


アグリが。


先に言った。


「そこまで」


「え?」


「それ以上言われたら本当に泣く」


もう。


目には。


涙が溜まっていた。


*


「……そっか」


アグリが。


手の甲で涙を拭う。


「失恋って」


笑おうとする。


「結構痛いね」


「アグリ」


「でも」


一滴。


落ちる。


「言ってよかった」


「……」


「ずっと隠して」


「うん」


「友達のふりして」


「うん」


「いつかアヤネと別れないかな、とか」


「……」


「最低なこと考えてた」


「最低じゃないだろ」


「最低だよ」


「思うだけなら」


ユウキは言う。


「誰にも迷惑かけてない」


アグリが。


目を見開く。


「そういうところ」


「何?」


「好きだった」


過去形。


その言葉を。


無理やり。


選んだのだと分かった。


*


「ねえ」


アグリが。


両手を広げる。


「最後に一個だけ」


「何?」


「抱きしめて」


ユウキは。


答えられなかった。


「恋人みたいな意味じゃない」


アグリが言う。


「ちゃんと終わらせたいから」


それでも。


ユウキは。


すぐには動かなかった。


「アヤネに」


「……うん」


「聞いてからじゃ駄目?」


アグリが。


一瞬。


驚いて。


そして。


泣きながら笑った。


「ほんっと」


「何?」


「そういうところだよ」


「悪い?」


「ううん」


アグリは。


広げていた腕を下ろした。


「それでいい」


「……ごめん」


「今日何回謝るの」


「結構」


「禁止」


「分かった」


「じゃあ代わりに」


アグリが。


拳を差し出す。


「これ」


ユウキも。


拳を合わせる。


こつん。


「友達?」


ユウキが聞く。


「……今日だけは無理」


「そっか」


「明日から」


アグリは。


涙を拭う。


「また友達になる」


「分かった」


「待ってて」


「待つよ」


*


帰宅。


ユウキは。


すぐアヤネへ電話した。


『もしもし?』


「今帰った」


『おかえり』


「話がある」


少し沈黙。


『……告白された?』


「うん」


『そっか』


「断った」


『うん』


声が。


少しだけ。


安心したように聞こえた。


「それで」


『何?』


「アグリに、最後に抱きしめてって言われた」


沈黙。


『……したの?』


「してない」


『なんで?』


「アヤネに聞いてからにしようと思った」


電話の向こう。


完全に。


無言になった。


*


「アヤネ?」


『……馬鹿』


「なんで」


『そういうことされると』


声が。


少し震えている。


『もっと好きになるじゃん』


「もう付き合ってるだろ」


『関係ない』


「それで」


ユウキは聞く。


「もし今度アグリが」


『うん』


「友達としてなら」


アヤネは。


少し考えた。


『嫌』


「正直だな」


『めちゃくちゃ嫌』


「うん」


『でも』


少し間。


『アグリがちゃんと諦めるためなら』


「……」


『一回だけ』


「いいの?」


『ただし』


「何?」


『キスは禁止』


「するわけないだろ」


『手繋ぐのも禁止』


「分かった」


『あと十秒』


「細かいな」


『彼女ですから』


「出た」


電話の向こうで。


アヤネが笑った。


*


翌日。


大学。


アグリは。


来なかった。


次の日も。


休み。


三日目。


「おはよ!」


いつもの声。


ユウキが振り返る。


アグリ。


「……大丈夫?」


「何が?」


「いや」


「失恋?」


自分で言う。


「まだ痛い」


「そっか」


「でも来た」


「うん」


「約束したから」


アグリが。


拳を差し出す。


「友達に戻りに」


ユウキも。


拳を合わせた。


「おかえり」


「ただいま」


*


そのとき。


後ろから。


「アグリ」


アヤネ。


二人。


見つめ合う。


「……アヤネ」


「聞いた」


「そっか」


「ごめん」


アグリが。


頭を下げる。


「好きになって」


アヤネは。


しばらく黙っていた。


そして。


「それは謝ることじゃない」


アグリが顔を上げる。


「でも」


アヤネが。


ユウキの腕へ抱きつく。


「渡さないから」


「……」


「ユウキは私の彼氏」


「分かってる」


「まだ好き?」


アグリは。


少し考えて。


「好き」


アヤネの眉が動く。


「でも」


アグリは。


笑った。


「もう追いかけない」


アヤネは。


その言葉を。


真っ直ぐ受け止めた。


「……ありがとう」


*


昼。


三人。


そして。


イノリ。


四人で学食。


「何この空気」


アグリが言う。


「重い」


「あなたのせいでは?」


イノリが冷静に返す。


「イノリ辛辣!」


「事実です」


「慰めてよ!」


「失恋したんですか?」


「知ってたでしょ!」


「確認です」


「性格悪い!」


ユウキと。


アヤネが笑う。


少しずつ。


いつもの四人に戻っていく。


*


食事のあと。


イノリが。


アグリを呼び止めた。


「大西さん」


「ん?」


「少しだけ尊敬します」


「え?」


「ちゃんと言ったから」


イノリは。


ユウキを見る。


そして。


アヤネを見る。


「私は」


小さく。


「言えませんでしたから」


アグリが。


イノリの肩を叩く。


「言わなくて正解」


「そうでしょうか」


「うん」


アグリは笑う。


「めちゃくちゃ痛い」


「……でしょうね」


「でも」


空を見る。


「ちゃんと終われる」


その言葉に。


イノリは。


何も返さなかった。


*


その日の放課後。


「ユウキ」


アヤネが。


待っていた。


「家行く」


「決定?」


「決定」


「数学は?」


「夏休み」


「次の試験に備えろ」


「今日は彼女優先」


「いつもだろ」


手を繋ぐ。


「ね」


「何?」


「アグリに告白されて」


「うん」


「ちょっと嬉しかった?」


「なんで?」


「可愛い女の子だし」


「……」


「今の間なに?」


「いや」


「ユウキ?」


「客観的には可愛いと思う」


「へえ」


「でも好きなのはアヤネ」


「……」


「何?」


「先にそれ言って」


「聞かれたから答えただけだろ」


「罰」


「何の?」


「今日キス十回」


「罰なの?」


「私へのご褒美」


「理不尽」


アヤネは。


楽しそうに笑った。


*


ユウキの部屋。


玄関が閉まる。


二人きり。


アヤネは。


鞄を置くより先に。


ユウキへ抱きついた。


「……どうした?」


「我慢してた」


「何を?」


「嫉妬」


「やっぱり?」


「当たり前でしょ」


胸元へ。


顔を埋める。


「アグリ可愛いし」


「うん」


「明るいし」


「うん」


「ユウキと仲いいし」


「うん」


「怖かった」


「……」


「もし」


アヤネの腕に。


力が入る。


「アグリの方がいいって言われたらって」


ユウキは。


その背中へ腕を回した。


*


「言わないよ」


「ほんと?」


「うん」


「私?」


「アヤネ」


「誰が好き?」


「桜井アヤネ」


「どれくらい?」


「面倒くさいくらい」


「ひどい」


「好きだよ」


「……もう一回」


「好き」


アヤネが。


顔を上げる。


「じゃあ」


「うん」


「キス」


一度。


軽く。


離れる。


「二回目」


「今日の?」


「十回するんでしょ」


「本気だったの?」


「もちろん」


二度目。


三度目。


四度目。


途中で。


二人とも。


何回目か分からなくなった。


*


やがて。


アヤネは。


ユウキの肩へ頭を預けた。


ソファ。


二人。


身体を寄せる。


「ねえ」


「うん」


「今日」


「何?」


「泊まっていい?」


「また?」


「だめ?」


「明日予定ないし」


「じゃあ」


アヤネが。


指を絡める。


「朝まで一緒」


「うん」


「約束」


「約束」


*


夜。


同じベッド。


灯りを消して。


アヤネは。


ユウキの胸元へ寄り添う。


「ユウキ」


「何?」


「今日ちょっとだけ」


「うん」


「アグリに嫉妬した分」


抱きしめる腕が。


強くなる。


「いっぱい甘えていい?」


「いいよ」


「じゃあ離さない」


「寝返りできない」


「我慢して」


「横暴」


「彼女だから」


「便利すぎる」


暗闇。


アヤネが笑う。


ユウキは。


その髪を。


そっと撫でた。


「アヤネ」


「ん?」


「大好き」


「……急にずるい」


「言ってほしそうだったから」


「もう一回」


「大好き」


「私も」


顔を上げる。


暗闇の中。


唇が触れる。


一度。


もう一度。


そして。


二人は。


抱きしめ合ったまま。


眠りについた。


*


九月。


後期が始まる。


アグリの恋は。


少しずつ。


過去になっていった。


イノリは。


自分の気持ちを。


胸の奥へしまった。


そして。


ユウキとアヤネは。


恋人として。


次の季節へ進んでいく。


けれど。


秋。


二人の関係を揺らすのは。


別の男でも。


別の女でもなかった。


桜井アヤネ自身が。


ずっと隠してきた。


「将来」についての選択だった。


第2期 第10話 了

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


ユウキたちの物語を少しでも「続きが気になる」「面白かった」と思っていただけましたら、評価をいただけると、とても励みになります。


また、


「このシーンが好き!」

「このキャラを応援したい!」

「ここからどうなるの!?」

「自分ならこうする!」


など、短い一言でも大歓迎です。


皆様の感想・コメント・レビュー、楽しく読ませていただきます。


特に推しキャラについて語っていただけるのも嬉しいです。


ユウキ、ミヤビ、アヤネ、イノリ、アグリ――。


物語が進むにつれて、それぞれの恋や選択も大きく動いていきます。


誰を好きになるか。


誰を応援するか。


ぜひ皆様自身の目で見届けてください。


そして、続きも読んでみたいと思っていただけましたら、作品のフォロー・ブックマークもしていただけると嬉しいです。


それでは、次のお話で。


次回もよろしくお願いします!

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