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金曜日に別れた君と、もう一度恋をする。  作者: こよみん


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21/28

第2期 第8話 君は、あの人じゃない

挿絵(By みてみん)


走った。


大学の廊下を抜けて。


階段を下りて。


中庭を横切って。


佐藤ユウキは、大学の裏庭へ向かった。


頭の中では。


大西アグリの言葉が、何度も繰り返されていた。


『今怒ってる相手、半分くらい昔のミヤビなんじゃない?』


違う。


そう言いたかった。


アヤネが隠した。


だから傷ついた。


それだけだ。


――本当に?


『彼女には、他にも男がいる』


あの日。


知らない相手から送られてきた写真。


『金曜日はユウキくんだけ』


ミヤビの言葉。


そして。


七人。


「……くそ」


過去と今が。


頭の中で重なる。


でも。


違う。


桜井アヤネは。


仁科ミヤビではない。


*


裏庭。


大きな木の下。


ベンチ。


そこに。


アヤネはいた。


一人。


俯いている。


「……アヤネ」


肩が跳ねた。


ゆっくり。


顔が上がる。


目元は赤かった。


「ユウキ……?」


「うん」


「なんで」


「イノリから聞いた」


「……そっか」


アヤネは慌てて涙を拭う。


「ごめん」


「なんで謝るんだよ」


「だって」


無理に笑う。


「泣いてるところ、見られたくなかった」


「もう見た」


「最悪」


「ひどい顔」


「もっと最悪!」


少しだけ。


いつものアヤネだった。


でも。


すぐ。


笑顔が消えた。


*


「隣、いい?」


ユウキが聞く。


アヤネは。


小さく頷いた。


ベンチ。


少し距離を空けて座る。


以前なら。


肩が触れていた。


手を繋いでいた。


今は。


その数十センチが。


ひどく遠い。


「昨日」


ユウキが言う。


「ごめん」


「なんでユウキが謝るの?」


「逃げたから」


「……」


「ちゃんと話さないで帰った」


「でも悪いの私だよ」


アヤネは。


膝の上で両手を握る。


「隠したから」


「うん」


「レンと会ったこと」


「うん」


「告白されたこと」


「うん」


「全部」


声が震える。


「最初から言えばよかった」


*


「なんで言わなかった?」


昨日も聞いた。


でも。


今日は。


ちゃんと答えを聞きたかった。


アヤネは。


しばらく黙っていた。


「……怖かった」


「俺が?」


「うん」


「なんで」


「元カノに浮気されたって聞いてたから」


アヤネが。


苦しそうに笑う。


「幼なじみの男と二人で会うって言ったら、嫌われるかなって」


「嫌いにはならない」


「でも嫌だったでしょ?」


「……それは」


否定できない。


たぶん。


嫌だった。


「だから」


アヤネは続ける。


「会って、ちゃんと断って、それで終わりにしてから」


「うん」


「何もなかったことにしようと思った」


「……」


「それが一番駄目だった」


涙が。


また落ちる。


「ユウキが一番嫌いなことなのに」


*


「アヤネ」


「うん」


「俺も悪かった」


「違うよ」


「違わない」


ユウキは。


自分の手を見る。


「俺、昨日」


言葉を探す。


「アヤネを見てなかった」


「え?」


「アヤネが隠したって分かった瞬間」


頭に浮かんだのは。


ミヤビだった。


「また裏切られたって思った」


「……」


「でも違う」


顔を上げる。


「アヤネは告白された」


「うん」


「断った」


「うん」


「俺が好きだって言った」


アヤネの唇が震える。


「……うん」


「浮気してない」


「してない」


「なら」


ユウキは。


息を吐いた。


「同じじゃない」


*


アヤネが。


ユウキを見る。


「信じてくれる?」


「信じる」


「……ほんと?」


「うん」


「私、レンと何もしてない」


「分かってる」


「手も繋いでない」


「うん」


「キスもしてない」


「分かった」


「本当に」


「アヤネ」


ユウキは。


初めて。


彼女の手を握った。


「信じるって」


その瞬間。


アヤネの顔が崩れた。


*


「……馬鹿」


「なんで」


「遅い」


「ごめん」


「昨日言ってよ」


「無理だった」


「私、一晩中泣いた」


「……ごめん」


「もう」


アヤネが。


握られた手を。


強く握り返す。


「別れると思った」


「俺も考えた」


アヤネの手が止まる。


嘘はつきたくない。


「一瞬だけ」


「……そっか」


「でも」


ユウキは。


指を絡めた。


「嫌だった」


「え?」


「アヤネと別れるの」


「……」


「それ考えたら」


胸が痛かった。


「嫌だったんだよ」


*


アヤネが。


泣きながら笑った。


「それ、告白みたい」


「もう付き合ってるだろ」


「じゃあもう一回言って」


「何を」


「好きって」


「今?」


「今」


「こういう空気で?」


「こういう空気だから」


ユウキは。


少しだけ。


笑った。


「好きだよ」


「……もう一回」


「好き」


「もう一回」


「調子乗るな」


「けち」


でも。


アヤネは。


嬉しそうだった。


*


「ユウキ」


「ん?」


「抱きしめてもいい?」


ユウキは。


答える代わりに。


アヤネを引き寄せた。


「……っ」


胸の中。


アヤネの身体が。


震える。


腕が背中へ回る。


「ユウキ」


「うん」


「怖かった」


「うん」


「本当に終わると思った」


「俺も怖かった」


「……ユウキも?」


「また同じになるのが」


抱きしめる力を。


少しだけ強める。


「でも」


「うん」


「同じにしてたの、俺だった」


アヤネが。


胸元で首を横に振った。


「仕方ないよ」


「仕方なくない」


「傷ついたんだから」


「だからって」


ユウキは言う。


「アヤネまで疑っていい理由にはならない」


しばらく。


二人とも。


何も言わなかった。


*


やがて。


アヤネが顔を上げる。


目元。


真っ赤。


「……ひどい顔?」


「かなり」


「彼女に言う?」


「アヤネが聞いた」


「じゃあ責任取って」


「何の?」


アヤネが。


自分の唇を指差した。


「仲直り」


「それで直る?」


「私は直る」


「便利だな」


「早く」


ユウキは。


周囲を見る。


誰もいない。


「目閉じて」


「うん」


アヤネが目を閉じる。


ユウキは。


頬に手を添えた。


そして。


そっと。


唇を重ねた。


*


一度。


離れる。


アヤネは。


まだ目を閉じている。


「……終わったぞ」


「足りない」


「泣いてたくせに」


「泣いたから足りない」


「どういう計算?」


「数学得意なんでしょ?」


「その式は解けない」


「じゃあ」


アヤネが。


ユウキの服を掴む。


今度は。


彼女から。


二度目。


短く。


唇が触れる。


離れる。


「これで半分」


「何の?」


「仲直り」


「まだ半分?」


「うん」


三度目。


ユウキから。


今度は。


少しだけ長く。


離れたあと。


額が触れる。


アヤネが。


小さく笑った。


「……あとちょっと」


「まだ?」


「最後」


「本当に?」


「たぶん」


「信用できない」


「彼女を信じて」


その言葉に。


二人とも。


一瞬止まった。


*


でも。


今度は。


ユウキが笑った。


「信じるよ」


そして。


四度目。


仲直りのキス。


唇を離したあと。


アヤネの目から。


また涙が落ちた。


「なんでまた泣くんだよ」


「今のは嬉しい方」


「忙しいな」


「誰のせい」


「俺?」


「半分」


「残り半分は?」


「私」


「じゃあお互い様」


「うん」


ようやく。


二人で笑えた。


*


「それと」


ユウキが言う。


「レンのこと」


アヤネの表情が。


少し強張る。


「もう会うなとは言わない」


「え?」


「幼なじみなんだろ」


「でも」


「ただ」


ユウキは。


真っ直ぐ見る。


「二人で会うなら言ってほしい」


「……うん」


「告白されたり、何かあったら」


「言う」


「隠さないで」


「絶対」


アヤネが。


小指を差し出す。


「約束」


「子供かよ」


「いいから」


指切り。


「ユウキも」


「何?」


「女の子と二人で会うとき言って」


「アグリとイノリも?」


「二人きりなら」


「嫉妬?」


「します」


「堂々としてるな」


「彼女なので」


「またそれ」


いつもの。


アヤネだった。


*


その日の夕方。


ユウキは。


一人で高瀬レンを探した。


大学の正門近く。


まだいた。


「高瀬」


レンが振り返る。


「……佐藤」


「少しいい?」


「アヤネは?」


「今は一人」


「そっか」


二人。


男同士。


微妙な沈黙。


*


「昨日」


レンが先に言った。


「悪かった」


「何が?」


「俺が余計なこと言った」


「いや」


ユウキは首を振る。


「結果的には知れてよかった」


「……別れた?」


「別れてない」


レンの表情が。


ほんの少し曇る。


「そっか」


分かりやすい。


「まだ好き?」


ユウキが聞く。


「アヤネを?」


「うん」


「好きだよ」


即答だった。


「十年以上好きだったんだ」


「そう」


「簡単に諦められない」


「……分かる」


「分かるの?」


「俺も」


ユウキは。


少しだけ笑う。


「前の彼女、しばらく忘れられなかったから」


*


レンは。


しばらく黙る。


「佐藤」


「何?」


「アヤネ泣かせるなよ」


ユウキの眉が動く。


「それ、俺が言われる?」


「幼なじみとして」


「……」


「俺が言う資格ないけど」


レンは。


苦笑した。


「昨日、あいつ泣いてただろ」


「今日も泣いてた」


「お前……」


「仲直りした」


「ならいい」


レンが。


少しだけ寂しそうに笑う。


「俺じゃ駄目だったんだな」


ユウキは。


何も言わなかった。


これは。


自分が答えることではない。


*


その夜。


ユウキの部屋。


一人。


机。


引き出しを開ける。


白い封筒。


ミヤビからの手紙。


今日は。


逃げずに。


取り出した。


*


『私はユウキくんを本当に好きでした』


『今も好きです』


『でも、もう追いかけません』


読む。


胸は。


まだ少し痛む。


でも。


以前とは違った。


*


ユウキは。


机の上に。


小さな箱を置いた。


高校時代の写真。


映画の半券。


ミヤビからもらったもの。


そして。


最後の手紙。


一つずつ。


入れていく。


捨てない。


消さない。


なかったことにもしない。


ただ。


引き出しの一番手前から。


思い出の箱へ。


*


最後。


手紙を入れる前。


もう一度だけ。


名前を見る。


仁科ミヤビ。


「……ありがとう」


小さく。


呟いた。


そして。


箱を閉じた。


*


スマートフォン。


アヤネ。


『家着いた』


ユウキは返信。


『よかった』


『ユウキ』


『何?』


少し間。


『今日はありがとう』


続けて。


『信じてくれてありがとう』


ユウキは。


文字を打つ。


一度消す。


もう一度。


そして。


送った。


『俺の方こそごめん』


さらに。


『アヤネはミヤビじゃない』


既読。


しばらく。


返信がない。


そして。


『うん』


もう一件。


『私は桜井アヤネです』


ユウキは。


笑った。


『知ってる』


『ユウキの彼女です』


『それも知ってる』


『大好きです』


今度は。


迷わなかった。


『俺も大好き』


*


翌日。


大学。


「おはよ、彼氏さん」


「おはよう」


アヤネが。


当然のように。


隣へ来る。


「昨日何回キスしたっけ?」


「数えてない」


「四回」


「覚えてるじゃん」


「だから今日は五回」


「増やすルールないから」


「昨日泣いた分」


「関係ない」


「じゃあ好きな分」


「もっと分からない」


「いいから」


アヤネが。


ユウキの腕に抱きつく。


「放課後、デート」


「試験は?」


「終わった!」


「結果は?」


「聞かないで」


「数学」


「聞かないで!」


嫌な予感しかしない。


*


少し離れたところ。


アグリが。


二人を見る。


「仲直りしたんだ」


隣には。


イノリ。


「よかったですね」


「……うん」


アグリは笑う。


「よかった」


でも。


その笑顔は。


少しだけ寂しい。


イノリが。


アグリを見る。


「大西さん」


「ん?」


「まだ好きですか?」


「……誰を?」


「聞かなくても分かるでしょう」


アグリは。


答えなかった。


代わりに。


笑う。


「イノリこそ」


「私は」


イノリは。


ユウキとアヤネを見る。


手を繋いで。


笑っている二人。


「諦めるつもりです」


「……ほんと?」


「恋人がいる人に告白する趣味はありません」


「そっか」


「ただ」


イノリの視線が。


ほんの少し揺れる。


「好きじゃなくなる方法は、まだ分かりません」


アグリは。


何も言えなかった。


*


八月。


夏休み。


アヤネとの関係は。


以前より深くなった。


海。


花火。


夏祭り。


ユウキの部屋。


アヤネの部屋。


会う回数も。


キスの回数も。


増えていった。


二人で夜遅くまで話し。


抱きしめ合って眠る夜も増えた。


それでも。


急がない。


過去を埋めるためではなく。


二人の速度で。


新しい恋を作っていく。


*


そして。


夏祭りの日。


花火が。


夜空に咲く。


浴衣姿のアヤネが。


ユウキの手を握る。


「ユウキ」


「ん?」


「こっち」


「どこ?」


「人いないところ」


「また?」


「花火見えるから」


神社の裏。


少しだけ。


人混みから離れる。


花火。


光。


その下。


アヤネが。


ユウキを見上げた。


「ね」


「何?」


「今日」


少しだけ。


頬を赤くする。


「帰りたくない」


ユウキの心臓が。


大きく鳴った。


「……アヤネ」


「意味」


目を逸らさない。


「分かるよね」


花火の音。


夜空が。


白く染まる。


アヤネは。


ユウキの胸へ。


そっと手を置いた。


今までとは違う。


ただ泊まるだけではない。


ただ隣で眠るだけでもない。


二人の関係を。


もう一歩。


先へ進めたい。


その気持ちを。


アヤネは。


初めて。


言葉にしようとしていた。


第2期 第8話 了

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


ユウキたちの物語を少しでも「続きが気になる」「面白かった」と思っていただけましたら、評価をいただけると、とても励みになります。


また、


「このシーンが好き!」

「このキャラを応援したい!」

「ここからどうなるの!?」

「自分ならこうする!」


など、短い一言でも大歓迎です。


皆様の感想・コメント・レビュー、楽しく読ませていただきます。


特に推しキャラについて語っていただけるのも嬉しいです。


ユウキ、ミヤビ、アヤネ、イノリ、アグリ――。


物語が進むにつれて、それぞれの恋や選択も大きく動いていきます。


誰を好きになるか。


誰を応援するか。


ぜひ皆様自身の目で見届けてください。


そして、続きも読んでみたいと思っていただけましたら、作品のフォロー・ブックマークもしていただけると嬉しいです。


それでは、次のお話で。


次回もよろしくお願いします!

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