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金曜日に別れた君と、もう一度恋をする。  作者: こよみん


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20/28

第2期 第7話 彼女の幼なじみ

挿絵(By みてみん)


七月。


大学生になって初めての試験期間。


「……終わった」


桜井アヤネは机に突っ伏した。


「まだ始まってない」


佐藤ユウキが冷静に返す。


「だから終わったの」


「始まる前から諦めるな」


「数学が私を拒絶してる」


「数学に意思はない」


「じゃあ私が数学を拒絶してる」


「もっと駄目だろ」


放課後の図書館。


いつもの二人。


参考書。


ノート。


シャープペンシル。


そして。


恋人になってから増えたものが一つ。


机の下。


アヤネの左手と。


ユウキの右手。


指が絡んでいた。


「……アヤネ」


「何?」


「片手で数学解ける?」


「解けない」


「じゃあ離して」


「嫌」


「試験落ちるぞ」


「じゃあキスしてくれたら離す」


「ここ図書館」


「頬でいい」


「取引材料にするなよ」


「早く」


ユウキは周囲を確認して。


ほんの一瞬。


アヤネの頬へ唇を触れさせた。


「はい」


「……よし」


満足そうに手を離す。


「本当にこれで勉強するのか」


「五分くらい」


「短い」


「五分後また充電して」


「俺は充電器じゃない」


「私専用」


「勉強しろ」


アヤネは笑いながら。


ようやく問題へ向き直った。


*


二時間後。


「できた」


「正解」


「ほんと?」


「うん」


「やった!」


声が大きい。


周囲から視線。


「静かに」


「ごめんなさい」


小声になる。


そして。


机の下で。


アヤネの指が。


またユウキの指に触れた。


「ご褒美」


「さっきしただろ」


「二時間頑張った」


「じゃあ帰り」


「約束ね」


「はいはい」


「はいは一回」


「子供かよ」


そんな。


いつものやり取り。


ユウキは。


この時間が好きになっていた。


*


図書館を出る。


午後七時。


まだ空は明るい。


「ユウキ」


「ん?」


「今日、家行っていい?」


「明日一限だろ」


「泊まらない」


「珍しい」


「何その言い方」


「最近泊まりたがるから」


「……嫌だった?」


急に不安そうになる。


「嫌じゃない」


「ほんと?」


「うん」


「じゃあ今日も泊まろっかな」


「勉強しろ」


「ですよね」


笑う。


そのとき。


アヤネのスマートフォンが震えた。


画面を見る。


そして。


表情が。


ほんの少しだけ変わった。


*


「誰?」


ユウキが何気なく聞く。


「……友達」


「そっか」


それだけ。


聞くつもりはなかった。


でも。


アヤネは。


スマートフォンをすぐ鞄へしまった。


「行こ」


「うん」


歩き出す。


ユウキは。


気づかなかった。


アヤネが。


鞄の中で。


スマートフォンを強く握っていたことに。


*


その夜。


アヤネの部屋。


ベッドの上。


スマートフォン。


メッセージ。


『久しぶり』


送り主。


高瀬レン。


幼稚園から高校まで。


ずっと同じ学校だった。


幼なじみ。


『大学どう?』


アヤネは。


返信する。


『楽しいよ』


すぐ。


『彼氏できたって本当?』


指が止まる。


誰から聞いたのだろう。


地元の友達か。


『うん』


数秒。


『そっか』


それだけ。


そして。


しばらくして。


もう一件。


『今度会えない?』


アヤネは。


画面を見つめた。


*


翌日。


「アヤネ」


「ん?」


「集中」


「してる」


「三問連続で符号間違えてる」


「……ほんとだ」


大学。


試験勉強。


明らかに。


いつもと違う。


「何かあった?」


「何もないよ」


笑う。


「ほんと?」


「ほんと」


ユウキは。


それ以上聞かなかった。


信じる。


そう決めたから。


*


金曜日。


午後五時。


アヤネは。


駅前のカフェにいた。


向かいには。


一人の男子。


高瀬レン。


「久しぶり」


「うん」


「変わったな」


「三か月しか経ってないよ」


「髪」


「少し切った」


「似合ってる」


「ありがと」


沈黙。


昔なら。


こんな空気にはならなかった。


何でも話せた。


家族みたいなものだった。


だからこそ。


アヤネには分かっていた。


今日は。


ただの近況報告ではない。


*


「彼氏」


レンが言った。


「どんなやつ?」


「優しい人」


「それだけ?」


「数学得意」


「アヤネ数学嫌いだったもんな」


「今も嫌い」


「じゃあ便利じゃん」


「そういう言い方しないで」


アヤネの声が。


少し強くなる。


レンが。


目を伏せた。


「……ごめん」


「うん」


「好きなの?」


「誰を?」


「彼氏」


アヤネは。


迷わなかった。


「大好き」


レンの表情が。


わずかに歪んだ。


*


「俺」


レンが言う。


アヤネは。


聞きたくないと思った。


でも。


止められなかった。


「ずっとアヤネが好きだった」


やっぱり。


「小学校の頃から」


「……うん」


「気づいてた?」


「少し」


「じゃあ」


「でも」


アヤネが遮る。


「ごめん」


即答。


「私、ユウキが好き」


「……」


「だから付き合えない」


レンが。


拳を握る。


「大学で会ったばっかりだろ」


「関係ないよ」


「俺は十年以上一緒にいる」


「長さで決まらない」


「俺の方がアヤネを知ってる」


「それでも」


アヤネは。


真っ直ぐ見る。


「私はユウキを選ぶ」


*


店を出る。


「送る」


「大丈夫」


「アヤネ」


「レン」


振り返る。


「もう二人では会わない」


レンの表情が固まる。


「なんで」


「ユウキに嫌な思いさせたくない」


「今日のこと言うの?」


「……」


アヤネは。


答えられなかった。


言わなければ。


何も起こらない。


告白された。


断った。


それだけ。


でも。


会ったこと自体を。


ユウキには言っていない。


「言わない方がいい」


レンが言う。


「余計な喧嘩になるだけだ」


アヤネは。


その言葉を聞いてしまった。


*


同じ夜。


ユウキの部屋。


「お邪魔します」


アヤネが来た。


いつも通り。


「試験勉強するんだろ」


「その前に」


靴を脱ぐ。


近づく。


「会いたかった」


腕を回す。


抱きつく。


いつもより。


強い。


「……どうした?」


「何でもない」


「今日変だぞ」


「充電不足」


「昨日会っただろ」


「一日でも不足する」


「燃費悪すぎ」


「じゃあ」


顔を上げる。


「キス」


「勉強は?」


「そのあと」


「絶対だな?」


「うん」


ユウキは。


軽く唇を重ねた。


一度。


アヤネが離れない。


二度目。


そして。


もう一度。


三度目。


「……今日積極的だな」


「彼女だから」


いつもの言葉。


でも。


今日は。


少し違って聞こえた。


*


机。


数学。


「ここ」


「公式」


「忘れた」


「昨日覚えた」


「今日忘れた」


「お前の記憶、一日で初期化されるの?」


「キスしたら思い出すかも」


「しません」


「けち」


「試験落ちたら困るのアヤネだぞ」


「ユウキも困って」


「困るよ」


「……え?」


「彼女が単位落としたら普通に心配する」


アヤネが。


黙った。


「何?」


「好き」


「急だな」


「好き」


「分かった」


「ユウキも」


「好きだよ」


アヤネは。


笑った。


なのに。


なぜか。


胸が痛かった。


*


午後十一時。


勉強終了。


「今日は帰る」


「送る」


「いい」


「夜遅いぞ」


「じゃあ駅まで」


玄関。


靴を履く。


アヤネは。


ユウキを見つめる。


「ねえ」


「ん?」


「私のこと信じてる?」


ユウキは。


少し驚く。


「信じてるよ」


「……そっか」


「どうした?」


「何でもない」


そして。


アヤネは。


自分からキスした。


一度。


離れて。


もう一度。


「アヤネ?」


「ごめん」


「何が?」


「……何でもない」


そのまま。


玄関を出た。


*


三日後。


試験初日。


「ユウキ!」


アヤネが走ってくる。


「できた!」


「数学?」


「うん!」


「何点くらい?」


「八十!」


「すごいじゃん」


「先生のおかげ」


「先生やめろ」


「彼氏先生」


「もっと嫌だ」


アヤネは。


嬉しそうに。


ユウキの腕へ抱きつく。


「ご褒美」


「何?」


「デート」


「自分へのご褒美?」


「ユウキにも」


「俺何した?」


「私に勉強教えた」


「じゃあ俺がもらう側では」


「細かい」


二人で笑う。


*


そのとき。


「アヤネ」


男の声。


アヤネの身体が。


固まった。


ユウキが振り向く。


知らない男子。


高瀬レン。


「……レン」


その名前。


ユウキは初めて聞いた。


「誰?」


ユウキが聞く。


アヤネは。


一瞬。


答えに詰まる。


「幼なじみ」


レンが先に答えた。


「高瀬レン」


「佐藤ユウキ」


「知ってる」


「え?」


「アヤネから聞いた」


アヤネの顔が。


青くなる。


*


レンは。


ユウキを見る。


「彼氏なんだよな?」


「そうだけど」


「……そっか」


「レン」


アヤネが。


止めようとする。


でも。


「この前はごめんな」


レンが言った。


ユウキの眉が。


わずかに動く。


「この前?」


「レン!」


「告白して」


レンは続けた。


「困らせた」


空気が。


止まった。


*


「……告白?」


ユウキの声。


静かだった。


「ユウキ」


「いつ?」


アヤネを見る。


「……先週」


「二人で会ったの?」


「うん」


「俺には?」


答えられない。


「言ってない」


沈黙。


アヤネが。


ユウキの袖を掴もうとする。


でも。


ユウキは。


反射的に。


一歩下がった。


*


その一歩。


たった。


数十センチ。


でも。


アヤネには。


何メートルより遠く感じた。


「違う」


「何が?」


「告白は断った」


「うん」


「ちゃんとユウキが好きって言った」


「……うん」


「何もない」


「分かってる」


ユウキは。


そう言った。


でも。


顔が。


全然。


分かっている顔ではなかった。


*


「じゃあなんで」


ユウキが聞く。


「言わなかった?」


アヤネは。


答えられない。


「俺」


声が震える。


「前の彼女にも隠されてたんだ」


その言葉。


アヤネの胸を刺す。


「分かってたよな?」


「……うん」


「浮気されたこと」


「知ってる」


「だから俺が」


拳を握る。


「隠し事に弱いって」


「……ごめん」


「謝ってほしいんじゃない」


「じゃあどうしたら」


「分からない」


ユウキ自身。


分からなかった。


*


「佐藤」


レンが口を挟む。


「アヤネは悪くない」


「レン、黙って」


「俺が呼び出した」


「そういう問題じゃない」


ユウキが。


初めて。


少し強い声を出した。


「会ったことじゃない」


「じゃあ」


「隠されたことが嫌なんだよ」


レンが。


黙った。


*


アヤネの目から。


涙が落ちる。


「ユウキ」


「……今日は帰る」


「待って」


「ごめん」


「待って!」


アヤネが。


腕を掴む。


「嫌いになった?」


その質問。


ユウキは。


すぐ答えた。


「なってない」


「じゃあ」


「でも今」


アヤネの手を。


そっと外す。


「ちゃんと考えられない」


「……」


「少しだけ」


ユウキは言った。


「時間ほしい」


*


歩いていく。


アヤネは。


追えなかった。


レンが隣にいる。


「……アヤネ」


「帰って」


「でも」


「帰って!」


初めて。


幼なじみに。


怒鳴った。


*


その夜。


ユウキの部屋。


一人。


ベッドに座る。


スマートフォン。


アヤネから。


『ごめんなさい』


『本当に何もなかった』


『告白はちゃんと断った』


『ユウキだけが好き』


何度も。


何度も。


届く。


信じたい。


むしろ。


理屈では。


信じている。


アヤネは浮気していない。


告白された。


断った。


それだけ。


問題なのは。


秘密にしたこと。


でも。


それ以上に。


自分の中に。


まだ。


あの日の傷があること。


*


引き出し。


白い封筒。


ミヤビの手紙。


ユウキは。


それを見る。


「……またかよ」


アヤネと。


ミヤビは違う。


分かっている。


なのに。


怖い。


同じことになる気がして。


*


同じころ。


アヤネは。


自室のベッドで。


泣いていた。


スマートフォンを握る。


既読。


返信なし。


「……馬鹿」


自分に言う。


最初から。


言えばよかった。


『幼なじみに会う』


『告白された』


『断った』


それだけ。


それだけでよかった。


でも。


喧嘩したくなかった。


嫌われたくなかった。


だから。


隠した。


そして。


一番嫌われたくない人を。


一番傷つけた。


*


翌日。


大学。


ユウキとアヤネは。


会わなかった。


講義も別。


メッセージも。


ない。


昼。


「ユウキ」


アグリが。


隣に座る。


「アヤネと何かあった?」


「……なんで」


「顔」


「みんな顔で分かりすぎだろ」


「分かるよ」


アグリは。


いつもの軽い笑顔を見せなかった。


「聞いていい?」


ユウキは。


少し迷って。


全部話した。


*


「それ」


アグリが言う。


「アヤネ悪い」


「……うん」


「でも」


「何?」


「ユウキも今」


真っ直ぐ見る。


「ミヤビと戦ってる」


ユウキの目が。


少し開く。


「アヤネじゃなくて」


「……」


「今怒ってる相手」


アグリは言った。


「半分くらい、昔のミヤビなんじゃない?」


*


何も。


言い返せなかった。


その日の夕方。


南イノリから。


一件のメッセージが届く。


『佐藤くん。桜井さんが、大学の裏庭にいます』


続けて。


『かなり泣いています』


ユウキは。


画面を見る。


そして。


走り出した。


まだ。


答えは出ていない。


許せるかも。


信じられるかも。


分からない。


ただ一つ。


泣いているアヤネを。


放っておきたくなかった。


それだけは。


もう。


分かっていた。


第2期 第7話 了

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


ユウキたちの物語を少しでも「続きが気になる」「面白かった」と思っていただけましたら、評価をいただけると、とても励みになります。


また、


「このシーンが好き!」

「このキャラを応援したい!」

「ここからどうなるの!?」

「自分ならこうする!」


など、短い一言でも大歓迎です。


皆様の感想・コメント・レビュー、楽しく読ませていただきます。


特に推しキャラについて語っていただけるのも嬉しいです。


ユウキ、ミヤビ、アヤネ、イノリ、アグリ――。


物語が進むにつれて、それぞれの恋や選択も大きく動いていきます。


誰を好きになるか。


誰を応援するか。


ぜひ皆様自身の目で見届けてください。


そして、続きも読んでみたいと思っていただけましたら、作品のフォロー・ブックマークもしていただけると嬉しいです。


それでは、次のお話で。


次回もよろしくお願いします!

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