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金曜日に別れた君と、もう一度恋をする。  作者: こよみん


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19/30

第2期 第6話 雨の夜、彼女は帰らない

挿絵(By みてみん)


「今日、泊まりに行っていい?」


その言葉を聞いた瞬間から。


佐藤ユウキは、平静を装うことに必死だった。


*


六月。


雨。


一本の傘に二人で入る。


肩が触れる。


腕には、桜井アヤネの体温。


「ユウキ」


「何?」


「緊張してる?」


「してない」


「嘘」


「なんで分かるんだよ」


「傘持つ手、ちょっと硬い」


「雨だから」


「便利だね、雨」


またその言い方。


夕日。


暗闇。


そして今度は雨。


アヤネは笑って。


さらに身体を寄せた。


「私は緊張してるよ」


「……そうなの?」


「するでしょ」


「いつも余裕そうだから」


「好きな人の家に泊まるんだよ?」


一拍。


「しかも」


耳元に近づく。


「彼氏の」


ユウキの耳が熱くなる。


「近い」


「傘狭いから」


「絶対わざとだろ」


「ばれた?」


雨音の中。


アヤネの笑い声が混じった。


*


コンビニに寄る。


飲み物。


お菓子。


翌朝のパン。


「歯ブラシ」


アヤネが手に取る。


「本当に泊まる気満々だな」


「今さら?」


「いや」


「あとこれ」


「何?」


アヤネが小さなヘアゴムをカゴへ入れる。


「お風呂入るとき使う」


その言葉だけで。


ユウキは妙に意識してしまう。


「……何?」


アヤネが覗き込む。


「何でもない」


「想像した?」


「してない」


「何を?」


「誘導尋問やめろ」


アヤネは楽しそうに笑った。


*


午後七時。


ユウキの部屋。


「ただいま」


アヤネが言う。


「なんでお前がただいまなんだよ」


「二回目だから」


「回数の問題?」


「じゃあ、お邪魔します」


靴を脱ぐ。


玄関。


二人きり。


アヤネが振り返る。


「ユウキ」


「うん」


「まず」


一歩近づく。


「お泊まり記念」


「そんな記念ある?」


「今作った」


「何する気」


答えの代わり。


アヤネが背伸びする。


キス。


ほんの一瞬。


「一回目」


「また数えるの?」


「もちろん」


「今日長いぞ」


「じゃあ記録狙えるね」


「狙わなくていい」


そう言いながら。


ユウキも。


もう一度キスした。


「二回目」


「今のも数える?」


「全部」


アヤネが嬉しそうに笑った。


*


夕食。


二人でパスタを作る。


「玉ねぎお願い」


「泣いたら慰めて」


「玉ねぎで?」


「理由は何でもいい」


「慰めてほしいだけだろ」


「ばれた」


隣で。


肩が触れる。


「ユウキ」


「何?」


「味見して」


スプーンを差し出される。


「自分で食べれば?」


「はい、あーん」


「またそれ?」


「彼女だから」


「その言葉便利すぎる」


それでも食べる。


「どう?」


「うまい」


「ほんと?」


「うん」


「じゃあ私も」


同じスプーン。


一口。


「間接キス」


「直接してるだろ」


「今日二回だけ」


「まだ七時だぞ」


「じゃあ増やそっか?」


アヤネが笑う。


ユウキは視線を逸らした。


*


食後。


雨はさらに強くなっていた。


窓を叩く音。


部屋の照明。


テレビ。


ソファ。


二人で並ぶ。


「映画見る?」


「いいよ」


「何見る?」


「今日は恋愛もの禁止」


「なんで?」


「いろいろ思い出すから」


言ったあと。


アヤネの表情が少しだけ変わる。


「……ごめん」


「いや」


「まだ?」


「少し」


ミヤビ。


消えない。


でも。


以前ほど。


胸をえぐられるような痛みではなくなっている。


アヤネは少し考えて。


「じゃあホラー」


「極端だな」


「怖かったらくっつける」


「それ目的?」


「半分」


「残り半分は?」


「ユウキが怖がるところ見たい」


「最低だな」


「褒め言葉?」


「違う」


*


映画開始。


十分。


アヤネ。


余裕。


二十分。


アヤネ。


ユウキの腕を掴む。


「怖いの?」


「全然」


「手痛い」


「偶然」


三十分。


大きな音。


「っ!」


アヤネが完全に抱きついた。


「怖いんじゃん」


「演出が卑怯」


「どんな言い訳」


「離れないから」


「開き直った」


そのまま。


肩へ顔を埋める。


「ユウキ」


「何?」


「映画終わるまでこのまま」


「いいけど」


「……ありがと」


小さな声。


ユウキは。


彼女の肩へ腕を回した。


アヤネが少しだけ。


嬉しそうに笑った。


*


映画が終わる。


でも。


二人は離れなかった。


テレビ画面はメニューに戻っている。


アヤネはユウキの胸元に寄り添う。


「終わったぞ」


「知ってる」


「離れないの?」


「嫌?」


「嫌じゃない」


「ならいい」


しばらく。


雨音だけ。


「ねえ」


「うん」


「私」


アヤネが。


ユウキの服を少し掴む。


「今日、泊まりたいって言ったとき」


「うん」


「断られると思ってた」


「なんで」


「まだ」


少し間。


「ミヤビさんのことがあるから」


ユウキの身体が。


ほんの少し強張る。


「ごめん」


「謝らなくていい」


アヤネは顔を上げる。


「でも、聞きたい」


「何?」


「今日」


その瞳は。


真剣だった。


「私は、誰かの代わりじゃない?」


胸が。


静かに痛む。


*


ユウキは。


すぐ答えられなかった。


軽く。


『違う』


と言うことはできた。


でも。


それでは。


アヤネが一番嫌っている嘘になる。


「最初は」


ユウキは言う。


「比べてた」


アヤネの目が揺れる。


「アヤネといるときに、ミヤビを思い出すこともあった」


「うん」


「今もある」


「……うん」


「でも」


ユウキは。


アヤネの手を取る。


「今日来てほしいって思ったのは」


指を握る。


「アヤネだから」


アヤネが。


息を止める。


「映画見たいのも」


「うん」


「一緒に飯作るのも」


「うん」


「こうして抱きしめたいのも」


腕を回す。


「全部、アヤネだからだよ」


*


アヤネの目から。


涙が一滴。


落ちた。


「……泣く?」


「泣くよ」


「ごめん」


「だから謝らないで」


笑いながら。


涙を拭う。


「嬉しい」


「ならよかった」


「ユウキ」


「うん」


「キスして」


「今?」


「今」


「泣いてるけど」


「泣いてるから」


よく分からない。


でも。


ユウキは。


頬に手を添えた。


一度。


唇を重ねる。


離れる。


アヤネが。


もう一度近づく。


二度目。


そして。


三度目。


「……何回目?」


ユウキが聞く。


「五回」


「覚えてるんだ」


「当たり前」


「数える余裕ある?」


「なくなるくらいして」


言ったあと。


アヤネ自身が。


真っ赤になった。


「……今のなし」


「無理」


「忘れて」


「絶対忘れない」


「ユウキ!」


今度は。


二人で笑った。


*


午後十一時。


「お風呂借りるね」


「どうぞ」


「覗かないでね」


「覗くわけないだろ」


「覗いても怒らないけど」


「怒れ」


「冗談」


アヤネが笑いながら。


洗面所へ消える。


数分後。


シャワーの音。


ユウキは。


ベッドに座って。


天井を見た。


緊張する。


当然だった。


恋人。


同じ部屋。


夜。


帰らない。


昔。


ミヤビと。


同じ状況になった。


でも。


違う。


同じではない。


そう言い聞かせる。


*


しばらくして。


「お待たせ」


声。


振り向く。


部屋着。


髪をまとめたアヤネ。


普段より。


少し幼く見える。


「……何?」


「いや」


「変?」


「似合ってる」


「え」


アヤネが止まる。


「急に素直」


「聞いたから」


「もう一回言って」


「嫌」


「なんで」


「恥ずかしい」


「私も恥ずかしいのに」


「知らない」


アヤネが。


ベッドの端へ座る。


「ここ座っていい?」


「今さら?」


「……一応」


「いいよ」


アヤネは。


嬉しそうに。


ぽんぽんと隣を叩いた。


「ユウキも」


「俺のベッドなんだけど」


「彼氏さん、早く」


仕方なく。


隣に座る。


*


距離。


数センチ。


近い。


「ユウキ」


「何?」


「緊張してる?」


「してる」


今回は正直に言った。


「私も」


「ほんと?」


「心臓触る?」


「いい」


「即答」


「そういうのやめろ」


「ふふ」


アヤネが。


肩に頭を預ける。


「ね」


「うん」


「今日は」


小さな声。


「ここまででいいから」


ユウキが。


アヤネを見る。


「え?」


「私、泊まりたいって言ったけど」


「うん」


「何かしてほしくて来たわけじゃない」


アヤネは。


少し照れながら。


「一緒に眠って」


「うん」


「朝起きて」


「うん」


「おはようって言いたかった」


その言葉が。


胸に刺さった。


昔と。


似ている。


でも。


今。


アヤネが言っている。


だから。


ちゃんと。


アヤネの言葉として受け取る。


*


「分かった」


ユウキが言う。


「今日は寝るだけ」


「……うん」


「でも」


「何?」


「キスはする」


アヤネが。


一瞬固まる。


「ユウキから言った」


「悪い?」


「悪くない」


「じゃあ」


ユウキから。


顔を寄せる。


キス。


短く。


離れる。


アヤネが。


嬉しそうに笑う。


「もう一回」


「やっぱり言うと思った」


二度目。


三度目。


四度目。


「何回目?」


「九回」


「まだ数えてる」


「十回にしたい」


「じゃあ」


十回目。


唇を重ねたあと。


アヤネは。


ユウキの胸へ顔を埋める。


「……幸せ」


また。


その言葉。


でも今度は。


ユウキも。


「俺も」


と返した。


*


電気を消す。


暗い部屋。


雨音。


同じベッド。


少し距離がある。


「ユウキ」


「ん?」


「手」


「はい」


暗闇の中。


手を繋ぐ。


「もうちょっと近く」


「寒い?」


「違う」


「じゃあ」


アヤネが。


少し寄る。


ユウキも。


少しだけ。


「これくらい?」


「もうちょっと」


「注文多いな」


「彼女だから」


「まだそれ使う?」


「一生使う」


「重い」


「嫌?」


「嫌じゃない」


そして。


肩が触れる距離。


アヤネが。


小さく笑った。


「おやすみ」


「おやすみ」


「ユウキ」


「何?」


「好き」


「俺も好き」


沈黙。


「……もう一回」


「好き」


「うん」


それから。


しばらくして。


アヤネの呼吸が。


ゆっくりになる。


*


深夜二時。


ユウキは。


目を覚ました。


理由は。


隣の温もり。


アヤネが。


眠りながら。


ユウキの袖を掴んでいた。


子供みたいに。


離れないように。


「……アヤネ」


返事はない。


寝ている。


ユウキは。


そっと。


その手を握った。


ミヤビなら。


どうしていただろう。


その考えが。


一瞬。


頭をよぎる。


でも。


すぐに。


消えた。


今。


隣にいるのは。


アヤネだ。


ユウキは。


初めて。


そう思うだけで。


十分だと感じた。


*


翌朝。


「……ん」


ユウキが目を覚ます。


目の前。


アヤネの顔。


近い。


昨日より。


ずっと近い。


眠っている間に。


完全にくっついていた。


「……アヤネ」


「んー……」


目を開ける。


「おはよ」


寝ぼけた声。


「おはよう」


数秒。


見つめ合う。


アヤネが。


少し笑った。


「できた」


「何が?」


「やりたかったこと」


「……おはよう?」


「うん」


そして。


「おはようのキス」


「それは聞いてない」


「今追加」


「後付け」


「だめ?」


「……一回だけ」


「やった」


朝。


最初のキス。


短く。


柔らかく。


*


そのあと。


二人で朝食。


昨日買ったパン。


コーヒー。


「こういうの好き」


アヤネが言う。


「地味だけど」


「地味でいい」


「なんで?」


「ずっとできそうだから」


ユウキが。


アヤネを見る。


「毎日?」


「いつか」


笑う。


「今はまだ、週一くらい」


「毎週来る気?」


「嫌?」


「勉強するなら」


「する」


「本当?」


「たぶん」


「信用できない」


二人で笑った。


*


午前九時。


玄関。


「じゃあね」


「駅まで送る」


「うん」


靴を履く。


「ユウキ」


「何?」


アヤネが。


振り返る。


「昨日」


「うん」


「ありがとう」


「何が?」


「ちゃんと私を見てくれて」


ユウキは。


少しだけ。


照れた。


「こっちこそ」


「じゃあ」


アヤネが。


唇を指差す。


「最後」


「また?」


「昨日から続いてるから、今日の一回目でもある」


「カウント制度複雑になってない?」


「早く」


キス。


一度。


離れる。


「……好き」


アヤネが言う。


「俺も」


今度は。


迷わなかった。


*


その日の昼。


学食。


「泊まった!?」


アグリの声が響いた。


「声でかい!」


「だって!」


「寝ただけだぞ」


「それでも!」


アグリが。


机に突っ伏す。


「ずるい」


「またそれ?」


「アヤネばっかり進んでる」


「何が」


「だから!」


顔を上げる。


言いかけて。


止まる。


「……もういい」


アグリは。


笑った。


でも。


少しだけ。


無理をしているように見えた。


隣。


イノリは。


静かにユウキを見る。


「佐藤くん」


「何?」


「幸せですか?」


唐突な質問。


ユウキは。


少し考えて。


「……うん」


と答えた。


イノリは。


目を伏せる。


「そうですか」


それだけだった。


*


六月は。


穏やかに過ぎた。


アヤネと。


大学で会う。


手を繋ぐ。


キスをする。


時々。


ユウキの家へ泊まる。


少しずつ。


新しい思い出が増える。


そして。


七月。


最初の試験期間。


アヤネは。


ある一つの秘密を。


ユウキに言い出せずにいた。


彼女には。


昔から仲のいい。


一人の男子がいる。


恋愛感情はない。


少なくとも。


アヤネには。


けれど。


その男子は。


桜井アヤネを。


ずっと好きだった。


そして。


ユウキが彼氏になったことを知った彼は。


ついに。


アヤネへ告白する。


その告白が。


二人にとって初めての。


大きな喧嘩を引き起こすことになる。


第2期 第6話 了

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


ユウキたちの物語を少しでも「続きが気になる」「面白かった」と思っていただけましたら、評価をいただけると、とても励みになります。


また、


「このシーンが好き!」

「このキャラを応援したい!」

「ここからどうなるの!?」

「自分ならこうする!」


など、短い一言でも大歓迎です。


皆様の感想・コメント・レビュー、楽しく読ませていただきます。


特に推しキャラについて語っていただけるのも嬉しいです。


ユウキ、ミヤビ、アヤネ、イノリ、アグリ――。


物語が進むにつれて、それぞれの恋や選択も大きく動いていきます。


誰を好きになるか。


誰を応援するか。


ぜひ皆様自身の目で見届けてください。


そして、続きも読んでみたいと思っていただけましたら、作品のフォロー・ブックマークもしていただけると嬉しいです。


それでは、次のお話で。


次回もよろしくお願いします!

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