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金曜日に別れた君と、もう一度恋をする。  作者: こよみん


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第1期 第2話 金曜日だけ、君は僕のものになる

挿絵(By みてみん)


『おはよう、ユウキくん』


土曜日の朝。


目を覚ましたユウキが最初に見たものは、昨日までほとんど他人だった少女からのメッセージだった。


「……朝七時十二分」


早い。


しかも送られてきたのは一分前だ。


既読をつけた以上、無視するのも妙な気がして、


『おはよう』


と返す。


すると、ほとんど間を置かず返信が来た。


『起きてたんだ』


『今起きた』


『私のメッセージで?』


『偶然』


『残念』


「何が残念なんだよ」


ベッドの上で呟く。


するとまたスマートフォンが震えた。


『昨日、楽しかった?』


ユウキは少し考える。


数学を教えただけだ。


ただ、一時間が短く感じたのも事実だった。


『まあ、楽しかった』


『よかった』


そして、


『私もすごく楽しかったよ』


続いてハートマーク。


朝から距離感がおかしい。


『仁科って誰にでもこんな感じなの?』


送ってから、少し踏み込みすぎたかと思った。


しかし返事はすぐに来た。


『ミヤビ』


『え?』


『二人で話してるときは、ミヤビって呼んでほしい』


「……マジか」


学年一の美少女を下の名前で呼ぶ。


難易度が高い。


『いきなりは無理』


『じゃあ練習しよ』


『何を』


『ミヤビ』


『それ俺に送らせる気だろ』


『バレた?』


最後に笑っているスタンプが送られてきた。


ユウキは枕に頭を預ける。


(変なやつ)


けれど。


口元が少し緩んでいることには、気づかないふりをした。


*


月曜日。


ユウキは廊下の向こうにミヤビを見つけた。


友人らしい女子二人と歩いている。


学校で見る彼女は、金曜日とは少し違った。


静かで。


上品で。


誰に対しても柔らかく笑う。


男子生徒がすれ違いざまに振り返っていた。


(やっぱ目立つな)


目が合った。


「あ」


ミヤビの唇が動く。


ユウキは軽く手を上げようとして――。


ミヤビは何もしなかった。


そのまますれ違う。


「……?」


一瞬だけ違和感を覚えた。


しかし、すぐスマートフォンが震える。


『学校では内緒ね』


ミヤビからだった。


『何が?』


『私たちが仲良くしてること』


『別にいいけど』


『怒った?』


『なんで怒るんだよ』


少しして。


『ユウキくん、そういうところ好き』


足が止まった。


「……好き?」


恋愛的な意味ではない。


たぶん。


絶対にそうだ。


そう思っておくことにした。


*


次の金曜日。


放課後。


ユウキが問題集を鞄にしまおうとしていると、


「ユウキくん」


声がした。


もう驚かなかった。


「今週も来たのか」


「来ちゃ駄目?」


「駄目とは言ってない」


「じゃあ、来週も来る」


「まだ今日始まってないぞ」


「再来週も」


「予約制なの?」


「うん」


ミヤビは当然のように隣へ座った。


「金曜日は予約したから」


「俺を?」


「ユウキくんを」


「勝手だな」


「嫌?」


そう言って顔を覗き込んでくる。


近い。


「……近いって」


「あ、ごめん」


口では謝ったのに、あまり離れない。


むしろ少し楽しそうだった。


ユウキは教科書を開く。


「今日はどこ?」


「ここ」


「また簡単なところだな」


「苦手なの」


「先週もっと難しい問題解いてただろ」


「忘れちゃった」


「一週間で?」


「忘れたものは仕方ないです」


妙に堂々としている。


ユウキはため息をついた。


「じゃあ、この公式使って」


「うん」


「ここを代入して――」


説明する。


ミヤビは隣で聞いている。


しかし。


十分後。


「……なあ」


「なに?」


「聞いてる?」


「聞いてるよ」


「じゃあ、なんで俺の顔見てるの」


「見ちゃ駄目?」


「教科書見ろよ」


「ユウキくんの方が見てて楽しい」


「勉強する気ないだろ」


「あるよ」


「嘘つけ」


「じゃあ問題出して」


ユウキはノートに一問書いた。


「これ」


「ん」


ミヤビは数秒だけ考え、さらさらと式を書く。


正解だった。


しかも途中式まで完璧。


ユウキは黙った。


ミヤビも黙った。


「……ミヤビ」


思わず名前で呼んだ。


「あ」


ミヤビの顔が明るくなる。


「今、ミヤビって呼んだ」


「そこじゃない」


「もう一回」


「話を逸らすな」


「ねえ、もう一回」


机に頬杖をついて、嬉しそうにこちらを見る。


ユウキは根負けした。


「……ミヤビ」


「うん」


笑った。


その笑顔があまりに無防備だったから。


ユウキは一瞬、何を言おうとしていたのか忘れた。


「で?」


「え?」


「何を言おうとしてたの?」


「ああ。お前、本当は数学苦手じゃないだろ」


ぴたり。


ミヤビの笑顔が止まった。


「……そんなことないよ」


「じゃあ、今の問題なんで解けたんだ」


「教え方が上手だから」


「まだ教えてない範囲なんだけど」


「予習しました」


「だったら最初の問題分かるだろ」


逃げ道を塞いだ。


ミヤビはしばらく黙っていた。


やがて。


「……ばれたか」


小さく呟く。


「やっぱり」


「いつから?」


「先週から怪しいと思ってた」


「早いよ」


「数学だけは得意なんで」


ミヤビは机に突っ伏した。


黒髪がさらりと広がる。


「恥ずかしい……」


「何がしたかったんだよ」


「それ聞く?」


「聞くだろ」


「……言わない」


「なんで」


「女の子にも秘密くらいあります」


「じゃあ俺、帰るぞ」


「待って」


制服の袖をつままれた。


弱い力だった。


振り払おうと思えば簡単にできる。


なのに。


ユウキは動けなかった。


「もう少しだけいて」


顔を上げたミヤビは、さっきまでとは違う表情をしていた。


冗談でも。


からかっているわけでもなく。


少し寂しそうだった。


「……勉強しないのに?」


「勉強じゃなくてもいいから」


「じゃあ何するんだよ」


「お話」


「それなら最初からそう言えよ」


「そんなこと言ったら、来てくれなかったでしょ?」


「……まあ」


面識のない美少女から突然「二人で話したい」と言われたら警戒していただろう。


「だから数学?」


「うん」


「回りくどいな」


「ごめんなさい」


「別に怒ってないけど」


「ほんと?」


「ほんと」


その瞬間。


ミヤビは、ほっとしたように笑った。


ユウキはそこで初めて思った。


もしかすると。


仁科ミヤビという少女は、学校で噂されているような完璧な女の子ではないのかもしれない、と。


*


その日の勉強会は、途中から雑談会になった。


好きな食べ物。


嫌いな先生。


進路。


映画。


音楽。


どうでもいい話ばかりだった。


それなのに気づけば、窓の外は暗くなり始めている。


「六時半?」


ユウキは時計を見た。


「一時間どころじゃないな」


「楽しかった?」


「まあ」


「また『まあ』って言った」


「楽しかったよ」


「ほんと?」


「ほんと」


「じゃあ来週も?」


「いいよ」


ミヤビは笑った。


「金曜日だけ?」


「え?」


「……いや」


一瞬だけ。


彼女は何かを考えたようだった。


「金曜日でいい」


教室を出る。


昇降口へ向かう廊下には、二人以外誰もいなかった。


「ユウキくん」


「ん?」


「手、貸して」


「何に?」


「いいから」


言われるまま右手を出す。


ミヤビはその手を見る。


そして。


きゅっ。


指を絡めた。


「……え」


恋人同士がするような繋ぎ方だった。


「ミヤビ?」


「五秒だけ」


「何が?」


「このまま」


一秒。


二秒。


三秒。


柔らかい手だった。


四秒。


五秒。


けれどミヤビは離さない。


「五秒過ぎたぞ」


「じゃあ十秒」


「増えてるじゃん」


「嫌?」


「……嫌ではないけど」


「ならいいでしょ」


結局、昇降口まで手を繋いだ。


*


駅へ向かう途中。


ミヤビが立ち止まった。


「ユウキくん」


「今度は何?」


「目、閉じて」


「なんで」


「いいから」


「怖いんだけど」


「何もしないよ」


「その台詞が一番信用できない」


ミヤビは笑う。


「じゃあ閉じなくていい」


そう言って、一歩近づいた。


顔が近い。


「……ミヤビ?」


さらに近づく。


ユウキの心臓が跳ねた。


そして。


頬に、柔らかな感触が触れた。


ほんの一瞬。


すぐに離れる。


「……は?」


ミヤビは唇に指を当てていた。


「お礼」


「何の」


「数学」


「数学教えただけで普通キスする?」


「頬だよ?」


「そういう問題じゃない」


「嫌だった?」


ユウキは答えられない。


嫌ではなかった。


むしろ。


かなり嬉しかった。


「顔、赤いよ」


「うるさい」


「かわいい」


「帰れ」


「はーい」


数歩進んでから。


ミヤビが振り返る。


「ユウキくん」


「何だよ」


「来週は――」


自分の唇を指先で軽く示す。


「こっちにしてみる?」


「っ……!」


「冗談」


くすくす笑いながら走っていく。


ユウキはその場に取り残された。


頬にはまだ、彼女の唇の感触が残っているような気がした。


*


その夜。


ミヤビは自室のベッドに寝転んでいた。


制服から着替えたばかりで、長い髪がシーツの上に広がっている。


スマートフォンにはユウキからのメッセージ。


『今日はありがとう』


ミヤビはしばらく画面を見つめた。


「……変なの」


今までなら。


男の子との距離を縮めることなんて、もっと簡単だった。


手を繋ぐことも。


キスすることも。


その先へ進むことも。


特別なことではなかった。


なのに。


今日。


ユウキの頬にキスした瞬間だけは。


妙に心臓が跳ねた。


「何で私が緊張してるの」


唇に指先で触れる。


ほんの少し考えてから返信した。


『私もありがとう』


そして、


『来週も二人きりになろうね』


送信。


画面を閉じる。


けれど数秒後。


別の通知が届いた。


ミヤビの表情から笑みが消えた。


表示されているのは、ユウキではない男の名前。


『明日、いつものところでいい?』


ミヤビは無言でメッセージを見つめる。


やがて短く返した。


『うん』


土曜日には、土曜日の相手がいる。


日曜日には、日曜日の相手がいる。


そして月曜日にも。


火曜日にも。


水曜日にも。


木曜日にも。


それはミヤビにとって、今まで当たり前だった。


誰かと一緒にいないと落ち着かない。


誰かに求められていないと、不安になる。


だから予定を埋める。


寂しさを感じる暇がないほどに。


そして最後に空いていた金曜日も。


今はもう埋まった。


――佐藤ユウキ。


ただし。


ミヤビはまだ気づいていなかった。


これまで予定表に並んでいた名前と。


『ユウキ』という三文字を見たときでは。


自分の胸に生まれる感情が、少しだけ違うことに。


そしてユウキは何も知らない。


学年一の清楚な美少女に頬へキスされたことだけで、その夜なかなか眠れなかった。


彼女が翌日、別の誰かと会うことも。


金曜日という曜日を自分だけにくれたわけではなく――。


**空いていた曜日を、自分が偶然埋めただけだということも。**


二人にとって二度目の金曜日は。


まだ、恋ではなかった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


ユウキたちの物語を少しでも「続きが気になる」「面白かった」と思っていただけましたら、評価をいただけると、とても励みになります。


また、


「このシーンが好き!」

「このキャラを応援したい!」

「ここからどうなるの!?」

「自分ならこうする!」


など、短い一言でも大歓迎です。


皆様の感想・コメント・レビュー、楽しく読ませていただきます。


特に推しキャラについて語っていただけるのも嬉しいです。


ユウキ、ミヤビ、アヤネ、イノリ、アグリ――。


物語が進むにつれて、それぞれの恋や選択も大きく動いていきます。


誰を好きになるか。


誰を応援するか。


ぜひ皆様自身の目で見届けてください。


そして、続きも読んでみたいと思っていただけましたら、作品のフォロー・ブックマークもしていただけると嬉しいです。


それでは、次のお話で。


次回もよろしくお願いします!

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