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金曜日に別れた君と、もう一度恋をする。  作者: こよみん


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16/29

第2期 第3話 恋を忘れるための恋は、しない

挿絵(By みてみん)


『佐藤くん。明日の放課後、二人で話したいです』


南イノリから届いたメッセージ。


その翌日。


講義終了と同時に。


「佐藤くん」


本人がやってきた。


「時間、大丈夫ですか?」


「大丈夫だけど」


「では、行きましょう」


「どこに?」


「静かなところです」


「昨日から思ってたけど、何の話?」


イノリは少し考えて。


「恋愛相談です」


「……誰の?」


「私の」


ユウキは足を止めた。


イノリはそのまま歩いていく。


「置いていきますよ」


「いや待て」


大学に入ってから。


女子との距離感がおかしい。


*


連れてこられたのは。


キャンパスの端にある中庭だった。


ベンチ。


人影は少ない。


「それで恋愛相談って?」


「佐藤くん」


「うん」


「桜井さんと付き合ってます?」


「付き合ってない」


「大西さんとは?」


「付き合ってない」


「好きな人は?」


「……尋問?」


「確認です」


イノリは真顔だった。


「高校の元カノがまだ好きなんですか?」


ユウキの表情が止まる。


「誰から聞いた?」


「大西さん」


「アグリ……」


「詳しい事情は聞いてません」


イノリは続ける。


「ただ、まだ忘れていないと」


「まあ」


否定できない。


「そうだな」


「では」


イノリはユウキを見る。


「私にも機会がありますね」


「……何の?」


「恋愛の」


「誰との?」


「佐藤くんとの」


数秒。


理解が追いつかなかった。


「それ、相談じゃなくて宣言じゃない?」


「はい」


「はい、じゃないだろ」


「相談と言った方が来てくれると思ったので」


「普通に話したいって言われても来たよ」


「そうなんですか」


「そうだよ」


「では次からそうします」


「次があるの?」


「あります」


即答。


この子。


意外と強い。


*


「俺のどこがいいの?」


ユウキが聞く。


「まだほとんど話してないだろ」


「好きとは言ってません」


「……え?」


「気になっているだけです」


「さっき恋愛って」


「恋愛対象です」


「細かい」


「大事です」


イノリはベンチに座る。


ユウキも少し離れて座った。


「入学式の日」


イノリが言う。


「私、迷ってたんです」


「案内板の前で?」


「見てたんですか」


「少し」


「声をかけてくれませんでしたね」


「知らない人だったから」


「冷たいですね」


「普通だろ」


「でも翌日」


「うん」


「講義室で私が落とした学生証、拾ってくれました」


ユウキは記憶を探る。


「あれイノリだった?」


「覚えてないんですね」


「顔見てなかった」


「さらに減点です」


「採点されてたの?」


イノリが少し笑う。


「でも、落とした人を探してわざわざ届けてくれた」


「普通だろ」


「佐藤くんは」


イノリが横目で見る。


「自分が思ってるより優しいです」


その言葉。


以前にも。


誰かから言われた。


胸が少し痛む。


*


「だから」


ユウキは言う。


「そういうの困るんだ」


「優しいと言われることが?」


「違う」


空を見る。


春の風。


「前の彼女とも」


言葉が止まる。


それでも。


「俺が数学教えたのがきっかけだった」


イノリは黙って聞く。


「俺、相手のこと信じてた」


「はい」


「でも裏切られた」


「浮気?」


ユウキは頷く。


「だから今」


少し笑う。


「女子に好意向けられても、素直に喜べない」


アヤネ。


アグリ。


イノリ。


三人とも悪くない。


むしろ。


嬉しいはずなのに。


心のどこかで。


また。


と考えてしまう。


*


「それなら」


イノリが言った。


「私は急ぎません」


「……みんな同じこと言うな」


「みんな?」


「アヤネも」


「そうですか」


「なんでちょっと不機嫌になるんだよ」


「なってません」


「なってる」


「なってません」


「分かったよ」


「あと」


イノリが続ける。


「私は浮気が嫌いです」


ユウキが見る。


「父がしたので」


「……ごめん」


「なぜ佐藤くんが謝るんですか」


「いや」


「昔の話です」


イノリは静かに笑った。


「だから、私は好きな人ができたら一人だけです」


それは。


ユウキに向けた言葉だった。


「覚えておいてください」


「……分かった」


「では相談終了です」


「ほぼ宣言だったけどな」


「成功ですね」


「何が?」


「佐藤くんに意識してもらえました」


そう言って。


イノリは先に立ち上がった。


*


翌日。


土曜日。


「遅い!」


駅前。


大西アグリが頬を膨らませていた。


「待ち合わせ五分前だけど」


「私は十五分前に来た」


「知らないよ」


「女の子を十分待たせました」


「計算おかしいだろ」


「罰として今日は全部付き合うこと」


「何するの?」


「買い物!」


アグリがユウキの袖を掴む。


「行こ!」


「引っ張るな」


「逃げるから」


「逃げないって」


「ほんと?」


「約束しただろ」


アグリが笑う。


「じゃあ信じる」


その言葉に。


ユウキは一瞬だけ。


表情を止めた。


*


アグリとの時間は。


楽だった。


服を見る。


雑貨を見る。


ゲームセンターへ行く。


「勝負!」


「何で?」


「このクレーンゲーム」


「勝敗どう決めるの?」


「先に取った方」


「金かかるぞ」


「敗者が晩ご飯奢り」


「余計金かかる」


十分後。


「取れない!」


「下手」


「ユウキも取れてないじゃん」


「次で取る」


「フラグ」


そして。


本当に取れた。


小さな猫のぬいぐるみ。


「……すご」


「数学的に考えれば」


「クレーンゲームに数学持ち込む人初めて見た」


ユウキはぬいぐるみを見る。


「これどうしよう」


アグリが。


じっと見ている。


「欲しい?」


「別に」


「じゃあ俺が持って帰る」


「欲しい!」


「素直になれよ」


渡す。


アグリは。


両手で猫を抱えた。


「……ありがと」


「どういたしまして」


「大切にする」


「数百円だぞ」


「値段じゃないよ」


その言葉。


少しだけ。


女の子らしかった。


*


夕方。


二人でファミレス。


「ユウキ」


「ん?」


「アヤネのこと好き?」


「またそれ?」


「イノリは?」


「なんで今日ずっと他の女子の話するんだよ」


「気になるから」


「二人とも友達」


「私は?」


「友達」


アグリが露骨に落ち込んだ。


「なんで?」


「……やっぱりか」


「何が」


「ユウキって鈍い?」


「普通」


「鈍い人って自分のこと普通って言うよね」


「偏見」


アグリはストローを弄る。


「じゃあさ」


「うん」


「私がユウキのこと好きって言ったら?」


ユウキの手が止まる。


「……言うの?」


「例えば」


「例えばかよ」


「何その反応」


「いや」


「ちょっと期待した?」


「してない」


「ほんと?」


顔を近づけてくる。


「近い」


「アヤネにも言ってた?」


「なんで知ってるんだ」


「女のネットワーク」


「怖い」


アグリは笑った。


*


そして。


日曜日。


ユウキは駅前にいた。


三日連続。


女子と二人きり。


「……大学ってこんな忙しいの?」


「何が?」


声。


振り返る。


アヤネ。


白いブラウスに。


淡い青のスカート。


大学で見るより。


少し大人っぽい。


「待った?」


「今来た」


「よかった」


アヤネが微笑む。


「じゃあ行こ」


「今日はどこ?」


「映画」


「何見る?」


「恋愛映画」


「変更できる?」


「できません」


「即答」


「チケット買いました」


「計画的犯行だな」


「昨日から楽しみにしてたから」


その一言に。


ユウキは何も言えなくなった。


*


映画館。


隣同士。


上映開始。


恋人同士の物語だった。


出会って。


恋をして。


すれ違って。


別れる。


そして。


再会する。


終盤。


スクリーンの二人がキスをする。


ユウキの胸に。


嫌でも。


ミヤビが浮かんだ。


最後のキス。


『好きになってくれて、ありがとう』


拳を握る。


そのとき。


指先に。


何かが触れた。


アヤネの手。


「……」


彼女はスクリーンを見たまま。


何も言わない。


ただ。


小指だけが触れている。


ユウキは。


手を引かなかった。


*


映画終了。


外へ出る。


「面白かった?」


アヤネが聞く。


「まあ」


「泣いた?」


「泣いてない」


「目赤い」


「暗かったから」


「便利だね、暗闇」


以前の夕日と同じ言い方。


ユウキは笑った。


「アヤネ」


「ん?」


「さっき」


「手?」


「……うん」


「嫌だった?」


ユウキは考える。


「嫌じゃなかった」


アヤネの頬が。


ほんのり赤くなる。


「そっか」


それだけ。


それ以上は。


触れてこなかった。


*


帰り道。


川沿い。


夕方。


アヤネが歩調を緩める。


「ユウキ」


「何?」


「元カノのこと考えてたでしょ」


隠せない。


「少し」


「映画?」


「うん」


「キスのシーン?」


ユウキは驚く。


「なんで分かる?」


「そのときだけ顔が悲しそうだった」


アヤネは。


本当によく見ている。


「ごめん」


ユウキが言う。


「なんで謝るの?」


「せっかく二人でいるのに」


「いいよ」


アヤネは立ち止まった。


「忘れなくていい」


「……」


「私」


一歩。


ユウキへ近づく。


「元カノを忘れさせるために付き合いたいわけじゃない」


「アヤネ」


「恋を忘れるための恋なんて」


真っ直ぐ見つめる。


「私は嫌」


風が吹く。


髪が揺れる。


「だから」


アヤネが笑う。


「ちゃんと終わってから、私を見て」


ユウキの胸が。


大きく鳴った。


*


「それ」


ユウキは言う。


「告白?」


「まだ」


「まだ?」


「だって今告白しても断るでしょ」


「……たぶん」


「だからしない」


「合理的だな」


「ユウキほどじゃないよ」


そして。


アヤネは右手を差し出した。


「でも」


「何?」


「今日だけ」


その手。


意味は分かった。


「友達なのに?」


「友達でも手くらい繋ぐよ」


「昨日俺が言ったやつ」


「使わせてもらいました」


ユウキは。


その手を見る。


ミヤビと。


何度も繋いだ。


指を絡めて。


離したくないと思った。


だから。


怖い。


けれど。


アヤネは待っている。


ユウキは。


ゆっくり。


手を重ねた。


「……今日だけ」


「うん」


アヤネの指が。


そっと握る。


恋人繋ぎにはしない。


ただ。


普通に手を繋ぐ。


その距離が。


今の二人には。


ちょうどよかった。


*


駅。


「今日はありがとう」


「俺も楽しかった」


「ほんと?」


「ほんと」


アヤネが笑う。


「じゃあ次もあるね」


「もう決定?」


「嫌?」


「……嫌じゃない」


「よし」


手を離す。


少し。


名残惜しそうに。


「ユウキ」


「ん?」


「私」


アヤネが。


ほんの少しだけ近づく。


「結構、本気だから」


囁いて。


離れる。


「また明日」


改札へ消えていった。


ユウキは。


しばらく動けなかった。


*


その夜。


ベッド。


スマートフォンを見る。


アヤネから。


『今日はありがとう♡』


写真。


映画館の前で撮った二人。


アグリからも。


昨日の猫のぬいぐるみの写真。


『名前ユウキにした』


『やめろ』


『じゃあユッキー』


『もっとやめろ』


イノリから。


『明日の数学、教えてください』


三人。


それぞれ違う。


そして。


ユウキは。


ミヤビとのトーク画面を開いた。


久しぶりだった。


送らない。


ただ。


最後のメッセージを見た。


思い出す。


楽しかったこと。


苦しかったこと。


最後の抱擁。


最後のキス。


「……ミヤビ」


名前を口にする。


胸は痛い。


でも。


以前より少しだけ。


呼吸ができた。


画面を閉じる。


*


そのころ。


別の大学。


仁科ミヤビは。


一人で図書館にいた。


数学の参考書を開く。


スマートフォンが震える。


知らない男子から。


『今度二人でご飯行かない?』


ミヤビは。


しばらく画面を見る。


昔なら。


断れなかった。


誰かに求められることが。


嬉しかったから。


でも。


今は。


『ごめんなさい。二人では行けません』


送信。


スマートフォンを伏せる。


寂しい。


それでも。


誰かで埋めない。


「……これでいい」


自分に言う。


ふと。


ユウキを思い出す。


会いたい。


声を聞きたい。


キスしてほしい。


抱きしめてほしい。


その気持ちは。


まだ消えていない。


それでも。


連絡はしなかった。


*


二人は。


別々の場所で。


少しずつ前へ進んでいた。


ユウキには。


三人の少女。


ミヤビには。


初めて覚える一人の時間。


そして。


五月。


桜井アヤネは。


ついに待つことをやめる。


誰もいない講義室。


夕暮れ。


ユウキの目の前に立って。


こう言う。


「佐藤ユウキくん。私と付き合ってください」


そしてユウキは。


ミヤビと別れて以来初めて。


新しい恋に。


答えを出すことになる。


第2期 第3話 了

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


ユウキたちの物語を少しでも「続きが気になる」「面白かった」と思っていただけましたら、評価をいただけると、とても励みになります。


また、


「このシーンが好き!」

「このキャラを応援したい!」

「ここからどうなるの!?」

「自分ならこうする!」


など、短い一言でも大歓迎です。


皆様の感想・コメント・レビュー、楽しく読ませていただきます。


特に推しキャラについて語っていただけるのも嬉しいです。


ユウキ、ミヤビ、アヤネ、イノリ、アグリ――。


物語が進むにつれて、それぞれの恋や選択も大きく動いていきます。


誰を好きになるか。


誰を応援するか。


ぜひ皆様自身の目で見届けてください。


そして、続きも読んでみたいと思っていただけましたら、作品のフォロー・ブックマークもしていただけると嬉しいです。


それでは、次のお話で。


次回もよろしくお願いします!

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