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金曜日に別れた君と、もう一度恋をする。  作者: こよみん


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15/28

第2期 第2話 桜井アヤネは距離が近い

挿絵(By みてみん)


「付き合ってほしいところがあるの」


そう言って。


桜井アヤネがユウキを連れてきたのは――。


「……本屋?」


「うん」


「一人で来られるだろ」


「来られるよ?」


「じゃあなんで俺を」


「ユウキと来たかったから」


あっさり。


本当にあっさり言われた。


ユウキは返事に困る。


アヤネはそんなユウキを見て、楽しそうに笑った。


「今、ちょっと意識した?」


「してない」


「目逸らした」


「本探すぞ」


「逃げた」


「うるさい」


大学生活が始まって、まだ一週間。


なのに桜井アヤネは。


もうずいぶん前から友達だったような距離感で、ユウキの隣を歩いていた。


*


「参考書?」


「そう」


大学数学の棚。


アヤネは一冊抜き取る。


ぱらぱら。


三ページほど読んで。


閉じた。


「分からない」


「早すぎるだろ」


「だって記号ばっかり」


「大学なんだから」


「ユウキは分かる?」


渡される。


ユウキはページを見る。


「この辺なら」


「やっぱり」


アヤネがにこっと笑う。


「じゃあこれ買う」


「待て」


「何?」


「分からない本買ってどうする」


「ユウキに教えてもらう」


「俺がセットなの?」


「うん」


「聞いてない」


「今言った」


以前も。


似たようなことがあった。


数学。


分からないふり。


勉強を教える。


そこから始まった恋。


けれど。


目の前のアヤネは。


本当に分かっていなさそうだった。


「……ここ解いてみて」


「今?」


「今」


参考書の例題を指す。


アヤネは考える。


一分。


二分。


「無理」


「本当に数学苦手なんだな」


「失礼」


「安心した」


「なんで?」


「なんでもない」


ユウキは笑った。


アヤネが。


その横顔をじっと見ていた。


*


本を買ったあと。


「付き合ってくれたお礼」


アヤネが指差したのは。


本屋の隣にあるカフェだった。


「奢る」


「いいよ」


「じゃあデート代ってことで」


「待て」


アヤネが先に店へ入る。


「デートじゃないだろ」


「男女二人でお茶」


「友達でもする」


「じゃあ友達デート」


「便利な言葉作るなよ」


窓際の席。


向かい合わせ。


アヤネはカフェラテ。


ユウキはアイスコーヒー。


「ユウキってさ」


「ん?」


「高校の彼女と、どれくらい付き合ってたの?」


ストローを持つ手が止まる。


「……半年」


「そっか」


「聞かないんじゃなかった?」


「昨日はね」


アヤネが頬杖をつく。


「今日は二人だから」


「どういう理屈?」


「人前で聞かれるの嫌そうだったから」


ユウキは。


少し驚いた。


アヤネは距離が近い。


遠慮がない。


でも。


雑ではない。


「別れた理由は?」


「それも聞く?」


「嫌なら答えなくていい」


「……浮気」


アヤネの表情から。


笑顔が消えた。


「されたの?」


「うん」


「そっか」


それ以上。


何も聞かなかった。


「意外」


「何が?」


「もっと質問されると思った」


「聞いてほしい?」


「いや」


「じゃあ聞かない」


アヤネはカフェラテを飲む。


「ただ」


「うん」


「元カノ、見る目ないね」


「……え?」


「ユウキみたいな彼氏がいるのに浮気するなんて」


ユウキは苦笑した。


「俺のことまだ全然知らないだろ」


「これから知るから」


また。


自然に。


そんなことを言う。


「アヤネって」


「何?」


「男全員にそういう感じ?」


「どういう感じ?」


「距離近い」


アヤネは少し考えた。


そして。


「ユウキだけ」


と答えた。


*


心臓が。


少しだけ跳ねた。


それが嫌だった。


「そういうこと簡単に言うなよ」


「簡単じゃないよ」


「まだ会って一週間だぞ」


「一週間あれば、気になるには十分じゃない?」


「……」


「付き合ってって言ってるわけじゃない」


アヤネが笑う。


「ただ、気になってる」


真っ直ぐだった。


誤魔化さない。


ユウキが一番困るタイプだった。


「俺」


「うん」


「しばらく恋愛するつもりない」


「知ってる」


「言ってないけど」


「顔見れば分かる」


「そんな顔してる?」


「してる」


アヤネは指を伸ばす。


ユウキの眉間。


ちょん。


「ここ」


「触るな」


「元カノの話すると、すぐ難しい顔になる」


「……悪かったな」


「だから」


手を引っ込める。


「急がない」


「え?」


「私、待つの得意だから」


アヤネは笑った。


「今は友達でいいよ」


その言葉に。


ユウキは。


少しだけ安心した。


*


店を出る。


午後六時。


「駅まで?」


「うん」


並んで歩く。


その途中。


「ユウキ」


「何?」


「手」


「手?」


アヤネが右手を出す。


「荷物持って」


「そっちかよ」


「何だと思った?」


「何も」


「手繋ぐと思った?」


「思ってない」


「顔赤い」


「夕日のせい」


「便利だね、夕日」


参考書の入った紙袋を渡される。


「重い」


「男の子でしょ」


「男女平等は?」


「こういうときだけ廃止」


「最低だ」


「ありがとう」


「まだ何もしてない」


「持ってくれてる」


その笑顔。


悪くなかった。


*


駅の改札前。


「じゃあまた明日」


アヤネが紙袋を受け取る。


「ちゃんと勉強しろよ」


「先生」


「誰が先生だ」


「佐藤先生」


「教える約束してない」


「え?」


アヤネが首を傾げる。


「参考書買ったんだから責任取って」


「なんの責任だよ」


「明日、一時間」


「……学食なら」


「やった」


「一時間だけな」


「二時間」


「増やすな」


「じゃあ一時間半」


「交渉するな」


笑う。


アヤネが。


急に一歩近づいた。


近い。


「……何?」


「ユウキ」


「うん」


「今日はありがと」


「どういたしまして」


「楽しかった」


「俺も」


言ったあと。


アヤネの目が少し丸くなる。


「今の、嬉しい」


「大げさ」


「じゃあ」


さらに。


ほんの少し。


距離が縮まった。


顔が近い。


「またデートしようね」


「だからデートじゃ――」


ユウキが言い終わる前に。


アヤネは離れた。


「ばいばい」


手を振って。


改札の向こうへ消えていった。


「……距離近すぎだろ」


ユウキは。


一人になってから呟いた。


*


その夜。


『明日よろしくね、先生』


アヤネからメッセージ。


『先生やめろ』


『じゃあユウキ先生♡』


『悪化してる』


『おやすみ♡』


ハート。


画面を見つめる。


ミヤビも。


よく使っていた。


胸が痛む。


トーク一覧。


下へ行けば。


まだ彼女がいる。


仁科ミヤビ。


開かない。


代わりに。


スマートフォンを伏せた。


*


翌日。


昼休み。


「ユウキ」


アグリが隣へ座った。


「昨日アヤネとデートしたんだって?」


「情報早すぎだろ」


「本人から聞いた」


「あいつ……」


「で?」


「何が」


「どうだった?」


「本屋行っただけ」


「二人で?」


「そう」


「カフェも?」


「行った」


アグリが。


じーっと見つめる。


「デートじゃん」


「違う」


「デートだよ」


「本人にも言われた」


「アヤネ、攻めるなぁ」


妙に感心している。


「面白がるな」


「だって」


アグリが。


少しだけ笑顔を弱める。


「早い者勝ちになりそうだから」


「……何が?」


「なんでもない」


「今の絶対なんかあるだろ」


「乙女には秘密があるの」


「便利だな、その言葉」


「でさ」


アグリがユウキの肩を軽く叩く。


「今度は私とも遊ぼ」


「みんな急だな」


「アヤネだけずるいじゃん」


「何がずるいんだ」


「二人で遊んだこと」


「別にいいけど」


「ほんと?」


「友達だろ」


一瞬。


アグリの笑顔が止まる。


「……友達、ね」


「違うの?」


「今はね」


「今は?」


「なんでもなーい」


また。


逃げられた。


*


午後。


図書館。


「本当に来た」


ユウキが言う。


「約束したでしょ」


アヤネが隣に座る。


参考書を開く。


今日は。


本当に勉強だった。


「ここ」


「まず公式覚えて」


「公式多すぎ」


「高校でもやっただろ」


「忘れました」


「堂々と言うな」


三十分。


一時間。


アヤネは。


思ったより真面目だった。


「できた」


「正解」


「ほんと?」


「うん」


「やった」


アヤネが。


嬉しそうに笑う。


その笑顔を見た瞬間。


記憶が重なる。


『できた』


『最初からできるだろ』


ミヤビ。


ユウキの表情が。


曇った。


*


「ユウキ」


アヤネが呼ぶ。


「ん?」


「また元カノ?」


図星だった。


「……なんで分かる」


「顔」


「そんなに出る?」


「私が見てるから」


アヤネは。


ペンを置いた。


「まだ好き?」


ユウキは。


答えなかった。


「ごめん」


アヤネが言う。


「答えなくていい」


「……好きだと思う」


初めて。


大学で。


誰かに言った。


「でも戻るつもりはない」


「そっか」


「だから」


「うん」


「俺に近づいても、たぶん面倒だぞ」


アヤネは。


少し笑った。


「それ、私に諦めろって言ってる?」


「そこまで言ってない」


「ならいい」


「いいのかよ」


「だって」


アヤネが。


ユウキの手のすぐ隣に。


自分の手を置く。


触れない。


あと数センチ。


「今すぐ私を好きになってなんて言わない」


そして。


「ただ」


ユウキを見る。


「いつか誰かを好きになれるなら」


少しだけ。


頬を赤くして。


「候補に私を入れて」


ユウキは。


何も言えなかった。


*


図書館を出る。


「じゃあね」


「うん」


アヤネが歩いていく。


ユウキは。


その背中を見る。


まだ。


恋ではない。


でも。


確実に。


何かが動き始めていた。


*


少し離れた場所。


「……なるほど」


大西アグリが。


偶然。


二人を見ていた。


「アヤネ、本気じゃん」


いつもの笑顔。


でも。


ほんの少しだけ。


寂しそうだった。


そして。


さらに。


そのアグリの後ろ。


「何が本気なんですか?」


「うわっ!」


振り返る。


南イノリ。


「イノリ!? いつからいたの?」


「今来ました」


「心臓止まるかと思った」


「生きてますよ」


「そういう問題じゃない」


イノリは。


遠ざかっていくユウキを見る。


「桜井さん」


「ん?」


「佐藤くんのこと好きなんですか?」


「たぶん」


「そうですか」


「反応薄いね」


「では」


イノリが。


いつもの静かな顔で言った。


「私も、少し急いだ方がよさそうですね」


アグリの笑顔が。


完全に止まった。


「……え?」


イノリは答えず。


歩き出した。


*


その日の夜。


ユウキのスマートフォンに。


三件。


ほぼ同時にメッセージが届いた。


アヤネ。


『次の日曜日、空いてる?』


アグリ。


『土曜日遊びに行こ!』


そして。


イノリ。


『佐藤くん。明日の放課後、二人で話したいです』


ユウキは。


三つのメッセージを見比べる。


「……なんでこうなった?」


高校時代。


金曜日だけだった恋。


大学では。


土曜日。


日曜日。


そして平日まで。


予定が埋まり始めていた。


けれど。


かつてのミヤビとは違う。


ユウキはまだ。


誰の恋人でもない。


だからこそ。


ここから先。


誰か一人を選ばなければならない日が。


いずれやってくる。


そして最初に。


ユウキの止まった時間へ踏み込むのは――。


桜井アヤネだった。


第2期 第2話 了

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


ユウキたちの物語を少しでも「続きが気になる」「面白かった」と思っていただけましたら、評価をいただけると、とても励みになります。


また、


「このシーンが好き!」

「このキャラを応援したい!」

「ここからどうなるの!?」

「自分ならこうする!」


など、短い一言でも大歓迎です。


皆様の感想・コメント・レビュー、楽しく読ませていただきます。


特に推しキャラについて語っていただけるのも嬉しいです。


ユウキ、ミヤビ、アヤネ、イノリ、アグリ――。


物語が進むにつれて、それぞれの恋や選択も大きく動いていきます。


誰を好きになるか。


誰を応援するか。


ぜひ皆様自身の目で見届けてください。


そして、続きも読んでみたいと思っていただけましたら、作品のフォロー・ブックマークもしていただけると嬉しいです。


それでは、次のお話で。


次回もよろしくお願いします!

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