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金曜日に別れた君と、もう一度恋をする。  作者: こよみん


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第2期 第1話 春と、三人の彼女

挿絵(By みてみん)


四月。


大学生になって最初に気づいたことがある。


高校を卒業したからといって、人間は急に大人にはならない。


佐藤ユウキは、真新しい講義棟の前で一人、ため息をついた。


「……どこだよ、三〇二」


入学式から数日。


キャンパスの地理はいまだに理解できていない。


数学なら、答えまでの道筋は考えれば分かる。


だが大学の建物には法則性がない。


少なくともユウキにはそう思えた。


「佐藤ユウキくーん!」


後ろから、聞き覚えのある声。


振り返る。


「やっぱりユウキくんだ」


大西アグリ。


入学式の日に知り合った同学部の女子だ。


明るい髪を揺らしながら駆け寄ってくる。


「三〇二探してる?」


「なんで分かった」


「さっきから同じところ三周してるから」


「……見てたのかよ」


「迷子のイケメンがいるなーって」


「誰が迷子だ」


「ユウキくん」


即答された。


アグリは楽しそうに笑う。


「こっち」


「知ってるの?」


「知らない」


「おい」


「一緒に迷えば怖くないよ」


「何も解決してないだろ」


大学生活。


先行きが不安になった。


*


結局。


三〇二号室は別棟だった。


「間に合ったぁ……」


アグリが席へ倒れ込む。


「走らせたのお前だからな」


「でも間に合ったじゃん」


「結果論」


「ユウキくん細かい」


「数学好きだから」


「関係ある?」


「ない」


二人で話していると。


「そこ、空いてますか?」


声。


顔を上げる。


長い髪を肩から流した少女が立っていた。


桜井アヤネ。


入学式の日に少し話した女子だ。


「あ、受付の」


ユウキが言うと。


「覚えてたんですね」


「名前も。桜井アヤネ」


「……意外」


「どういう意味?」


「女の子の名前とか覚えなさそうなので」


「俺、どう思われてるんだ」


アヤネがくすりと笑う。


「隣、いいですか?」


「どうぞ」


「ありがとう」


アヤネがユウキの隣に座った。


反対側にはアグリ。


「……何?」


アグリがじっとこちらを見る。


「別にー」


「なんだよ」


「両手に花だなと思って」


「そういうこと言うな」


アヤネが笑う。


「大西さん、面白いですね」


「アグリでいいよ。私もアヤネって呼ぶ」


「じゃあ、私もアグリで」


女子二人は。


三十秒で仲良くなった。


「で、ユウキ」


アヤネが言った。


「なんで俺まで呼び捨てになった?」


「流れです」


「俺の意思は?」


「却下」


「聞いてすらいないだろ」


また二人が笑った。


悪くない。


ユウキも。


少しだけ笑った。


*


講義が始まる。


教授が黒板に数式を書く。


ユウキの表情が変わった。


「……懐かしい」


高校数学の復習。


微分。


積分。


「ユウキ」


隣から小声。


アヤネだった。


「ここ」


ノートを指差す。


「なんでこうなるの?」


ユウキの指が止まった。


『数学、教えてくれない?』


半年前。


同じように。


一人の少女が自分の前へやってきた。


「……ユウキ?」


「あ」


我に返る。


「ごめん」


「大丈夫?」


「うん」


問題を見る。


「ここは、この式を先に変形して――」


説明する。


アヤネは真剣に聞いていた。


「なるほど」


数分後。


「分かった」


「よかった」


「教えるの上手だね」


その言葉まで。


同じだった。


胸の奥が。


少しだけ痛んだ。


*


昼。


学生食堂。


「ユウキって彼女いるの?」


アグリが唐突に聞いた。


ユウキは味噌汁を吹きそうになった。


「急だな」


「気になったから」


「いない」


「じゃあ高校時代は?」


箸が止まる。


「……いた」


アグリが身を乗り出す。


「おお」


アヤネもこちらを見る。


「どんな人?」


「普通」


「絶対嘘」


「なんで」


「ユウキの顔が普通じゃない」


アグリが言った。


「まだ好きなんじゃない?」


一瞬。


答えられなかった。


アヤネがアグリを見る。


「アグリ」


「ん?」


「それ以上は聞かない方がいいかも」


「……あ」


空気を察したらしい。


「ごめん」


「別にいいよ」


ユウキは笑う。


「別れた。それだけ」


そう。


別れた。


それだけだ。


それ以上でも。


それ以下でもない。


そう思いたかった。


*


午後。


必修講義。


ユウキは一番後ろの席を選んだ。


今日はもう静かに過ごしたい。


そう思っていたのだが。


「ここ、いいですか」


また女子の声だった。


「どうぞ」


顔を上げる。


知らない少女。


いや。


どこかで見た。


入学式の日。


案内板の前に一人で立っていた少女だ。


「南イノリです」


「佐藤ユウキ」


「知ってます」


「え?」


「午前の授業で先生に当てられてたから」


「ああ」


「あの問題、よく即答できましたね」


「数学は得意だから」


「私、数学嫌いです」


「真逆だな」


「数字って冷たいので」


不思議なことを言う。


「数字に温度なんかないだろ」


「だから冷たいんです」


「……なるほど?」


分からない。


イノリが小さく笑った。


「佐藤くん、面白いですね」


「今日二回くらい言われた」


「モテそう」


「それは言われてない」


「じゃあ私が最初ですね」


「嬉しくないけど」


「どうして?」


「モテたっていいことばかりじゃない」


言ってから。


余計なことを言ったと思った。


イノリは。


それ以上聞かなかった。


「そうですか」


ただ。


静かに答えた。


*


講義終了。


「佐藤くん」


イノリが呼び止める。


「何?」


「連絡先、交換しません?」


「俺と?」


「他に誰がいるんですか」


「いや、今日初めて話したから」


「大学では普通じゃないですか?」


「まあ」


スマートフォンを出す。


交換。


「ありがとうございます」


「うん」


「数学分からなかったら聞いていいですか?」


また。


数学。


ユウキは苦笑した。


「基礎問題をわざと間違えたりしないなら」


「……?」


「なんでもない」


イノリには意味が分からない。


それでいい。


*


大学を出る。


「ユウキ!」


今度はアグリ。


「一緒に帰ろ」


「方向同じ?」


「知らない」


「じゃあ確認しろよ」


「駅までは一緒でしょ」


その後ろから。


「私も駅まで行きます」


アヤネ。


そして。


「私もです」


イノリ。


ユウキは三人を見る。


「……なんで全員いるんだよ」


「人気者」


アグリが笑う。


「やめろ」


四人で歩く。


アグリがよく喋り。


アヤネが笑い。


イノリが時々鋭いことを言う。


不思議だった。


高校を卒業したとき。


もうしばらく誰とも親しくなりたくないと思っていた。


なのに。


大学生活は。


こちらの都合など待ってくれないらしい。


*


駅。


「じゃあ明日ね」


アグリが手を振る。


「また明日」


アヤネも。


イノリは小さく頭を下げた。


三人が別々の方向へ歩いていく。


ユウキは一人になる。


ホームへ向かう途中。


スマートフォンが震えた。


アグリ。


『今日はありがと!』


続いて。


アヤネ。


『数学、また教えてね』


さらに。


イノリ。


『連絡先ありがとうございます』


「……一気に増えたな」


半年前なら。


この時間。


待っていた名前は一つだけだった。


仁科ミヤビ。


トーク一覧を下へスクロールする。


そこに。


まだ残っている。


最後のメッセージ。


送るつもりはない。


ただ。


消せないだけだ。


そのとき。


アヤネからもう一件。


『ところで、明日の放課後って暇?』


ユウキは画面を見る。


少し迷って。


『暇だけど』


返信した。


*


翌日。


講義が終わる。


「ユウキ」


アヤネが教室の入口で待っていた。


「昨日の話」


「ああ」


「付き合ってほしいところがあるの」


「どこ?」


「来れば分かる」


「怪しい」


「女の子からのお誘いなんだけど?」


「余計怪しい」


「ひどい」


笑いながら。


アヤネが歩き出す。


ユウキもついていく。


まだ知らなかった。


この日から。


桜井アヤネとの距離が。


急速に縮まっていくことを。


そして。


大西アグリも。


南イノリも。


それぞれ別の想いを。


ユウキへ向け始めることを。


高校最後の恋は。


金曜日に終わった。


大学最初の恋は――。


曜日を決めずに、始まろうとしていた。


第2期 第1話 了

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


ユウキたちの物語を少しでも「続きが気になる」「面白かった」と思っていただけましたら、評価をいただけると、とても励みになります。


また、


「このシーンが好き!」

「このキャラを応援したい!」

「ここからどうなるの!?」

「自分ならこうする!」


など、短い一言でも大歓迎です。


皆様の感想・コメント・レビュー、楽しく読ませていただきます。


特に推しキャラについて語っていただけるのも嬉しいです。


ユウキ、ミヤビ、アヤネ、イノリ、アグリ――。


物語が進むにつれて、それぞれの恋や選択も大きく動いていきます。


誰を好きになるか。


誰を応援するか。


ぜひ皆様自身の目で見届けてください。


そして、続きも読んでみたいと思っていただけましたら、作品のフォロー・ブックマークもしていただけると嬉しいです。


それでは、次のお話で。


次回もよろしくお願いします!

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