↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金曜日に別れた君と、もう一度恋をする。  作者: こよみん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/29

第1期 第13話 さよなら、金曜日の恋人

挿絵(By みてみん)


別れた翌朝。


佐藤ユウキは、いつもの時間に目を覚ました。


天井。


カーテン。


机。


本棚。


何も変わっていない。


ただ。


ベッドの右側が広かった。


「……そっか」


もう。


来週の金曜日にミヤビは来ない。


*


スマートフォンを開く。


通知はない。


以前なら。


『おはよう♡』


あるいは。


『起きた?』


そんなメッセージが届いていた。


トーク画面を開く。


最後のやり取りは、卒業式前日。


『明日、ちゃんと笑うね』


それだけだった。


消そうと思えば消せる。


写真も。


メッセージも。


連絡先も。


でも。


ユウキは何一つ消せなかった。


「……未練ありすぎだろ」


自分で自分に呆れる。


好きなまま別れた。


そんなもの。


すぐに忘れられるはずがなかった。


*


午前十時。


インターホンが鳴った。


「誰だ?」


宅配便でも頼んだか。


モニターを見る。


ユウキの動きが止まった。


ミヤビ。


「……なんで」


昨日。


別れた。


最後にキスした。


最後に抱きしめた。


もう会わない。


そういう別れだったはずだ。


インターホンがもう一度鳴る。


ユウキは迷った末。


玄関へ向かった。


扉を開ける。


「……おはよう」


ミヤビが立っていた。


制服ではない。


白いブラウス。


淡い色のスカート。


目元は少し腫れている。


「何しに来た?」


責めるつもりはなかった。


でも。


優しく言えば。


また戻りたくなる。


「ごめん」


ミヤビは。


小さな封筒を差し出した。


「これだけ渡したくて」


「何?」


「帰ってから読んで」


「今じゃ駄目?」


「……目の前で読まれたら逃げたくなるから」


「何それ」


「最後の秘密」


その言葉に。


ユウキの胸が痛んだ。


「まだあるの?」


「うん」


ミヤビは頷く。


「でも、これは」


少し笑った。


「最初から最後まで、本当だったこと」


封筒を受け取る。


「じゃあ」


ミヤビは一歩下がった。


「今度こそ、ばいばい」


「ミヤビ」


反射的に呼び止めた。


「……何?」


振り返る。


何を言うつもりだったのか。


自分でも分からない。


行くな。


なのか。


元気で。


なのか。


まだ好きだ。


なのか。


結局。


「……大学、頑張れよ」


それしか言えなかった。


ミヤビは。


泣きそうに笑った。


「ユウキくんも」


そして。


今度こそ。


歩いていった。


*


部屋へ戻る。


封筒を開く。


中には。


一枚の便箋。


そして。


古い紙が一枚。


数学の小テストだった。


二年生のときのもの。


ユウキのものではない。


名前。


仁科ミヤビ。


点数。


百点。


「……やっぱ数学得意じゃん」


思わず笑った。


便箋を開く。


『ユウキくんへ。


これを読むころには、私はもう帰っていると思います。


最初に謝ります。


数学が苦手だと言ったのは、やっぱり完全な嘘でした。


むしろ数学は好きです。


あの日見せた問題も全部解けました。


ごめんなさい。


でも。


ユウキくんに声をかけた理由まで、全部嘘だったわけじゃありません。』


ユウキは。


続きを読んだ。


*


二年生の冬。


ミヤビは図書室で。


ユウキを見かけた。


友達に数学を教えていた。


何度間違えられても。


馬鹿にせず。


怒らず。


別の説明を考えていた。


『ここまで分かったなら大丈夫』


そう言って笑った。


その言葉を。


ミヤビは覚えていた。


『そのころの私は、もう何人もの人と付き合っていました。


自分でもおかしいと思っていました。


でも、一人になるのが怖くてやめられませんでした。


そんなとき。


ユウキくんを見つけました。


優しそうだと思いました。


この人なら私を嫌わないかもしれない。


そんな最低な理由で、ずっと少しだけ気になっていました。』


そして。


三年生の九月。


金曜日の相手との関係が終わった。


予定が空いた。


ミヤビは。


ユウキを思い出した。


『だから最初は、本当に最低でした。


金曜日が空いた。


だったら佐藤ユウキくんに声をかけてみよう。


それだけでした。


でも。


誰でもよかったわけではありません。


空いた金曜日に会いたいと思ったのは。


最初からユウキくんでした。』


ユウキの指が止まる。


*


『数学を教えてもらった最初の日。


本当は一時間も必要ありませんでした。


でも帰りたくありませんでした。


もっと話したかった。


だからわざとゆっくり問題を解きました。


連絡先を交換できたとき。


すごく嬉しかったです。


あの日。


家に帰ってから。


私は金曜日の予定に「ユウキ」と入れました。


最初は他の曜日と同じだと思っていました。


でも。


違いました。』


便箋に。


一滴だけ。


水滴の跡があった。


たぶん。


書いているときに落ちた涙。


『他の曜日は。


寂しくならないために会っていました。


金曜日だけは。


ユウキくんに会いたいから会っていました。』


ユウキは。


目を閉じた。


「……遅いよ」


そんなこと。


今さら知って。


どうしろというのか。


*


続きを読む。


『初めて手を繋いだ日。


初めてキスした日。


恋人になった日。


ユウキくんの部屋に初めて泊まった日。


全部覚えています。


ユウキくんにとって大切な初めてを、たくさん私がもらいました。


なのに私は。


同じくらい大切なものを返せませんでした。


嘘をつきました。


裏切りました。


だから。


別れたことを責めません。


当然だと思っています。』


そして。


最後。


『でも一つだけ。


覚えていてほしいです。


私はユウキくんを本当に好きでした。


今も好きです。


たぶん。


しばらくずっと好きです。


でも、もう追いかけません。


次に誰かを好きになるなら。


寂しさを埋めるためじゃなく。


その人一人だけを好きになれる私になります。


だから。


ユウキくんも幸せになってください。


半年間。


私の金曜日になってくれて。


ありがとう。


さようなら。


仁科ミヤビ』


読み終える。


長い間。


ユウキは動けなかった。


*


追いかければ。


まだ間に合う。


そう思った。


マンションを飛び出して。


駅へ走れば。


ミヤビに会えるかもしれない。


そして。


『やっぱり別れたくない』


そう言えば。


きっと。


ミヤビは泣いて頷く。


分かっていた。


それでも。


ユウキは立ち上がらなかった。


好きだから。


戻る。


それだけでは。


また同じところで傷つく。


信じたい。


でも。


まだ信じきれない。


そして。


そんな状態で付き合うことは。


きっと二人のためにならない。


「……さよなら、ミヤビ」


誰もいない部屋で。


初めて。


ちゃんと言った。


*


三月最後の金曜日。


午後四時。


ユウキは。


一人で駅前を歩いていた。


気づけば。


足が公園へ向かっていた。


初めて。


ミヤビとキスをした場所。


ベンチに座る。


半年。


金曜日になると。


必ずミヤビがいた。


「……暇だな」


呟く。


スマートフォンは鳴らない。


誰も。


『会いたい』


とは言わない。


寂しい。


でも。


これでいい。


今は。


そう思うことにした。


*


同じころ。


少し離れた街。


ミヤビも。


一人でいた。


スマートフォンの予定表を開く。


月曜日。


空白。


火曜日。


空白。


水曜日。


空白。


木曜日。


空白。


金曜日。


――ユウキ。


土曜日。


空白。


日曜日。


空白。


最後に残った名前。


指を置く。


削除。


確認画面。


『予定を削除しますか?』


ミヤビは。


しばらく動けなかった。


そして。


「……さよなら」


削除した。


一週間。


すべて空白になった。


以前のミヤビなら。


耐えられなかった。


空白を見るだけで怖かった。


今も怖い。


寂しい。


それでも。


誰かの名前で埋めようとは思わなかった。


「大丈夫」


自分に言う。


「一人でも、大丈夫」


涙は出た。


それでも。


予定表を閉じた。


*


四月。


大学の入学式。


佐藤ユウキは。


新品のジャケットに袖を通していた。


高校の制服は。


もうない。


周囲には。


知らない顔ばかり。


「佐藤ユウキくん?」


突然。


後ろから名前を呼ばれた。


振り返る。


そこにいたのは。


知らない少女だった。


明るい髪。


人懐っこい笑顔。


「やっぱり! 新入生のグループで名前見た!」


「えっと……」


「大西アグリ」


少女は笑う。


「同じ学部。よろしくね」


「ああ。よろしく」


その直後。


「あの」


別の声。


振り向く。


落ち着いた雰囲気の少女。


「ここ、経済学部の受付で合ってます?」


「たぶん」


「よかった」


彼女は胸元の資料を見る。


「桜井アヤネです」


そして。


さらに少し離れたところ。


一人で案内板を見上げている少女。


風に髪が揺れていた。


後に。


南イノリと名乗ることになる。


このとき。


ユウキはまだ知らない。


三人の少女が。


それぞれ違う形で。


自分の大学生活に入り込んでくることを。


*


入学式が終わる。


キャンパスを歩く。


スマートフォンが震えた。


一瞬。


胸が跳ねた。


ミヤビ。


そう思ってしまった。


違った。


大学からの通知だった。


「……まだ駄目だな」


苦笑する。


でも。


少しずつでいい。


忘れる必要はない。


前へ進めばいい。


ユウキは。


スマートフォンをポケットへ戻した。


*


そして。


同じ春。


別の大学。


仁科ミヤビも。


新しいキャンパスを歩いていた。


一人で。


誰とも付き合わず。


誰かで寂しさを埋めることもなく。


新しい生活を始めていた。


ふと。


スマートフォンを見る。


金曜日。


予定なし。


少しだけ。


胸が痛んだ。


でも。


笑った。


「頑張ろ」


誰に言うでもなく。


歩き出す。


二人は別々の春へ進んだ。


もう恋人ではない。


連絡もしない。


会う約束もない。


それでも。


二人ともまだ知らない。


何年か先。


偶然もう一度出会ったとき。


ユウキが最初に思うことを。


――綺麗になったな。


そして。


ミヤビが最初に思うことを。


――やっぱり、好き。


ただし。


それはまだ。


ずっと先の話だ。


今は。


新しい恋が始まる。


桜井アヤネ。


南イノリ。


大西アグリ。


三人との出会いが。


ユウキに。


好きになること。


信じること。


別れること。


そして。


もう一度誰かを信じることを教えていく。


そのすべてを経験した先で。


いつか。


空白になった金曜日に。


もう一度。


同じ名前が書かれる日が来る。


今度は。


七人目ではない。


たった一人として。


――第1期 完――


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


ユウキたちの物語を少しでも「続きが気になる」「面白かった」と思っていただけましたら、評価をいただけると、とても励みになります。


また、


「このシーンが好き!」

「このキャラを応援したい!」

「ここからどうなるの!?」

「自分ならこうする!」


など、短い一言でも大歓迎です。


皆様の感想・コメント・レビュー、楽しく読ませていただきます。


特に推しキャラについて語っていただけるのも嬉しいです。


ユウキ、ミヤビ、アヤネ、イノリ、アグリ――。


物語が進むにつれて、それぞれの恋や選択も大きく動いていきます。


誰を好きになるか。


誰を応援するか。


ぜひ皆様自身の目で見届けてください。


そして、続きも読んでみたいと思っていただけましたら、作品のフォロー・ブックマークもしていただけると嬉しいです。


それでは、次のお話で。


次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。