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金曜日に別れた君と、もう一度恋をする。  作者: こよみん


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12/28

第1期 第12話 最後のデート

挿絵(By みてみん)


卒業証書を受け取った。


三年間通った教室で、最後のホームルームを終えた。


泣いているクラスメイトがいた。


笑って写真を撮るやつもいた。


制服の第二ボタンを渡している男子もいた。


三年間。


長かったはずなのに。


終わってしまえば、あっけなかった。


佐藤ユウキは窓際の自分の席に座り、誰もいなくなった教室を眺めていた。


そして。


午後三時十七分。


教室の扉が開いた。


「……待った?」


仁科ミヤビだった。


*


「いや」


「そっか」


ミヤビは笑った。


制服姿。


長い黒髪。


胸元には卒業式でもらった花。


半年前。


『数学、教えて』


そう言って現れたときと、ほとんど変わらない。


なのに。


ユウキには別人のようにも見えた。


「卒業、おめでとう」


ミヤビが言う。


「ミヤビも」


「うん」


沈黙。


本当なら。


今日は二人で笑っているはずだった。


卒業したね。


大学でもよろしく。


そんなことを言って。


きっと。


誰もいない教室でキスをしていた。


でも。


今はできない。


「ユウキくん」


「うん」


「答え、決まった?」


ユウキは。


すぐに答えられなかった。


決まっている。


ずっと前から。


それでも。


口にすれば。


本当に終わる。


*


「その前に」


ミヤビが言った。


「一個だけ、お願いしていい?」


「何?」


「今日、デートしない?」


ユウキは目を瞬く。


「……今日?」


「うん」


「今から?」


「最後に」


最後。


その二文字が重い。


ミヤビは笑っていた。


「半年間、金曜日しかちゃんとデートしてなかったでしょ?」


「今日は金曜日じゃないぞ」


「だから」


ミヤビが少しだけ笑う。


「最後くらい、曜日のルールなしにしたい」


ユウキは。


断れなかった。


*


最初に行ったのは。


駅前のショッピングモールだった。


「懐かしいね」


「半年しか経ってないけどな」


「半年も、だよ」


ゲームセンター。


二人で初めて写真を撮った場所。


「撮る?」


ミヤビが尋ねる。


ユウキは少し迷う。


「……撮ろうか」


二人で並ぶ。


以前なら。


ミヤビが腕を絡めて。


ユウキが照れて。


そんな写真だった。


今日は。


肩と肩の間に。


ほんの少し隙間があった。


撮影直前。


ミヤビが。


その隙間を埋めた。


肩が触れる。


「今日だけ」


小さな声。


「……うん」


写真が撮られた。


画面の中。


二人とも。


ちゃんと笑えていなかった。


*


次はクレープ。


「半分食べる?」


「また?」


「最初のデートと同じ」


「じゃあ半分」


ミヤビが一口。


ユウキが一口。


「間接キス」


ミヤビが言った。


「直接何回したと思ってるんだよ」


以前と。


まったく同じ会話。


二人とも気づいた。


ミヤビが笑う。


ユウキも笑った。


そして。


笑ったあと。


二人とも黙った。


楽しい。


だから。


苦しい。


*


夕方。


二人は川沿いを歩いた。


初めて。


恋人になった場所。


「覚えてる?」


「覚えてるよ」


「ここで告白した」


「俺もした」


「私が先だよ」


「そうだった?」


「そう」


ミヤビが立ち止まる。


「私ね」


夕日に照らされた横顔。


「あの日、本当に嬉しかった」


「うん」


「嘘じゃないよ」


「分かってる」


ミヤビが。


ユウキを見る。


「……信じてくれるの?」


「そこは信じてる」


「そっか」


少し。


泣きそうに笑った。


「それだけで十分」


*


二人はベンチに座った。


以前。


初めて唇を重ねた場所。


「ここ」


ミヤビが自分の唇を指差す。


「初キスした場所」


「俺にとってはな」


言った瞬間。


しまったと思った。


ミヤビの表情が止まる。


「……ごめん」


「いや」


「そうだよね」


「責めるつもりじゃなかった」


「分かってる」


ミヤビは俯く。


「私にとっても」


「え?」


「初めてみたいだった」


「……」


「キスなんて、それまで特別じゃなかった」


ミヤビは膝の上で手を握る。


「でもユウキくんとしたときだけ」


頬が少し赤くなる。


「家に帰ってからも、ずっと思い出してた」


ユウキの胸が痛む。


「言わないでくれ」


「……ごめん」


「嫌だからじゃない」


「うん」


「まだ好きだから」


ミヤビの目から。


涙が落ちた。


*


「ユウキくん」


「うん」


「手、繋いでいい?」


半年間。


何度も繋いだ。


恋人繋ぎ。


指を絡めて。


どこへ行くにも一緒だった。


「……今日だけ」


「うん」


手を差し出す。


ミヤビの指が触れる。


絡む。


「懐かしい」


「二週間前までやってただろ」


「二週間、長かったよ」


「俺も」


言ってしまった。


ミヤビがこちらを見る。


「……長かった?」


「金曜日、待ってた」


「来てほしかった?」


「少し」


「じゃあ行けばよかった」


「来たら困った」


「どっち?」


「両方」


ミヤビは笑う。


「ユウキくんらしい」


「何だそれ」


「優柔不断」


「悪かったな」


久しぶりに。


普通に笑えた。


*


夕日が沈む。


「次、どこ行く?」


ユウキが聞く。


「最後に行きたいところある」


「どこ?」


ミヤビは。


少し迷ってから答えた。


「ユウキくんの部屋」


ユウキの表情が固まる。


「……なんで」


「何もしない」


「そういう問題じゃ」


「分かってる」


ミヤビは。


手を握ったまま。


「最後に、あの部屋でちゃんとお別れしたい」


ユウキは。


長い間。


答えられなかった。


そして。


「分かった」


そう言った。


*


「お邪魔します」


玄関。


何十回も聞いた言葉。


ミヤビは靴を揃える。


部屋へ入る。


「……変わってない」


「二週間だからな」


「あ」


テーブルの端。


小さなヘアゴム。


「これ」


「最初に泊まったとき忘れたやつ」


「まだ持ってたの?」


「返すの忘れてた」


ミヤビは。


ヘアゴムを手に取った。


「もらっていい?」


「元々ミヤビのだろ」


「……うん」


大切そうに。


ポケットへ入れた。


*


二人でソファに座る。


以前なら。


肩を寄せた。


ミヤビがもたれかかった。


今日は。


少し離れている。


「ユウキくん」


「何?」


「半年間、楽しかった?」


「楽しかった」


即答した。


「本当に?」


「だから困ってる」


「……そっか」


「楽しくなかったら、もっと簡単だった」


「嫌いになれた?」


「たぶん」


「私も」


ミヤビは笑う。


「ユウキくんが最低な人だったらよかった」


「ひどいな」


「そしたら嫌いになれた」


「俺が悪いみたいじゃん」


「ちょっとだけ」


二人で笑った。


そして。


また沈黙。


*


「ミヤビ」


「うん」


「俺」


言わなければいけない。


ここまで。


先延ばしにした。


「別れたい」


ミヤビは。


目を閉じた。


「……うん」


「ごめん」


「謝らないで」


「でも」


「悪いの私だから」


「それでも」


「ユウキくん」


ミヤビが笑う。


涙が頬を伝っていた。


「半年間、彼女にしてくれてありがとう」


胸が締めつけられる。


「やめろよ」


「言わせて」


「……」


「最初は最低だった」


「うん」


「ユウキくんを金曜日の枠に入れただけだった」


「うん」


「でも」


涙を拭う。


「途中から、金曜日じゃなくなった」


「……」


「月曜日も会いたかった」


「うん」


「火曜日も」


「うん」


「水曜日も、木曜日も」


声が震える。


「土曜日も日曜日も」


そして。


「毎日、ユウキくんだけに会いたかった」


ユウキは。


何も言えなかった。


*


「最後に」


ミヤビが言う。


「一回だけ、わがまま言っていい?」


「……何?」


「抱きしめて」


ユウキは目を閉じる。


断るべきなのかもしれない。


これ以上。


思い出を増やさない方がいい。


でも。


半年間好きだった。


今だって好きだ。


だから。


腕を広げた。


ミヤビが飛び込んでくる。


抱きしめる。


強く。


「……ユウキくん」


「うん」


「好き」


「うん」


「大好き」


「……うん」


「忘れたくない」


「俺も」


「忘れないで」


「忘れられるわけないだろ」


ミヤビの肩が震えた。


*


どれくらい。


そうしていただろう。


やがて。


ミヤビが顔を上げる。


近い。


何度も。


この距離から。


キスをした。


「……最後にキスしたい」


ユウキの胸が痛む。


「だめ?」


「ずるいな」


「ごめん」


「本当に最後?」


「うん」


長い沈黙。


そして。


ユウキは。


ミヤビの頬に手を添えた。


ゆっくり。


唇を重ねる。


短いキス。


離れる。


ミヤビの目から。


涙が落ちる。


「……もう一回」


「最後って言っただろ」


「ごめん」


「本当に最後だからな」


二度目。


今度は。


少しだけ長く。


離れたあと。


額を寄せる。


「ユウキくん」


「うん」


「好きになってごめん」


「それは謝るな」


「じゃあ」


ミヤビは。


泣きながら笑った。


「好きになってくれて、ありがとう」


ユウキは。


答えの代わりに。


もう一度だけ。


抱きしめた。


*


午後九時。


玄関。


ミヤビが靴を履く。


「じゃあね」


「駅まで送る」


「大丈夫」


「でも」


「今日は一人で帰る」


ユウキは。


それ以上言えなかった。


ドアに手をかける。


ミヤビが振り返る。


「ユウキくん」


「ん?」


「大学、頑張ってね」


「ミヤビも」


「彼女できたら」


一瞬。


声が詰まる。


それでも笑う。


「大切にしてあげてね」


「……うん」


「浮気するような子は駄目だよ」


「自分で言うなよ」


「ふふ」


最後に。


少しだけ。


以前のミヤビらしい笑顔。


「ばいばい」


「……ばいばい」


扉が閉じた。


*


廊下。


一人になったミヤビは。


エレベーターまで歩いた。


ボタンを押す。


扉が開く。


乗る。


閉じる。


一階。


扉が開く。


マンションを出る。


そこまで。


泣かなかった。


そして。


外へ出た瞬間。


「……っ」


しゃがみ込んだ。


涙が止まらなかった。


声を殺して。


何度も。


何度も。


「ユウキくん……」


名前を呼んだ。


もう。


振り返っても。


来てくれない。


それは。


自分が選んだ過去の結果だった。


*


部屋。


ユウキは。


玄関の前から動けなかった。


唇には。


最後のキスの感触が残っている。


「……これでいい」


自分に言い聞かせる。


好きでも。


一緒にいられないことはある。


許せないこともある。


信頼が壊れれば。


好きだけでは戻れない。


それでも。


「……好きだったな」


違う。


過去形にするには。


まだ早かった。


「好きだよ……」


誰もいない部屋で。


呟いた。


*


その夜。


二人から。


メッセージはなかった。


『おやすみ』


も。


『大好き』


も。


『来週も会おう』


も。


何もなかった。


そして。


翌朝。


高校生活は終わった。


けれど。


二人の物語は。


終わらない。


四月。


大学生になったユウキの前に。


三人の少女が現れる。


大西アグリ。


桜井アヤネ。


南イノリ。


それぞれ違う形で。


ユウキの止まった恋を動かしていく。


一方。


ミヤビもまた。


ユウキのいない春を迎える。


もう男を曜日で分けることはない。


寂しくても。


誰かで埋めることもしない。


初めて。


一人で立つことを覚えるために。


そして。


いつかもう一度。


佐藤ユウキに会ったとき。


今度こそ。


嘘のない自分で。


「好き」


と言えるようになるために。


ただ、その前に。


卒業式の翌日。


ユウキは知らなかった事実を。


もう一つだけ知ることになる。


ミヤビが最後まで隠していた。


**最初の金曜日に、なぜ六人の中からわざわざユウキを七人目に選んだのか。**


その答えが。


高校生活最後の一日を。


もう一度だけ揺らすことになる。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


ユウキたちの物語を少しでも「続きが気になる」「面白かった」と思っていただけましたら、評価をいただけると、とても励みになります。


また、


「このシーンが好き!」

「このキャラを応援したい!」

「ここからどうなるの!?」

「自分ならこうする!」


など、短い一言でも大歓迎です。


皆様の感想・コメント・レビュー、楽しく読ませていただきます。


特に推しキャラについて語っていただけるのも嬉しいです。


ユウキ、ミヤビ、アヤネ、イノリ、アグリ――。


物語が進むにつれて、それぞれの恋や選択も大きく動いていきます。


誰を好きになるか。


誰を応援するか。


ぜひ皆様自身の目で見届けてください。


そして、続きも読んでみたいと思っていただけましたら、作品のフォロー・ブックマークもしていただけると嬉しいです。


それでは、次のお話で。


次回もよろしくお願いします!

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