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金曜日に別れた君と、もう一度恋をする。  作者: こよみん


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11/28

第1期 第11話 七人目だった僕に、君は全部を話した

挿絵(By みてみん)


金曜日。


始まりも金曜日だった。


仁科ミヤビが教室にやってきて。


『数学、教えてくれない?』


そう笑った。


そして半年後。


同じ金曜日。


佐藤ユウキは、同じ少女から。


「全部話す」


そう告げられた。


*


放課後。


誰もいない教室。


ユウキは窓際の席に座っていた。


午後四時十五分。


扉が開く。


「……ユウキくん」


ミヤビだった。


この数日で少し痩せたように見える。


「座れば」


「うん」


いつもの隣。


ではなく。


ミヤビは向かい側に座った。


机一つ分の距離。


たったそれだけなのに。


遠かった。


「何から聞きたい?」


「最初から」


ユウキは答えた。


「俺と会う前から」


ミヤビは膝の上で両手を握る。


「……分かった」


そして。


話し始めた。


*


「私ね、一人でいるのが苦手だった」


「うん」


「昔から、誰かに必要とされてないと不安だった」


ミヤビは自嘲するように笑った。


「学校では、みんな私のことを勝手に理想化するの」


清楚。


真面目。


完璧。


学年一の美少女。


「でも本当の私は全然違った」


「それで何人も?」


「……うん」


「最初から六人同時だった?」


「違う」


一人と付き合う。


不安になる。


別の誰かにも求められる。


断れない。


その関係にも依存する。


また増える。


気づいたころには。


曜日ごとに別の相手と会うようになっていた。


「最低だと思う」


ミヤビは言った。


「相手にも嘘をついたし、自分にも嘘をついてた」


「……」


「誰かと一緒にいる間だけ、自分に価値がある気がした」


ユウキは黙って聞いていた。


理解できるとは言えない。


けれど。


途中で遮るつもりもなかった。


*


「じゃあ俺は?」


その質問に。


ミヤビが目を伏せる。


「……金曜日が空いてた」


覚悟していた。


それでも。


本人の口から聞くと。


胸に刺さった。


「なんで俺だった?」


「前から知ってたから」


「面識なかっただろ」


「ユウキくんは私を知らなかっただけ」


ユウキが顔を上げる。


「いつから?」


「二年生の冬くらい」


「そんな前?」


「図書室で見た」


ミヤビは小さく笑う。


「数学の問題を友達に教えてた」


「それだけ?」


「うん」


「それで?」


「教え方が優しかった」


友達が何度間違えても。


ユウキは馬鹿にしなかった。


何度でも説明していた。


「それから、たまに見てた」


「……怖いな」


「ごめん」


「冗談」


久しぶりに。


ほんの少しだけ。


以前の二人の会話になった。


けれど。


笑いは続かなかった。


「金曜日が空いたとき」


ミヤビが続ける。


「ユウキくんが浮かんだ」


「だから数学?」


「口実が欲しかった」


「基礎問題分からないふりして?」


「……うん」


「最初から解けた?」


「全部」


「やっぱり」


ユウキは小さく息を吐いた。


*


「最初は」


ミヤビが言う。


「本当に七人目にするつもりだった」


容赦のない言葉。


でも。


今日だけは。


それでよかった。


「じゃあ、いつ変わった?」


「分からない」


「分からない?」


「気づいたら」


ミヤビが指を握る。


「金曜日が待ち遠しくなってた」


数学を教えてもらう時間。


くだらないメッセージ。


初めて手を繋いだ日。


「初めてキスした日も」


ミヤビの頬が少しだけ赤くなる。


「私、本当は慣れてた」


「……だろうな」


「でも緊張した」


「なんで?」


「ユウキくんだったから」


「それ、今言われても」


「分かってる」


ミヤビは俯く。


「都合いいよね」


そして。


「初めてユウキくんの部屋に行った日」


声が震えた。


「私、思ったの」


「何を?」


「この人だけでいいって」


ユウキは何も言わなかった。


「朝、一緒に起きて」


「……」


「キスして」


「うん」


「朝ご飯作って」


ミヤビの目から。


涙が落ちる。


「こんな普通のことが、私には初めてだった」


誰かといることで寂しさを消すのではなく。


その人と一緒にいるから幸せだった。


「それで他の六人を切ろうとした」


「でも切れなかった」


「うん」


「俺と付き合った翌日も会った」


「うん」


「俺の家に泊まったあとも?」


ミヤビの肩が震える。


「……最後の一人だけ」


「何した?」


ミヤビが顔を上げる。


ユウキは。


自分で聞いておきながら。


聞きたくなかった。


「そこまで聞く?」


「聞かないと終われない」


「……会った」


「それだけ?」


沈黙。


それが。


答えだった。


ユウキは目を閉じた。


胸が痛い。


想像したくない。


だから、それ以上は聞かなかった。


*


「そのあと?」


「全部終わらせた」


「いつ?」


「十一月に入る前」


「それからは?」


「誰とも会ってない」


「連絡も?」


「全部消した」


ミヤビがスマートフォンを机に置く。


「見てもいいよ」


「見ない」


「でも」


「今見ても意味ないだろ」


「……うん」


過去は。


スマートフォンから消せても。


起きたことまでは消えない。


*


しばらく。


二人とも黙っていた。


夕日が教室へ差し込む。


半年前も。


こんな時間だった。


「ユウキくん」


「うん」


「聞いていい?」


「何?」


「……嫌いになった?」


一番。


聞きたかった質問なのだろう。


ユウキは考えた。


そして。


嘘をつかなかった。


「嫌いになれない」


ミヤビが息を呑む。


「でも」


続ける。


「許せない」


ミヤビの目から。


また涙が落ちた。


「うん」


「好きだよ」


「……うん」


「今でも好き」


「うん」


「だから余計に許せない」


「……ごめんなさい」


「ミヤビが今俺だけを好きなのも、たぶん本当だと思う」


「本当だよ」


「分かってる」


「なら」


ミヤビが立ち上がりかける。


けれど。


ユウキは首を横に振った。


「分かることと、元に戻れることは違う」


ミヤビは。


もう一度座った。


*


「私、どうしたらいい?」


「俺に聞くなよ」


「……そうだよね」


「ただ」


ユウキは窓の外を見る。


「卒業式までは待って」


「え?」


「今すぐ答え出せない」


「……別れるかどうか?」


「うん」


ミヤビは。


少しだけ。


希望を見るような顔をした。


それが苦しかった。


「期待しないで」


「……うん」


「たぶん」


ユウキは。


言葉を選ぶ。


「前みたいには戻れない」


ミヤビの顔が歪んだ。


「分かってる」


「でも卒業式までは」


「うん」


「考えるから」


「……ありがとう」


何に対するありがとうなのか。


ユウキには分からなかった。


*


帰ろうとする。


教室を出る直前。


「ユウキくん」


呼び止められた。


「何?」


ミヤビは。


少し迷って。


「最後に一つだけお願いしていい?」


「内容による」


「……抱きしめてほしい」


ユウキの胸が痛んだ。


「ごめん」


ミヤビはすぐに言う。


「やっぱり忘れて」


鞄を持つ。


横を通り過ぎようとする。


その瞬間。


ユウキは。


ミヤビの腕を掴んだ。


「……一回だけ」


「え?」


引き寄せる。


抱きしめた。


半年間。


何度もしたこと。


それなのに。


こんなに苦しい抱擁は初めてだった。


ミヤビの身体が震える。


やがて。


背中に腕が回る。


「……ユウキくん」


「うん」


「好き」


「うん」


「大好き」


「……うん」


「ごめんなさい」


ユウキは。


答えられなかった。


胸元が。


ミヤビの涙で濡れていく。


「キスは?」


ミヤビが聞いた。


ユウキは黙る。


「……ごめん」


「そっか」


その一言が。


ひどく寂しかった。


抱擁を解く。


二人の距離が離れる。


ミヤビは泣きながら。


それでも笑った。


「じゃあ、卒業式に」


「うん」


「待ってる」


「……うん」


*


その夜。


ユウキは。


半年間の写真を見ていた。


最初のデート。


ゲームセンター。


クレープ。


ミヤビが書いたオムライス。


『ユウキ♡』


二人で撮った写真。


ベッドの上で眠るミヤビの横顔。


朝食。


クリスマス。


初詣。


受験の日。


全部。


楽しかった。


全部。


大切だった。


そして。


全部の裏側に。


嘘があった。


けれど。


全部が嘘だったわけでもない。


だから。


捨てられない。


写真を消せない。


*


同じ夜。


ミヤビは。


自室のベッドで。


一人だった。


昔なら。


一人の夜が怖かった。


誰かにメッセージを送っていた。


誰かに会いたかった。


でも。


今は。


誰にも連絡しない。


もう。


ユウキ以外はいらない。


皮肉だった。


やっと。


一人の人だけを好きになれたときには。


その人から。


離れなければならないかもしれない。


スマートフォンを開く。


ユウキとのトーク。


最後のメッセージは。


数日前。


『おやすみ』


それだけ。


以前なら。


ハートがあった。


『大好き』があった。


『来週もキスしよう』があった。


ミヤビは入力する。


『おやすみ、ユウキくん』


送ろうとして。


やめた。


全部消す。


今は。


自分から近づく資格がないと思った。


*


それから。


卒業式までの二週間。


二人は一度も二人きりで会わなかった。


金曜日も。


ミヤビは教室へ来なかった。


初めてだった。


九月からずっと。


毎週来ていたのに。


放課後。


ユウキは一人で教室に残っていた。


時計を見る。


午後四時。


扉は開かない。


四時半。


開かない。


五時。


開かない。


「……来ないのかよ」


自分で。


来るなと言ったようなものなのに。


寂しかった。


スマートフォンを見る。


通知はない。


そして。


その瞬間。


ユウキは気づいた。


金曜日が好きだったのは。


ミヤビだけではない。


自分も。


ずっと。


金曜日を待っていた。


*


卒業式前日。


午後十一時五十八分。


ユウキのスマートフォンが震えた。


ミヤビ。


二週間ぶりのメッセージ。


『明日、卒業式だね』


ユウキは。


しばらく画面を見る。


そして。


『そうだな』


返信。


すぐ既読。


『半年間ありがとう』


その文章に。


胸が締めつけられる。


まるで。


もう答えを知っているみたいだった。


『まだ明日あるだろ』


送る。


長い間。


返事がなかった。


やがて。


『うん』


そして。


『明日、ちゃんと笑うね』


最後に。


ハートはなかった。


*


翌朝。


三月。


卒業式。


ユウキは制服に袖を通す。


鏡を見る。


半年。


たった半年。


それなのに。


高校三年間の中で。


一番濃い時間だった。


始まりは。


数学だった。


いや。


数学ですらなかった。


一つの嘘だった。


そして今日。


その嘘から始まった恋に。


答えを出す。


校門の前。


桜には。


まだ少し早い季節。


制服姿の生徒たち。


笑い声。


写真を撮る音。


その中に。


ミヤビがいた。


友達に囲まれて。


いつもの。


学年一の美少女の笑顔。


そして。


目が合った。


笑顔が消える。


ミヤビは。


ほんの少しだけ。


頭を下げた。


ユウキも。


小さく頷いた。


数時間後。


卒業式が終わる。


そして二人は。


初めて話した教室で。


高校生活最後の金曜日ではない日に。


もう一度。


二人きりになる。


そこで。


ユウキは。


半年間ずっと好きだった少女に。


**「別れよう」**


と告げることになる。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


ユウキたちの物語を少しでも「続きが気になる」「面白かった」と思っていただけましたら、評価をいただけると、とても励みになります。


また、


「このシーンが好き!」

「このキャラを応援したい!」

「ここからどうなるの!?」

「自分ならこうする!」


など、短い一言でも大歓迎です。


皆様の感想・コメント・レビュー、楽しく読ませていただきます。


特に推しキャラについて語っていただけるのも嬉しいです。


ユウキ、ミヤビ、アヤネ、イノリ、アグリ――。


物語が進むにつれて、それぞれの恋や選択も大きく動いていきます。


誰を好きになるか。


誰を応援するか。


ぜひ皆様自身の目で見届けてください。


そして、続きも読んでみたいと思っていただけましたら、作品のフォロー・ブックマークもしていただけると嬉しいです。


それでは、次のお話で。


次回もよろしくお願いします!

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