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金曜日に別れた君と、もう一度恋をする。  作者: こよみん


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10/30

第1期 第10話 土曜日の彼女

挿絵(By みてみん)


『佐藤ユウキくんですよね』


『仁科ミヤビと付き合ってるって、本当ですか?』


その二行だけなら。


悪戯だと思えたかもしれない。


問題は、その次だった。


一枚の写真。


知らない男。


その隣にいる、仁科ミヤビ。


見間違えるはずがない。


長い黒髪。


整った横顔。


ユウキが好きになった少女。


そして写真の下には、撮影日が表示されていた。


十月十二日。


土曜日。


ユウキとミヤビが恋人になった――。


その翌日だった。


*


「……なんだよ、これ」


三月。


卒業式まで三週間。


午後十一時十八分。


自室のベッドに腰掛けたユウキは、画面を見つめていた。


写真だけなら。


友達。


そう言われれば、それまでだ。


男女二人で会っただけで浮気だと決めつけるつもりはない。


けれど。


思い出してしまった。


あの日。


ミヤビはユウキの部屋から帰るとき。


『予定がある』


と言った。


別の日には。


スマートフォンに男から届いた。


『明日はいつもの場所でいい?』


そして。


何度も聞いた。


金曜日はユウキくんだけ。


その言葉。


「……金曜日は?」


胸の奥に。


嫌なものが広がっていく。


なぜ。


『私はユウキくんだけ』


ではなく。


『金曜日はユウキくんだけ』


だったのか。


考えすぎだ。


そう思いたい。


スマートフォンが震えた。


送り主は。


ミヤビ。


『勉強終わった?』


いつも通りだった。


『終わった』


『電話していい?』


指が止まる。


いつもなら即答する。


今日は。


できなかった。


『眠いから明日にしよう』


嘘をついた。


すぐ返信。


『そっか』


『おやすみ、ユウキくん♡』


ユウキは。


『おやすみ』


とだけ返した。


*


眠れなかった。


写真を何度も見る。


そして。


知らないアカウントへ返信した。


『あなたは誰ですか?』


既読。


しばらくして。


『昔、仁科と付き合ってた人間です』


ユウキの喉が乾いた。


『いつまで?』


長い間。


返事がない。


やがて。


『去年の10月末くらいまで』


心臓が。


一度、大きく鳴った。


十月末。


自分たちが付き合い始めたのは。


十月十一日。


重なっている。


『ミヤビは俺と付き合っていました』


打つ。


『10月11日から』


既読。


返信。


『やっぱり』


そして。


『俺と別れたのは、それより後です』


ユウキは。


スマートフォンを伏せた。


見たくなかった。


*


翌朝。


学校。


廊下の向こうにミヤビがいた。


いつもなら。


目が合う。


すれ違う。


そのあと。


『今見てたでしょ♡』


そんなメッセージが来る。


今日も。


目が合った。


ミヤビが小さく微笑んだ。


ユウキは。


笑えなかった。


そのまますれ違う。


十秒後。


スマートフォン。


『今日どうしたの?』


ユウキは返信しなかった。


*


昼休み。


『怒ってる?』


午後一時。


『私なんかした?』


午後三時。


『ユウキくん』


そして。


放課後。


教室から人がいなくなったころ。


「ユウキくん」


声がした。


顔を上げる。


ミヤビがいた。


「……どうした?」


「それ、私の台詞」


いつもの笑顔がない。


「朝から変だよ」


「そう?」


「メッセージも返してくれない」


「ごめん」


「謝ってほしいんじゃない」


ミヤビが近づく。


「何かあった?」


ユウキは。


彼女を見る。


この半年。


何度もキスした顔。


好きだと言った相手。


卒業しても。


大学生になっても。


一緒にいたいと思った少女。


「ミヤビ」


「うん」


「聞きたいことある」


その瞬間。


ミヤビの表情が変わった。


ほんの少し。


怯えた。


ユウキは見逃さなかった。


「去年の十月十二日」


ミヤビの顔から。


血の気が引いた。


「……何?」


「土曜日」


「……」


「誰と会ってた?」


沈黙。


それだけで。


ユウキには十分だった。


「男?」


「……ユウキくん」


「男だったんだな」


「待って」


「付き合ってた?」


「話を――」


「付き合ってたのかって聞いてる」


声が強くなる。


ミヤビが肩を震わせた。


ユウキは。


自分でも驚くくらい。


冷静だった。


いや。


冷静になろうとしていた。


「……付き合ってた」


小さな声。


聞きたくなかった答え。


「俺と付き合い始めたの十一日だよな」


「うん」


「翌日だよな」


「……うん」


「じゃあ」


ユウキは喉を鳴らす。


「二股してたってこと?」


ミヤビは答えなかった。


「答えて」


「……うん」


たった一文字。


それだけで。


半年分の思い出に。


亀裂が入った。


*


「いつまで?」


「……十月の終わり」


「二週間くらい?」


「うん」


「なんで?」


ミヤビの瞳に涙が溜まる。


「終わらせようとはした」


「でも終わらせなかった」


「怖かったの」


「何が?」


「一人になるのが」


ユウキには。


意味が分からなかった。


「俺がいただろ」


その一言で。


ミヤビの涙が落ちた。


「……そうだよね」


「俺じゃ足りなかった?」


「違う!」


初めて。


ミヤビが大きな声を出した。


「違うの」


「じゃあ何」


「私がおかしかったの」


「……」


「ユウキくんが足りなかったんじゃない」


涙を拭う。


「私が、誰か一人を信じることができなかった」


「それで二股?」


ミヤビは。


答えられない。


「俺に好きって言って」


「……うん」


「俺とキスして」


「うん」


「次の日に別の彼氏と会った?」


「……ごめんなさい」


胸の奥が。


冷たくなった。


*


「じゃあさ」


ユウキは聞いた。


「金曜日はユウキくんだけ、って言ってたよな」


ミヤビの身体が固まる。


「……言った」


「あれ、どういう意味?」


「それは」


「金曜日以外は?」


「……」


「ミヤビ」


返事がない。


「まさか」


頭の中で。


点が繋がっていく。


最初。


数学を教えてほしいと言われた日。


金曜日。


次も金曜日。


付き合ってからも。


金曜日。


『金曜日は絶対に私と会って』


『金曜日はユウキくんだけ』


ずっと。


ずっと金曜日だった。


「……俺が金曜日だったから?」


ミヤビの顔が。


絶望に染まった。


「ユウキくん」


「何それ」


「聞いて」


「俺、何番目だったの?」


「違うの」


「何が違うんだよ」


「今は違う!」


その言葉。


今は。


ユウキの胸が凍る。


「今は?」


言ってしまったことに。


ミヤビ自身が気づいた。


「じゃあ昔は?」


「……」


「何人いた?」


沈黙。


「二人?」


返事がない。


「三人?」


ミヤビが唇を噛む。


「……何人?」


「言いたくない」


「俺には知る権利ない?」


「そうじゃない」


「じゃあ教えて」


「……」


長い。


長い沈黙。


そして。


ミヤビの唇が震えた。


「……六人」


ユウキは。


一瞬、意味を理解できなかった。


「俺以外に?」


ミヤビは。


首を縦に振った。


「……六?」


「うん」


「じゃあ俺入れて」


言いたくない。


その数字を。


それでも。


口から出た。


「七人?」


ミヤビが泣きながら。


頷いた。


*


音が消えたような気がした。


教室。


夕方。


二人だけ。


ユウキは。


机に手をついた。


「曜日ごと?」


聞いた。


自分でも。


なぜそんな質問が出たのか分からない。


ミヤビは。


答えなかった。


「……そうなの?」


「……うん」


「月曜から?」


「うん」


「日曜まで?」


「……うん」


そして。


ユウキは。


笑った。


笑うしかなかった。


「だから金曜日だったのか」


「ユウキくん」


「俺が数学得意だったからじゃない」


「最初は――」


「金曜日が空いてたから?」


ミヤビが。


何も言えなくなる。


それが。


答えだった。


*


ユウキは。


半年前の最初の日を思い出した。


『数学、教えてくれない?』


嬉しかった。


学校一の美少女が。


自分を選んでくれた。


そう思っていた。


『また勉強教えてね』


『来週も』


『金曜日』


全部。


違った。


「……俺じゃなくてもよかった?」


「違う」


「空いてた金曜日を埋められるなら」


「違う!」


「誰でもよかった?」


「違うって!」


ミヤビが。


ユウキの制服を掴んだ。


「最初は……そうだったかもしれない」


「……」


「でも途中から違った!」


涙が落ちる。


「本当に好きになったの」


「いつから?」


「分からない」


「俺と付き合う前?」


「……たぶん」


「なのに六人切らなかった?」


「切れなかった」


「俺と付き合ったあとも?」


「……うん」


「俺の家に泊まったあとも?」


ミヤビが黙る。


ユウキの声が震えた。


「答えて」


「……一人だけ」


その言葉で。


何かが。


完全に壊れた。


*


「帰る」


ユウキは鞄を持った。


「待って」


「今日は無理」


「お願い」


腕を掴まれる。


反射的に振りほどいた。


ミヤビが傷ついた顔をする。


その顔を見ることすら。


今は苦しかった。


「触らないで」


「……っ」


言ってから。


ユウキ自身の胸も痛んだ。


でも。


謝れなかった。


「ユウキくん」


「今は話したくない」


「でも」


「俺、今何言うか分からないから」


ミヤビは。


動けなくなった。


ユウキは教室を出る。


背後。


「待って」


泣き声。


それでも。


振り返らなかった。


*


その夜。


ミヤビから。


何十件もメッセージが来た。


『ごめんなさい』


『最初は本当に最低だった』


『でも今は違う』


『他の人とは全部終わってる』


『去年の秋から誰とも会ってない』


『信じてもらえないと思うけど』


『ユウキくんだけが好き』


『お願い』


『話したい』


『嫌いにならないで』


最後。


午前二時十四分。


『会いたい』


ユウキは。


一件も返せなかった。


*


ベッドに横になる。


目を閉じる。


思い出す。


初めてのキス。


初めて抱きしめた夜。


初めて同じ朝を迎えた日。


『ユウキくんだから、いいの』


『大好き』


『ずっと一緒にいたい』


嘘だったのか。


全部?


いや。


たぶん違う。


そこが。


一番苦しかった。


きっと。


あの瞬間のミヤビは。


本当に自分を好きだった。


本当に幸せそうだった。


それなのに。


同時に。


自分を裏切っていた。


*


翌日。


ミヤビは学校を休んだ。


その次の日も。


月曜日。


登校してきた。


廊下の向こう。


目が合う。


以前なら。


学校では他人のふりをして。


あとからメッセージが届いた。


今日は。


ミヤビが。


その場で立ち止まった。


そして。


ユウキの方へ歩いてきた。


周囲には生徒がいる。


それでも。


「ユウキくん」


初めて。


学校で。


皆の前で。


名前を呼んだ。


ざわめき。


ミヤビは気にしなかった。


「金曜日」


声が震える。


「……会ってくれる?」


ユウキは。


すぐには答えられなかった。


「全部話す」


ミヤビは言う。


「隠してたこと、全部」


「……」


「それを聞いて」


涙を堪える。


「それでも無理なら」


唇が震える。


「ちゃんと諦めるから」


ユウキは長い間。


彼女を見つめた。


そして。


「……分かった」


答えた。


*


卒業式まで。


あと二週間。


次の金曜日。


始まりと同じ曜日。


二人はもう一度。


向かい合う。


ミヤビは。


なぜ六人もの相手を同時に求めていたのか。


なぜユウキを七人目にしたのか。


そして。


いつから。


空いていた金曜日の少年が。


他の誰とも違う存在になったのか。


すべてを話す。


ただし。


真実を知ることと。


許せることは。


同じではない。


そして卒業式の日。


ユウキは。


半年間続いたこの恋に。


最後の答えを出すことになる。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


ユウキたちの物語を少しでも「続きが気になる」「面白かった」と思っていただけましたら、評価をいただけると、とても励みになります。


また、


「このシーンが好き!」

「このキャラを応援したい!」

「ここからどうなるの!?」

「自分ならこうする!」


など、短い一言でも大歓迎です。


皆様の感想・コメント・レビュー、楽しく読ませていただきます。


特に推しキャラについて語っていただけるのも嬉しいです。


ユウキ、ミヤビ、アヤネ、イノリ、アグリ――。


物語が進むにつれて、それぞれの恋や選択も大きく動いていきます。


誰を好きになるか。


誰を応援するか。


ぜひ皆様自身の目で見届けてください。


そして、続きも読んでみたいと思っていただけましたら、作品のフォロー・ブックマークもしていただけると嬉しいです。


それでは、次のお話で。


次回もよろしくお願いします!

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