第5話 青い光と、血の記憶
遊園地の奥へ進むにつれ、空気が重く淀んでいった。
佐藤翔太は葵の亡骸を背負い、足を一歩ずつ前に進めていた。彼女の体は冷たくなり、血の匂いが鼻を突く。さっきまで温かかった体温が失われていく感覚が、翔太の胸を抉った。
先頭を歩く零は時折、手を軽く振って周囲の魔力の流れを探っていた。銀色の短髪が青白い照明に浮かび上がり、黒いスーツの背中は頼もしくも見えた。
高橋蓮は翔太の少し後ろを歩きながら、時々拳を握りしめていた。無言。いつも明るく騒いでいた彼が、こんなに静かになるなんて珍しい。
「そろそろ……黒服の巡回ルートに入るわ。気をつけて」
零が低く警告した直後、前方の通路から複数の足音が響いてきた。
黒服が四人。棍棒を構え、目が不自然に光っている。
「No.07……反逆者確認。排除対象と共に、捕獲せよ」
零は小さく舌打ちした。
「私が前衛をやる。あなたたちは援護を」
零が青い魔力を掌に宿し、突進した。彼女の動きは鋭く、最初の黒服の警棒を魔力の盾で弾き、反撃の光の刃で胴体を切り裂いた。血が噴き出し、黒服が倒れる。
しかし残り三人が同時に零に襲いかかった。
「翔太! 左から来るぞ!」
蓮が叫び、近くに落ちていた金属製のフェンスの破片を掴んで振り回した。バスケで鍛えた腕力と瞬発力が活き、黒服の一人の側頭部に強烈な一撃を叩き込んだ。相手がよろめいた隙に、零が仕留める。
翔太は葵を背負ったまま、必死で周囲を見回した。
「零さん! 右側の照明塔、壊せそうか!? 上から瓦礫を落とせば——」
「了解!」
零が右手を振り、青い魔力を集中させた。照明塔の支柱が爆ぜ、大きな金属塊が二人の黒服の上に崩れ落ちた。重い音と共に悲鳴が上がり、動きが止まる。
最後の黒服が零に飛びかかった瞬間、蓮が後ろからタックルするように体当たりを決め、零がトドメを刺した。
通路に血と金属の残骸が散らばった。
零が息を整えながら二人を見た。
「……意外とやるじゃない。素人とは思えない」
蓮は肩をすくめたが、表情は硬いままだった。
「葵を守れなかった俺が、何を言っても……な」
翔太は黙って葵の亡骸を背負い直した。重い。心も、体も。
さらに奥へ進むと、園内の様子が一変した。壊れたアトラクションの残骸が多くなり、壁に奇妙な星の模様が浮かび上がっている。魔力の影響が強くなっている証拠だった。
小さな休憩スペースを見つけたので、三人はそこで短い休息を取った。
零が地面に座り、膝を抱えるようにして言った。
「星の泉は……本当に願いを叶えるのかどうか、私も確信はない。ただ、施設の上層部は本気で信じていた。あの力を使えば、人間を『魔法使い』に変えられると」
「魔法使い……それがお前たち黒服か」
翔太が呟くと、零は小さく頷いた。
「成功例よ。失敗例は……地下で、もっと酷い姿になっている」
彼女の声がわずかに震えた。翔太はそれ以上聞かなかった。零が話したくないことは、まだ話さない方がいいと思った。
蓮が血の付いた手を拭きながら、ぼそりと言った。
「なあ、翔太。お前……葵のこと、本気で好きだったんだろ?」
突然の質問に、翔太は顔を上げた。
「……ああ。好きだよ。今も、好きだ」
蓮は視線を逸らした。唇を強く噛んでいる。
「俺も、好きだった。お前より……ずっと前から」
その言葉に、重い沈黙が落ちた。零は二人の間に視線を走らせ、何も言わなかった。
蓮は無理に笑おうとしたが、失敗した。
「でも結局、葵はお前の隣が好きだったよな。俺は……ただの、賑やかしだった」
「蓮……」
翔太が何か言おうとした時、零が素早く立ち上がった。
「休憩終了。来るわ。何か大きなものが近づいてる」
三人は再び動き出した。翔太の背中には葵の重みがあり、心には蓮の言葉が刺さっていた。
星の照明はますます冷たく、青白く輝いていた。最深部までは、まだ遠い。
朝8時に投稿していきます。
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