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スターライト・パーク  作者: 玄遥斗


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第2話 星の灯が落ちるまで

土曜の朝、駅の改札前は少しだけざわついていた。

佐藤悠真はベンチに腰掛け、スマホで時間を確認しながら周りを見回した。約束の時間より十分早く着いていた。緊張のせいか、喉が少し渇いていた。


「悠真ー! おはよー!」


明るい声が響いた。鈴木葵が小走りで近づいてくる。今日は白地に淡い青の花柄が散ったワンピースに、薄手のデニムジャケットを羽織っていた。髪はいつものように肩で揃え、耳元に小さな星型のピアスを付けている。朝の陽射しの中で、彼女は本当に輝いて見えた。


「おはよ、葵。早いね」


「悠真くんの方が早いよ。蓮くんはまだ?」


葵は隣に座り、目を細めて笑った。その距離の近さに、悠真の心臓が少し速くなった。彼女の髪から漂う柔らかいシャンプーの香りが、ふわりと鼻をくすぐる。


「ごめん、待たせた!」


高橋蓮が息を少し切らして現れた。黒のTシャツにジーンズというシンプルな服装だが、スタイルがいいので様になっている。手に小さな紙袋を持っていた。


「これ、みんなで食べようと思って。駅のクレープ屋で買ってきた」


「わあ、蓮くん優しい! ありがとう」


葵が素直に喜ぶと、蓮は照れたように頭を掻いた。しかし悠真は、蓮が紙袋を渡すときに一瞬、自分の方を見た視線に気づいた。笑顔の奥に、ほんのわずかな棘のようなものが混じっている気がした。


(まただ……俺、気にしすぎかな)


三人は改札を通り、ホームへ向かった。遊園地までは電車で約四十分。親に車で送ってもらう案もあったが、葵が「三人で電車に乗るのも楽しいよね」と言ったので、急遽電車ルートに変更したのだ。

電車の中は意外と空いていて、三人は並んで座ることができた。葵が真ん中、悠真と蓮が両側に自然と座る形になる。


「スターライト・パーク、ネットで調べたんだけど、今年の目玉なんだって。星の泉っていうアトラクションが特に人気で、願い事を書いた紙を浮かべて光らせるらしいよ」


葵はスマホの画面を見せながら興奮気味に話す。彼女の横顔は本当に生き生きとしていて、悠真はただ見ているだけで胸が温かくなった。


「葵、願い事何にするの?」


「内緒。でも、みんながずっと仲良くいられますように、とか……かな」


葵が少し照れながら言うと、悠真と蓮は同時に彼女を見た。二人の視線が空中でぶつかり、すぐに逸らされた。

蓮は窓の外を眺めながら、内心で舌打ちを堪えた。


(ずっと仲良く、ね……。それって悠真と俺と葵が三人で、ってことか? 葵は本当は何を考えてるんだろう)


蓮は昔からわかっていた。葵が心を許しているのは悠真の方だと。自分は「明るい友達」として必要とされているだけで、本命は悠真なのではないかという思いが、ずっと胸の奥に澱のように溜まっていた。それでも笑顔を崩さない。崩せば、すべてが壊れてしまいそうだったから。


電車が揺れるたび、葵の肩が悠真の肩に軽く触れた。悠真はその感触を大切に覚えようとした。


スターライト・パークの最寄り駅に着いたのは午前十時半頃だった。

駅を出ると、すでに大きな案内看板が三人を迎えた。夜は星空を再現した幻想的な照明で有名な遊園地だけあって、昼間でも入口のアーチには星型の飾りが無数に輝いていた。


「わあ……すごい!」

葵が目を丸くして歓声を上げた。三人はチケットを買い、ゲートをくぐった。

園内は想像以上に広かった。メリーゴーランド、観覧車、絶叫マシン群、そして中央にそびえる巨大な「星の泉」アトラクション。泉の周囲は白い石畳で囲まれ、昼間でもぼんやりと青白い光が底から漏れているように見えた。


「まずはぬいぐるみパレード見ようよ! 十一時からだって」


葵の提案で三人は園内を歩き始めた。彼女ははしゃぎながら先を歩き、時々振り返って二人を呼ぶ。その後ろ姿は軽やかで、ワンピースの裾が風に揺れるたび悠真の視線を釘付けにした。

蓮は悠真の隣を歩きながら、わざと明るく声をかけた。


「葵、今日めっちゃ可愛いよな。お前もそう思うだろ、悠真」


「……ああ、うん」


悠真が頷くと、蓮は笑ったが、目が笑っていなかった。

最初の一時間は本当に楽しかった。

三人でメリーゴーランドに乗り、葵が「馬の上で写真撮ろう!」と喜ぶ。観覧車では園内を一望し、葵が真ん中に座って左右の景色を交互に見ていた。悠真は葵の笑顔を、蓮は葵の横顔を、それぞれ密かに盗み見ていた。

昼食を食べた後、午後三時を過ぎた頃、園内の照明が徐々に変化し始めた。昼間の明るいライトから、淡い星色の照明へと移行していく。


「綺麗……まるで本物の夜みたい」


葵がため息をついた。

その時、園内中央のステージで巨大ぬいぐるみたちのパレードが始まった。等身大のクマ、ウサギ、星の妖精など、ふわふわとした巨大なキャラクターたちが音楽に合わせて踊っている。客席からは歓声が上がった。


しかし、悠真は少し違和感を覚えた。

ぬいぐるみたちの目が、なんだか……光っているような気がした。ガラス玉のような目が、時折、こちらを「見ている」ように感じる。


「ねえ、ちょっと寒くなってきたね」


葵が両腕を抱くようにして言った。確かに、日が傾き始めたせいか、風が冷たくなっていた。

蓮がジャケットを脱ぎかけて「着る?」と言いかけた瞬間——


パレードの音楽が、突然、ノイズ混じりの歪んだ音に変わった。

巨大なクマのぬいぐるみが、ステージの上でぴたりと止まった。

その目が、赤く光った。


そして、ゆっくりと——客席に向かって、歩き始めた。

最初は誰も気づかなかった。ただの演出だと思ったのだろう。

だが、次の瞬間。

クマのぬいぐるみが、近くにいた幼い女の子の腕を、ものすごい力で掴み上げた。


悲鳴が上がった。


それは、スターライト・パークの、穏やかな日常の終わりを告げる最初の音だった。

朝8時に投稿していきます。

もう一つの作品も投稿してますので良ければおねがいします!

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誤字等あれば指摘してくださると助かります。

次回もよろしくお願いします。

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