第14話 爆発
仮面の男が去った後も、通路は重い沈黙に包まれていた。
零が血を拭いながら立ち上がり、翔太を支えた。翔太はまだ頭痛が引かず、右手が
痺れたままだった。
しかし、二人の視線は自然と蓮に向いていた。
蓮は壁に寄りかかり、俯いたまま肩を震わせていた。血が滴るほど拳を握りしめ、
歯を強く食いしばっている。仮面の男の言葉が、彼の頭の中で何度も繰り返されていた。
翔太が心配そうに声をかけた。
「蓮……大丈夫か? あの男の言葉、気にすんなよ。ただの挑発だ」
その瞬間、蓮の頭の中で何かが切れた。
「……気にすんな?」
蓮がゆっくりと顔を上げた。その瞳は真っ赤に充血し、抑えきれない感情が溢れ出していた。
「お前はいつもそうだよな、翔太。『気にすんな』『大丈夫だ』『一緒に頑張ろう』……全部、綺麗事だ。お前は俺の気持ちなんか、これっぽっちもわかってねえ!」
声が次第に大きくなっていく。
「葵の隣にいるのも、お前だった。零さんに頼られて、力を手に入れて、俺を置いて
けぼりにするのもお前だ! 俺は……俺はただ、後ろで笑ってるだけの、惨めな影だ
ったんだよ!」
零が静かに言った。
「蓮、落ち着いて。今はそんなことを——」
「うるさいよ!」
蓮が零を睨みつけた。
「お前もそうだ。さっきまでボロボロだったくせに、翔太が少し力を発揮したらすぐ寄り添って……俺の存在なんて、最初から眼中になかったんだろ!」
翔太が痛む体を押して一歩踏み出した。
「蓮……それは違う。お前は俺の親友だ。昔からずっと——」
「親友? ふざけんな!」
蓮が壁を思い切り殴った。血が飛び散る。
「お前は本当は、俺なんかいなくてもいいと思ってるくせに! 葵も、零も、お前が
いれば十分なんだよ! 俺は……俺はただの、余計な存在だった!」
蓮の声は震え、目には涙と激しい怒りが混じっていた。
彼は荒い息を吐きながら、後ろを向いた。
「……もう、いい。俺は一人で先に行く。泉に近づいたら、合流するよ……いや、合
流しなくてもいいか」
「待て、蓮!」
翔太が追いかけようとしたが、激しい頭痛に襲われて膝をついた。零が慌てて翔太
を支える。
蓮は振り返らずに、血まみれの体で通路の奥へと歩き始めた。
「俺は……もう、お前らと一緒にいるのは耐えられない」
その背中は、傷つき、孤独で、しかしどこか決意に満ちていた。
翔太は床に手をつき、掠れた声で呟いた。
「……蓮……」
零は翔太の肩を抱きながら、暗い通路の奥を見つめていた。
三人の絆に、決定的な亀裂が入った瞬間だった。




