第13話 仮面の囁き
零が立ち直ってから、三人は慎重に最深部を目指して進んでいた。
翔太の右手はまだ疼き、零も肩の傷が完全に癒えていない。蓮は無言で最後尾を歩いていた。
その時——
空気が急激に重くなり、星の照明が激しく明滅した。
前方から、重く圧倒的な気配が迫ってくる。暗闇の中からゆっくりと姿を現したのは、白い仮面を被った大柄の男——仮面の男だった。
零の顔色が変わった。
「……あなたは……葵を殺した……!」
翔太も体を硬くした。あの残酷な光景が脳裏に蘇る。
仮面の男は三人を順に見つめ、特に蓮に長い視線を注いだ。仮面の奥から、低く歪んだ声が響く。
「高橋蓮……お前は本当に惨めだな」
蓮の肩がビクリと震えた。
「いつも後ろに隠れて、翔太が活躍するのを見ているだけ。零が褒めるのも、葵が笑
うのも、全部翔太のもの。お前はただの、明るいだけの飾り……影だ」
仮面の男は一歩近づきながら、容赦なく言葉を続ける。
「葵はお前を見ていなかった。お前がどれだけ想っても、彼女の視線はいつも翔太に向いていた。それが、お前の現実だ。お前は、最初から負けていた」
蓮の拳が白くなるほど強く握られた。
「うるせえ……お前、何者だよ……!」
仮面の男は低く笑った。
「俺は、お前がなり得た姿だ。お前の中の本当の願いを知っている」
次の瞬間、仮面の男が動いた。
零が即座に青い魔力の刃を展開して突進したが、仮面の男は片手でそれを易々と受け止め、逆に強烈な魔力の波動を叩きつけた。零の体が吹き飛ばされ、壁に激しく叩
きつけられる。
「零さん!」
翔太が叫び、右手の残滓に意識を集中させて薄い魔力の盾を展開しながら突進し
た。しかし仮面の男は嘲るように左手を振り、翔太の体を容易く弾き飛ばした。翔太は床を転がり、激しい頭痛と吐き気に襲われた。
仮面の男は悠然と歩み寄りながら言った。
「弱い……まだ弱すぎる。特に、お前だ翔太。お前はいつもそうだ。零に守られ、力
を借り、必死に足掻いているだけ。葵を守ることすらできないくせに」
彼は仮面の奥で笑った。
零が血を拭いながら立ち上がり、翔太の横に並んだ。二人は息を合わせ、青い魔力を共鳴させようとしたが、仮面の男の圧倒的な力の前に完全に押されていく。
仮面の男は満足げに頷いた。
「まだ、熟していないようだな……高橋蓮。お前が本当の自分を受け入れるまで、もう少し待っていよう」
そう言い残すと、仮面の男はゆっくりと後退し、暗闇の中に溶けるように消えてい
った。
通路に、重い静寂が落ちた。
蓮は俯いたまま、血が滴るほど拳を握りしめ、肩を激しく震わせていた。
仮面の男の言葉が、彼の胸の奥深くに深く、深く突き刺さっていた。
「……惨めな男、か……」
掠れた声が、静かに漏れた。




