第12話 疼く右手
少し進んだところで翔太が突然フラつきだした。
翔太は壁に寄りかかり、荒い息を繰り返していた。右手に宿っていた青い光は消えていたが、代わりに激しい頭痛と吐き気が襲ってくる。右手が痺れ、指先が微かに震えていた。
「……くっ……頭が……」
零がすぐに翔太の横に跪き、肩を支えた。
「無理をしないで。さっきの共鳴は、あなたの体に負担をかけているはずよ。星の力は、簡単に貸してはくれない」
翔太は苦笑しながら額の汗を拭った。
「わかってる……でも、葵を……守りたかった……」
その言葉に、零の表情が少し柔らかくなった。彼女は自分の魔力を少しだけ翔太の右手に流し、痛みを和らげようとした。
少し離れた場所で、蓮は無言で自分の傷を確かめていた。右腕の鎖の痕が深く残り、血がゆっくりと滴り落ちている。彼は翔太と零のやり取りを、じっと見つめていた。
三人が少し落ち着いた頃、再び敵の気配が近づいてきた。
今度は下級の黒服が三人と、暴走したぬいぐるみ(焼け焦げたクマ型が二体)だった。数は少ないが、三人とも傷だらけで満足に動けない状況では脅威だった。
「来るわ……!」
零が先に立ち、魔力の刃を展開した。しかし肩の傷が響き、動きが鈍い。黒服の一人が零に飛びかかり、警棒を振り下ろす。
翔太は歯を食いしばり、右手を突き出した。淡い青い光が再び灯り、小さな盾を形成する。しかし前回より明らかに弱く、黒服の攻撃を完全に防ぎきれなかった。
「ぐっ……!」
衝撃で翔太が吹き飛ばされ、壁に背中を強く打ちつけた。激しい頭痛が脳を貫き、視界が一瞬真っ白になる。口から胃液が込み上げてきた。
「翔太!」
零が叫んだが、彼女自身も黒服二人に同時に襲われ、押され始めていた。
その時、蓮が低く唸りながら動いた。傷ついた体で黒服の一人に体当たりを決め、地面に叩きつける。バスケで鍛えた力はまだ残っていたが、動きに精彩がなかった。
なんとか三人で敵を倒したものの、戦闘終了と同時に翔太がその場に崩れ落ちた。
「う……ぐ……頭が……割れそう……」
右手が激しく痺れ、指が思うように動かない。視界がぼやけ、吐き気が止まらな
い。星の残滓から力を借りた代償が、予想以上に早く、重くのしかかっていた。
零が翔太を抱き起こし、背中をさすった。
「翔太……もう、魔力は使わないで。あなたはまだ、この力に慣れていない」
蓮は少し離れた場所に立ち、二人を見下ろしていた。
零が翔太を心配そうに支えている姿、翔太が零に寄りかかっている姿——それが、蓮の胸に深く突き刺さった。
「……俺は、必要ないのかよ」
蓮が小さく呟いた。その声は、二人には聞こえなかった。
零が翔太を支えながら言った。
「ここで少し休みましょう。翔太の体調が悪い以上、無理はできないわ」
蓮は拳を強く握りしめ、奥の通路を見つめた。
彼の瞳には、苛立ちと、決意のようなものが浮かんでいた。
——俺は、先に行こう。
その思いは、まだ言葉にはしなかったが、確かに蓮の中で膨らみ始めていた。




