第11話 代償の兆し
沙耶香が去った後、通路は重い静寂に包まれた。
翔太は膝をついたまま、荒い息を繰り返していた。右手に宿っていた青い光は完全に消えていたが、体中に奇妙な熱と疲労が残っている。まるで全身の力が一瞬で抜け落ちたような感覚だった。
「……はあ……はあ……俺、今、何をしたんだ……?」
零がよろよろと近づき、翔太の肩を支えた。彼女の左肩と腹からも血が流れ続けて
いるが、それでも翔太を気遣う余裕はあった。
「翔太……大丈夫? あなたが共鳴した星の残滓は……不安定よ。一時的に力を借り
た代わりに、後で代償が来るかもしれない」
翔太は自分の右手を見つめ、苦笑した。
「代償か……最近、そればっかり聞くよな」
零は小さく頷いた。
「星の泉の力は、いつも等価交換を要求する。あなたの場合……今はまだ小さいかも
しれないけど、使えば使うほど体に負担がかかるはず」
少し離れた場所で、蓮がゆっくりと立ち上がった。鎖の痕が腕と胸に赤く残り、血が滴っている。彼は翔太と零の姿をじっと見つめていた。
その視線は、以前より明らかに冷たくなっていた。
三人は近くの壁際に移動し、短い休息を取ることにした。翔太は葵の亡骸を丁寧に壁際に横たえ、自分の上着を被せた。零は魔力で自分の傷を簡易的に止血し、翔太の右腕にも軽く魔力を流してくれた。
沈黙が数分続いた後、蓮が低く言った。
「……お前、すごかったな、翔太」
言葉とは裏腹に、声に感情がこもっていない。
「俺がただ縛られてる間にお前が力を手に入れて、零さんと合わせて敵を追い返す。……俺は何もできなかった。ただ見てるだけだ」
翔太が顔を上げた。
「蓮、そんなことないだろ。お前も戦って——」
「いいよ。もう言わなくていい」
蓮は壁に背中を預け、目を閉じた。
「俺は……ずっとお前について歩いてるだけだった。小学校の頃から、葵の隣に自然
にいるお前を見て、笑って誤魔化してきた。でも本当は……ずっと、苛立ってた」
零が静かに二人の間に視線を移した。何も言わず、ただ聞いている。
翔太は言葉を探したが、蓮はそれ以上何も言わなかった。ただ、拳を強く握りしめているだけだった。
零がぽつりと呟いた。
「私も……沙耶香に言われたことが、まだ頭から離れない。澪姉ちゃんのことを、あんな風に嘲笑われて……でも、今は進むしかない。泉に着くまで、もう弱音は吐かない」
彼女は立ち上がり、二人に手を差し伸べた。
「行こう。もう中層も終わりが見えてきたはずよ」
三人は再び歩き始めた。
翔太の右腕は時折、疼くように熱くなった。力を少し使っただけで、すでに体が重い。この先、もっと使ったらどうなるのか——不安が胸をよぎった。
蓮は後ろを歩きながら、翔太の背中を静かに見つめていた。
その瞳の奥で、黒い感情は確実に、静かに、膨らみ続けていた。
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