第9話 優しすぎる先輩の嘘
人の噂は事実確認をしないとですね。
「おっぱいの大きくなる方法は教えてくれなかった……」
「私が何でもかんでもツッコむと思うなよ」
「あら、何か聞こえましたか? 部活をする気がないのなら、ここにいても仕方ありませんわ。入ってくれないのなら、次の作戦を考えましょう」
「亜紀、意外と切り替え早いな。確かに、ここにいてもしょうがない。一度教室に戻ろう」
志保のボケを完全に無視した亜紀の言う通りだった。遠藤先輩が入らないと言う以上、ここでできることはない。
三人に教室へ戻ろうと声をかけると――
「あれ? 柚季ちゃんがいない」
「あの方、本当に団体行動ができませんのね」
呆れたように亜紀が肩をすくめる。
理沙もため息をついた。
「柚季ちゃんのことだから、何か情報を探してるんだろう。それに期待しよう」
「そだね。他にも遠藤先輩みたいな人がいるかもしれないし」
「少し不安ですが……今は仕方ありませんわ。お腹も空きましたし、とりあえず戻りましょう」
三人は教室へ向かって歩き出す。
その途中、志保がぽつりと呟いた。
「でもさ、あの理由って本当なのかな?」
「私も思った。なんとなく……何か隠してる感じがした」
「ですが、本人に言う気がないのならどうしようもありませんわ」
それぞれが違和感を抱えたまま、教室の扉を開ける。
――その瞬間。
「理由、わかったの」
「うわぁぁぁ!?」
「きゃあああ!」
「ひぃぃぃ!」
三人が同時に飛び退いた。
いつの間にか、柚季が教室に立っていた。
「あなた、登場の仕方どうにかなりませんの?」
亜紀が軽く怒る。
だが柚季は無表情のまま、タブレットを取り出した。
そして、動画を再生する。
画面にはハンド部の生徒たちが映っていた。
「遠藤先輩は優しすぎるんです」
「ポジションは実力順のはずなんですけど……」
「一年生の面倒も見てくれて……」
「優しすぎるんだよ、舞は」
動画が終わる。
三人はしばらく黙り込んだ。
――が。
「これ、どうやって作ったの?」
「そっちかい!」
理沙のツッコミが飛ぶ。
「この短時間でこの完成度……すごい技術ですわね」
「お前もか!」
理沙が頭を抱える。
志保は気にせず話を進める。
「で、どういうこと? いい人なのは分かったけど」
「だからなの。遠藤先輩は優しすぎる人なの」
柚季が静かに言う。
「同じポジションの人に、レギュラーを譲ったの」
「はあ!? 何を考えていますの?」
「えっ……レギュラー譲るために部活辞めたの?」
(コクコク)
柚季は頷いた。
そして、ゆっくりと説明を始める。
「GKは四人いるの。遠藤先輩、三年の片瀬先輩、二年の石橋先輩、それと一年」
「遠藤先輩は特待生で一年からレギュラー」
「でも、その裏でずっと控えだった人がいるの」
「最後の大会でも出られない。それを分かってたの」
「だから、身を引いた。膝を壊したって嘘をついて」
教室の空気が静まり返る。
「でも、ハンド部のみんなは嘘だって知ってるの。それでも戻らないの」
柚季の説明が終わった。
「……ありがとう、柚季ちゃん」
志保が静かに言う。
しかし、亜紀が口を開いた。
「納得できませんわ。実力があるなら、背負って戦うべきです」
「それは私も同じ意見だ」
理沙も頷く。
「試合に出る人は、出られなかった人の分も戦うべきだと思う」
(志保たちの言い分も分かるけど……)
理沙は心の中で考える。
「でも、それって全部“周りの話”だろ?」
三人の視線が集まる。
「本人に確認したわけじゃない。本当の理由かどうかは分からない」
(コクコク)
柚季が頷く。
「じゃあさ、放課後にもう一回話聞きに行こうよ」
志保が明るく言う。
「そうですわね。このままでは消化不良ですわ」
「真実はいつも一つなの」
三人の意見が揃う。
理沙も頷いた。
「分かった。放課後、もう一回行こう」
その時――チャイムが鳴った。
「えぇぇ~!? お昼ご飯食べてないよ~!」
「追加時間なんてあるわけないだろ!」
廊下に、二人の声が響いた。
前書きにも書きましたが、SNSなどで情報過多の現代。
何が本当で何が間違っているのか、判断が本当に難しいですね。
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