第10話 楽しくやりたかっただけ
悩みのない人なんて本当にいるのでしょうか?
「うぅ、お腹空いたよ~」
お腹を鳴らしながら半泣きで廊下を歩く志保。
四人は午後の授業が終わると、帰り支度もせず遠藤舞の教室へ向かっていた。
「ほら、早く行くぞ。帰っちゃうだろ」
「一食抜いたくらいで情けないですわね。ダイエットだと思えばいいのですわ」
その瞬間、亜紀の腹が鳴った。
「お嬢様でもお腹は空くの」
「なっ……!」
顔を赤くする亜紀。
「って、おい。何してる」
柚季は歩きながらタブレットに何かを打ち込んでいた。
「前見ないと危ないよ?」
志保が覗き込む。
「“お嬢様でもお腹は減る”……って、亜紀ちゃんの情報?」
「どうでもいい情報ではありませんわ!」
「どうでもいいだろ!」
理沙が強引に話を戻す。
「いいから急ぐぞ。本題を忘れるな」
三人は一瞬止まり――
「……そうですわね」
「……うん」
(コクコク)
明らかに忘れていた。
「お前らな……もういい、行くぞ」
――教室前。
「どうする?」
「出てきたところで話せばいいですわ」
(コクコク)
しかし――
「遠藤先輩~!」
志保、突撃。
「またこのパターンですの……」
「慣れてきたな、亜紀」
しばらくして、舞が出てきた。
「……また勧誘?」
「違います。少しだけ話を聞いてください」
理沙が頭を下げる。
沈黙。
その空気を破ったのは亜紀だった。
「才能ある者には義務があります。あなたはそれから逃げているだけですわ」
空気が凍る。
舞は静かに言った。
「……場所、変えない?」
――公園。
ベンチに座る舞。
「で、何を聞きたいの?」
「どうしてポジションを譲ったんですか?」
「……」
「それで、どうして欲しいの?」
「ハンド部に戻らないんですか?」
「戻らない」
即答だった。
「なんで!?」
「戻らないって決めたから」
その一言には強い意志があった。
やがて舞は口を開く。
「プレッシャーに疲れたの」
夕焼けを見上げながら、静かに続ける。
「勝っても終わらない。期待は増えるだけ」
「楽しくて始めたのに、今は苦しいだけ」
涙が滲む。
誰も何も言えなかった。
「だから辞めた。楽しくやりたかっただけなの」
沈黙。
――破ったのは理沙だった。
「それでも、来てほしい」
志保も続く。
「一緒に楽しくやろう」
亜紀も。
「同じことはさせませんわ」
そして志保。
「先輩を必要としてます」
舞の表情が揺れる。
さらに志保は続ける。
「私も同じだった」
自分の過去を語る。
「楽しくやりたい。それでいいと思う」
柚季が前に出る。
「やりたいこと、ある?」
「なければ、一緒に見つければいいの」
静かに響く言葉。
理沙が最後に言う。
「待ってます」
四人が頭を下げる。
「やめてよ……」
舞は困ったように笑う。
沈黙。
そして――
「返事、明日でいい?」
その一言で空気が変わる。
「もちろん!」
志保が笑う。
舞は少しだけ笑った。
「じゃあ、また明日」
去っていく背中。
四人は頭を下げ続けた。
やがて理沙が言う。
「一歩前進だな」
「でも……迷う必要なんてないですわ」
「気持ちは簡単に割り切れない」
重い空気。
だが志保は笑う。
「大丈夫」
「なんで?」
「迷ってるってことは、変わってるってことだから」
その笑顔に、理沙は少しだけ呆れて――
「……そうだな」
夕焼けの中、四人は帰路についた。
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