第5話 無口すぎる新入部員
新キャラが登場します。
まだ登校してくる生徒の姿もまばらな朝。
志保と理沙はチラシの束を抱え、早朝の校門をくぐった。フットサル部の勧誘ポスターを作った二人は、ほかの生徒たちが登校してくる前に学校へ到着していた。
教室にカバンを置くと、二人は目で合図を交わす。
「んじゃ、昨日の打ち合わせ通りにね、志保」
「ラジャ!」
昨日、理沙の家で話し合った重点は《時間短縮》だった。
志保たちのフットサル部は、ほかの部活より一日遅れて勧誘を始めることになる。その一日の遅れが致命傷になるかもしれない。そう考えた二人は、少しでも差を埋めようと徹夜でポスターを作り、朝早く登校してきたのだった。
志保が校内に勧誘ポスターを貼り、その間に理沙が登校してくる生徒にチラシを配る。単純だが、今できる最も効率のいい方法だった。
「私も貼り終わったら校門に行くから、それまで理沙、頑張ってね」
「分かってる。少しでも多く配るから、そっちは頼む」
「んじゃ、あとでね!」
そう言い残し、志保は走って教室を飛び出した。
(広い校舎に四階建て。全部の階にポスターを貼るなら、私より志保の方が速い)
元サッカー部のエースだった志保のスタミナは、この役目にぴったりだった。
理沙もチラシを持ち、校門へと急ぐ。
(はあ、はあ……急がないと)
志保は階段を駆け上がり、次々と掲示板にポスターを貼っていく。人の少ない廊下を走り回り、空いているスペースを見つけては貼り、貼ってはまた走る。
最後の一枚を貼り終えた時には、さすがの志保も汗だくになっていた。
(さすがに疲れたな。でも、校門で理沙が待ってる)
息を整える間も惜しんで、志保は再び走り出す。
下駄箱で靴を履き替え、校門へ向かうと、理沙が必死にチラシを配っていた。だが、受け取ってくれる生徒は少ない。ほかの部活もすでに勧誘を始めていて、状況はかなり厳しかった。
「お待たせ〜。理沙、どう?」
「お疲れ、志保。あんまり芳しくない。正規の部活じゃないっていうのが、やっぱり致命的みたい」
「そっか。私も配るから、チラシ半分ちょうだい」
理沙からチラシを半分受け取ると、志保はすぐに声を張り上げた。
「フットサル部、新しく作りま〜す! やりたい方、興味のある方、経験者でも初心者でも構いません〜! 一緒にフットサルをしましょう〜!」
「フットサル部です! 詳しいことはチラシに書いてあります!」
理沙も負けじと声を張る。
そんな時だった。
一人の少女が、マイクを持って理沙の前に駆け寄ってきた。
(もしかして……入部希望?)
しかしその少女は、持ってきたマイクを理沙に向けたまま、無言で立ち尽くすだけだった。
妙な圧に押され、理沙は思わず後ずさる。
「あ、あの……何か用?」
よく見ると、その少女は高校生にしてはかなり小柄だった。目線は志保たちより明らかに低く、おそらく身長は百五十センチにも届いていない。ツインテールの髪型も相まって、ひどく幼く見える。
制服を着ていなければ、小学生と間違えられても不思議ではなかった。
小さくて可愛らしく、ランドセルすら似合いそうな少女が、理沙の前で黙ったまま立っている。
「……」
「馬鹿だな、理沙。入部希望だけど、恥ずかしくて言葉が出ないんだよ。それくらい察しようよ。フットサル部へようこそ。歓迎するよ。名前とクラスを教えてくれるかな」
志保がそう言って少女に話しかける。
少女は相変わらず何も言わず、マイクを理沙に向けたままだったが、一瞬だけ志保へ目を向け、小さな口をもごもごと動かした。
「えっ、なに?」
志保が耳を近づける。
「うんうん。それで?」
理沙には何を話しているのかまったく分からない。
けれど、その少女の姿があまりにも可愛らしくて、理沙は思わず頬を赤くした。
(いかんいかん。私は何を考えているんだ。この子は立派な高校生だぞ。ぬいぐるみみたいで可愛いなんて失礼だ)
そう思いながらも、理沙は二人のやり取りを見守る。
「了解!」
やがて志保が元気よく敬礼すると、少女もぴしっと敬礼を返した。
「……で、この子、何だって?」
我慢できずに理沙が聞くと、志保は愛想笑いを浮かべながら頭をかいた。
「ん〜、よく分かんない。えへへ」
「お・ま・え・は〜!」
理沙が鬼の形相で志保に迫り、こめかみをぐりぐりと締め上げる。
「痛い痛い! 理沙、冗談だよ、ごめんごめんなさい〜!」
「悪い冗談はいいから、さっさと話せ!」
理沙の迫力に押され、志保はその場で正座した。
「えっとね、こちら足立柚季ちゃん。一年C組だって」
隣にいた柚季がこくこくと頷く。
「それでね、柚季ちゃん、新聞部を作るためにスクープを探してるんだって」
「それが私と何の関係がある?」
「理沙は昨日の入学式で一躍有名人なんだって。男子生徒の間じゃ、早くもミス岡家コンテスト優勝候補らしいよ」
理沙の口元がぴくりと引きつる。
だが、通訳として伝えないわけにもいかない。志保は覚悟を決めて続けた。
「だから理沙の特集を組んで、それをスクープにして新聞部を作りたいんだってさ」
「ほう、いい度胸だな……」
「考えたのは私じゃないよ!? 柚季ちゃんだよ!?」
両手をぶんぶん振って、志保は必死に釈明する。柚季もこくこくと頷いた。
「あのね、柚季さん。ごめんだけど特集はお断り。さすがに恥ずかしい」
理沙が優しく断ると、柚季は見るからに肩を落とした。
(こんなしぐさまで可愛い〜)
またもや理沙の頬が少し赤くなる。
だが志保はそんなことには気づかず、柚季を抱きかかえて頭をなでた。
「理沙、こんな可愛い子を落ち込ませるなんて、それでも私の親友? 大丈夫、お姉さんが協力してあげる」
「いや、お姉さんって同級生だから。それに、どんなに志保が協力しても、柚季ちゃん一人じゃ新聞部は作れないよ。昨日聞いただろ。部活を作るには最低五人必要だって」
理沙が冷静に説明すると、柚季はさらに肩を落とし、顔色まで青ざめていく。
その様子を見た志保は少し考え込み――すぐに顔を上げた。
「あっ、いいこと考えついちゃった」
その表情を見て、理沙は嫌な予感しかしなかった。
案の定、志保は理沙を無視して柚季に耳打ちを始める。
二人の会話が進むにつれ、柚季の顔に少しずつ笑顔が戻っていった。
そして最後には、志保と柚季は固い握手を交わした。
握手を終えると、柚季は理沙にぺこりと頭を下げ、そのままものすごいスピードで走り去っていった。
「速っ!? 何あのスピード!」
志保も理沙も運動には自信がある。だが、柚季の速さは二人がこれまで見た中でも群を抜いていた。
「うんうん、あれは即戦力だね。これであと二人見つければ、フットサル部ができるよ」
納得したように頷く志保。
「へえ〜、そうなんだ。あの子、フットサル部に……って、えぇぇぇ〜!?」
驚きのあまり、理沙が校庭に響き渡るような声を上げた。
その声の大きさに、隣の志保は耳に手を当ててしゃがみ込む。だが次の瞬間、理沙に襟首をつかまれ、自分の意思とは関係なく立たされた。
「おい、どういう事だ。ちゃんと説明しろ!」
「あうあう、脳みそがシェイクされちゃうよ~」
理沙は志保の頭を前後に揺らす。
「ちゃんと言うから落ち着いて~」
理沙が手を離すと、志保はそのままグロッキー状態で校庭に座り込んだ。
「ち、地球が回ってる~。理沙も一緒に回ってる~」
「おい志保、しっかりしろ。地球はいつも自転しているものだぞ。志保、志保ぉぉ~~」
倒れ込む志保を抱きかかえながら、理沙はツッコミを入れる。そしてまたもや、校庭に理沙の声が響き渡った。
新キャラの柚季が入部しました。
個人的には書きやすくて大好きなキャラです。
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