第37話 五人で掴んだ勝利
次回、最終話です。
(私に出来ること、私にしか出来ないこと)
コーナーキックを防いだフローラルは、その後も何度もスクラッチのゴールに迫った。だが、試合巧者のスクラッチは慌てることなくシュートに対応する。まだ余裕がある証拠だった。
志保は何度もドリブルで仕掛け、さまざまな攻撃を試みるが、スクラッチのディフェンスは崩れない。無尽蔵とも思えるスタミナで動き回り、プレッシャーをかけ続け、時折鋭いカウンターを繰り出してくる。
(残り時間2分を切っているのに、まだ集中力が続いてる……ジャンルは違っても、やっぱり凄い選手たちだ。でも、私たちだって負けてない)
思わず脱帽する志保。しかし、このまま手をこまねいているわけにはいかない。フローラルはこの試合にすべてを懸けている。
(どうすれば……)
ボールをキープしながら周囲を確認すると、亜紀と目が合う。亜紀は軽く顎を振り、志保に「こっちに動いて」と指示を送った。
志保はフェイントを入れ、指示通りにダッシュする。だが、奈央のマークは外れない。ドリブルコースもパスコースも完全に潰される。
その時だった。
亜紀が動き出し、自然な流れで奈央の進路を塞ぐようにぶつかった。
「あっ、ごめんなさいですわ」
――バスケで言うスクリーンプレイ。
進路を遮られた奈央は志保に追いつけなくなった。
(私は、私に出来ることをしますわ)
亜紀は試合中、ずっと考えていた。
自分の技術ではスクラッチのディフェンスは崩せない。ならば――フローラルで一番得点の可能性がある志保を活かす。それが自分に出来ること。
試合でゴールを決めたことはない。練習では決められても、本番では決めきれない。
(私に志保さんの技術の半分でもあれば……)
悔しさを飲み込み、亜紀は決意する。
今の自分に出来ることを、すべて出し尽くすと。
(僕に出来ることは少ない。でも、力になりたいの)
志保が奈央のマークを外したのを見た柚季は、すぐに動いた。すると、スクラッチの聡美が引き寄せられるように追ってくる。
技術もフィジカルも足りない。だからこそ――志保が動けるスペースを作る。
普段は大きな声を出さない柚季が、必死に声を張り、走り続ける。
(少しでも……勝利のために)
(私がこのチームのキャプテンなんだ)
理沙は展開を読み、志保のフォローに入る。
自分にスピードはない。だからこそ――予測で補う。
全神経を研ぎ澄まし、最短距離で動く。
(みんな……繋がってる)
志保は感じていた。
亜紀が道を作り、柚季がスペースを生み、理沙が支え、舞が守る。
(ゴールを決めてきて!)
その想いに応えるように、志保はドリブルでゴールへ向かう。
しかし、奈央が再び立ちはだかる。
崩せない。
だが――その瞬間。
(ここだ! 理沙、お願い!)
志保はパスを出し、同時に前線へ走る。
理沙はそれをダイレクトで柚季へ。
柚季はそのまま亜紀へ。
亜紀は身体でボールを守り――迷わず志保へ預ける。
(あとはエースの仕事ですわ)
志保はボールを受ける。
だが奈央が横にいる。シュートは打てない。
(なら――ここだ!)
急停止、ターン、身体を入れる。
奈央の動きを完全に封じる。
ゴールを見る。
ゴレイロが飛び出してくる。
(遅い……全部見える)
世界がスローモーションになる。
志保はボールを挟み、踵で浮かせた。
ボールは弧を描き――ゴールへ。
誰も動けない。
全員が見守る中――
ボールはネットを揺らした。
笛が鳴る。
ゴール。
「やった……!」
志保は思わず亜紀に飛びつく。
「やりましたわね……!」
抱き合う二人。
その瞬間――
試合終了の笛が鳴り響いた。
「えっ……試合終了?」
「みたいですわね」
「ってことは……」
志保が呟く。
亜紀が静かに頷く。
「勝ったのですわ……フローラル、初勝利ですわ」
初勝利シーンです。
元の作品だとこのシーンだけで3話はいけます。
1人1人にスポットを当てていたんですが、長くなりすぎて読みやすいように省略しました。
次回、最終話となります。最後まで読んで頂けると嬉しいです。




