第35話 一瞬の隙
熱い展開を書きたい意欲だけはあります。
志保が両手を挙げ、気合いを入れる。すると同時に、1試合目終了のブザーが鳴り響いた。
コートを見ると、試合を終えたオレンジマジックが相手チームと握手を交わし、コートから引き上げてくる。得点表示は3対0。オレンジマジックの快勝だった。
嬉しそうにチームメイトと話す千絵が、志保たちの前を通り過ぎる。
「次の試合、頑張ってね」
「言われなくてもスクラッチには勝ちますわ。もちろん貴方達にも。首を洗って待っていなさいですわ」
「私たちもスクラッチにもフローラルにも負けないから。いい試合にしようね」
亜紀の挑発にも、千絵は笑顔で応じるとそのまま立ち去ろうとする。
「待ちなさいですわ。まだ話は終わっていませんわ」
亜紀が食ってかかろうとした瞬間、志保がその肩を掴んだ。
振り向いた亜紀の前に、真剣な表情の志保が立っている。
「試合で見せればいいよ。私たちの実力」
静かに、しかし強い声だった。
「オレンジとスクラッチ。この2チームには、絶対勝とう」
そう言い残し、志保はコートへと駆け出していく。
理沙、舞、柚季もその背中を追った。
その場に取り残された亜紀に、健が声をかける。
「行くよ。試合だ」
差し出された手に、亜紀は顔を赤らめながらそっと手を重ねた。
その様子を、コート内の4人がニヤニヤと見ている。
「な、何を見ているのですか! 早く準備運動をしなさいですわ!」
「いや、亜紀もだろ! 大体ここでそんなことしたら――」
理沙が指差した先を見ると、スクラッチやオレンジのメンバー、さらには観客までもがニヤけた顔でこちらを見ていた。
「あの、すみません。もうすぐ試合なのでアップお願いします」
審判の一言で、亜紀は慌てて健の手を離し、コートへと走り込む。
「お姫様みたいにエスコートしてもらえばいいのに~」
「ライバルに宣戦布告できたのにね」
「やめてくださいですわ! 黒歴史ですわ!」
顔を真っ赤にしながらボールを蹴る亜紀。
「さあ、おふざけはここまで。そろそろ上げていくぞ」
理沙が声をかけ、全員を集める。
「せっかくだし円陣組もうよ。気合い入れるためにさ」
志保が両脇の亜紀と柚季の肩を組む。
それに合わせて、理沙も舞と肩を組み、5人で円陣を作った。
「全国制覇もここからだ。まずはスクラッチに勝つ。志保、頼む」
「私?」
視線が集まる。
全員が優しく頷いている。
志保は大きく息を吸い込んだ。
「行くよ、フローラル! 勝つよ、フローラル! 楽しんでいこー!」
「おぉー!」
試合開始の笛が鳴る。
今日は屋外の人工芝コート。志保以外は初めての環境だ。
(私が引っ張らないと)
ボールの転がり、バウンド、踏み込み。体育館とは全てが違う。
(まずは慣れる)
志保はウインクしながら理沙にボールを預けた。
「ゆっくり行こう。試合は始まったばっかだよ」
「了解。回すぞ」
理沙は柚季へ。亜紀も意図を察し、無駄な動きを止める。
自陣で丁寧にボールを回すフローラル。
しかしスクラッチはプレスに来ない。
両チームとも守備重視の布陣。
試合は静かに膠着していく。
(やっぱりこうなるか……)
志保はタイミングを見て仕掛けるが、すぐにコースを消される。
互いに決定機を作れないまま、時間だけが過ぎていく。
そんな中――
亜紀と視線が合った。
(行くしかないね)
理沙からのボールを強く前へ。
走り出していた亜紀へ、完璧なスルーパスが通る。
そのままフォローに走る志保。
(これがフットサルだよね)
折り返しを受け、細かいタッチで突破。
1人かわし、ゴールへ迫る。
しかし。
「ここから先は通さない」
奈央が立ちはだかる。
密着ディフェンス。逃げ場はない。
(キツい……!)
耐えながらもボールを保持するが、限界。
その時――
「柚季ちゃん、お願い!」
パス。しかしズレる。
その隙を突かれ、優子にカットされた。
「カウンター!」
一気に攻め込まれるスクラッチ。
だが舞は冷静だった。
「理沙ちゃん、遅らせて!」
指示が飛ぶ。
守備が整い、ピンチを凌ぐ。
試合は一気に激しさを増し、攻防が繰り返される。
そして――
前半終了の笛。
ベンチに戻った志保たちは、荒い息を整えていた。
互いに目を合わせ、無言で頷く。
(勝てる。いや、勝ちたい)
その思いだけは全員同じだった。
後半。
(勝ちたい。このメンバーで)
志保は走る。全力で。
だが――
その瞬間。
ほんの一瞬の油断。
奈央はそれを見逃さなかった。
ボールを奪われる。
(しまった……!)
最悪の位置。
舞しかいない。
奈央が抜ける。
志保が追う。
(間に合う……!)
――届く。
その瞬間。
身体が反応した。
笛。
志保の視界に、倒れた奈央。
ファウル。
PK。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回、試合が大きく動きます。
フローラルにとって大事な展開になるので、ぜひ続きを見てください。
引き続き応援よろしくお願いします!




