第33話 チームになってきた
今回はギャグ回に振りました。
次の日から、大会に向けての猛練習が始まった。
自分たちで考えた練習法を、健が少しだけ修正する。基礎体力、基本技術、連携――それらを一つひとつ丁寧に煮詰めていく。
自分たちで考えたメニューだけあって、きついが“辛いだけの練習”ではない。健もその点を理解し、主体性を大切にしたメニューを選んでいった。
夏休みに入ると、練習はさらに強度を増し、そこに容赦ない暑さも加わった。
夏バテや体調管理の不安もあったが、顧問のゆかりと健がしっかりと計画を立て、対策も万全だった。
「欧州では練習時間はかなり短いんだ。その分、集中してやる。長くダラダラやる練習や、根性論だけの練習は時代遅れだと思う。まあ、全部を否定するわけじゃないけどね。どんな練習でも“楽しく集中すること”を忘れないで」
健のスケジュールは実に明確だった。
暑くなる前の午前中に基礎体力トレーニング。
昼は休憩やミーティング。
そして夕方から技術や連携の練習。
さらに、こまめに長めの休憩を取り、メンバーの体調にも細心の注意を払っていた。
夏休みに入ると、スクラッチの男性陣もゲーム練習のために学校まで来てくれるようになった。
大学生や社会人で、仕事やバイトで疲れているはずなのに、夕方から夜まで付き合ってくれる。
「ゲーム形式の練習は今まで以上に集中して! 経験は絶対に無駄にならない。積み重ねた分だけ、必ず自分たちの力になるから」
その成果は確実に出ていた。
お盆前には、ゆかりからも太鼓判が押された。
――「ちゃんとフットサルのチームになっている」と。
以前は、悪く言えば“前に蹴るだけ”のフットサルもどき。
それが今では、確かな形を持ったチームへと変わりつつあった。
「多少だけど、スクラッチの男性陣ともゲームになるようになってきたね」
「向こうは3~5割の力で、こっちは全開。男女差を考えれば、かなり健闘してる方だろ」
「でも健さんも、これなら奈央さん達ともいい勝負が出来るって言ってくださいましたわ」
「兄貴も満足そうに頷いていたの」
柚季は休憩のたびに健の元へ行き、戦術や評価を聞いてはメンバーに共有していた。兄妹であることを最大限に活かした情報収集だ。
「でも、後ろから見ていても、みんなアスリートっぽくなってきてるよ。筋肉もついてきてるし。大丈夫、自信持ってやっていこう」
帰り支度をしながら舞がそう言うと、なぜか全員の視線が一点に集中した。
「……なんか、舞ちゃんの胸、また大きくなってない?」
「ええ。私たちと同じ練習をしているのに、この差は何でしょう?」
「私たちは筋肉。舞さんは胸。おかしくないか?」
(コクコク)
「えっ、なに? そんなに見ないでよ!」
慌てて胸を隠す舞。
「みんなだってスタイルいいじゃない。胸が大きいのも大変なんだよ? 肩こりも酷いし、形が崩れないように気も使うし……」
その瞬間――
志保は泣き出し、亜紀は怒りで肩を震わせた。
「舞ちゃんは今、全世界の“普乳”女子を敵に回したんだからね!」
ビシッと指を突きつける志保。
「不乳?」
「違うもん! “普通”の“普”で普乳だもん! ね、柚季ちゃん!」
「一緒にしないでほしいの」
「えっ? 柚季ちゃんは私の仲間でしょ?」
「もう一回言うの。一緒にしないでほしいの」
そう言って、柚季は自分の胸に志保の手を導いた。
――その瞬間。
志保の顔色が一気に変わる。
「……あはは」
乾いた笑いが漏れる。
「もう、私には何も見えませんわ」
「奇遇だな。私も涙で前が見えない」
「志保ちゃん……色んな意味で残念だね」
部室には、志保の乾いた笑いだけが虚しく響いていた。
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