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第32話 楽しむという強さ

練習方法に正解はない!と思います

志保がいきなり大きな声で提案する。

メンバー達が疑問の顔を浮かべ、志保に視線を向けた。


 そんな視線を浴びながらも、志保は続ける。


「せっかく柚季ちゃんのおかげで攻撃の方向性も見えたことだし、この戦術を煮詰めない手はないよ。そして、あとは持久力アップ。5人だけで大会に挑むんだから、頑張らないと」


 キラキラした目でそう訴える志保に、メンバー達は何も言えなかった。

 言っていることは正論だ。だが――


 その目の奥にある“迷い”を、理沙は見逃さなかった。


「志保、これは部長として聞く」


 静かな声で問いかける。


「あなたはフローラルを強くしたいの? それとも、楽しく活動していきたいの?」


 その一言で、志保の心臓が一瞬止まった。


 親友に、心の奥に隠していた本音を見抜かれた。

 言葉が出ない。


 そんな志保を見て、理沙は大きくため息をついた。


「やっぱりね。軍隊みたいな部活にはしたくない。でも強くはなりたい。強くなるには、辛い練習や筋トレが必要――そんな葛藤でしょ?」


 完全に言い当てられ、志保はただ立ち尽くすしかなかった。


 その空気の中で、亜紀が口を開く。


「確かに、強くなることと辛い練習は比例しますわね。でも、それはある程度仕方のないことですわ」


「そんなことはないよ」


 その声と同時に、部室の扉が開いた。


 健だった。


 自信に満ちた表情で、まっすぐに言い切る。


「どういう事ですか? 辛い練習や筋トレをしなくても強くなれるってことですか?」


「そうだな。その答えはイエスでもあるし、ノーでもあるかな」


 理沙の問いに、健は少し笑いながら答える。


 全員の頭に「?」が浮かぶ。


 そんな様子を見て、健は苦笑しながら続けた。


「そんなに難しく考えなくていい。フットサルを楽しめばいいだけだよ」


「例えばさ。俺が何の説明もなく『筋トレしろ』『トラック20周』って言ったらどう思う? 嫌々やるでしょ?」


 メンバー達が小さく頷く。


「でも、『スタミナをつけるため』『この技術を身につけるため』って理由が分かれば、少しはやる気になるよな? だから根本は、“楽しむこと”なんだよ」


 少しだけ照れくさそうに笑う。


「ごめん、上手く説明できないけど……なんとなく伝われば嬉しい」


「さすが健さんですわ! どんな練習でも楽しんでやることが重要ってことですわね!」


「相変わらず亜紀さんの兄貴へのアピールが激しいの。本当に好きなのかの?」


「私に聞かないで。真実を知るのが怖い」


「亜紀さんが将来義姉に……僕は耐えられるのかの」


「心中お察しします」


 小声で繰り広げられるツッコミ合戦。


 だが健はそんな会話に気付かず、話を続ける。


「あともう一つ。練習を自分達で考えれば、もっと楽しくなる。理に合ってなければ俺が修正する。やらされるより、自分達でやる方が絶対に伸びるから」


 その言葉に、メンバー達の表情が変わった。


「まずは持久力だな。ただ走るだけじゃ苦行だし……」


「競争にして罰ゲームつけるとかいいかも!」


「動きながらのトラップ練習もしたいですわ」


「セットプレーもパターン作ろうよ」


「僕は判断スピードを上げたいの。視野を広げる練習だの」


 次々と意見が飛び交う。


 それぞれが考え、言葉にする。

 それを受け止め、また返す。


 チームとして足りないもの。個人の課題。

 それらを自然に共有していく。


 その様子を見て、健は満足そうに頷いた。


「柚季に呼ばれたけど……俺、もういらないみたいだな」


 軽く笑いながら扉へ向かう。


「練習内容は明日聞くよ。あと夏休みはできるだけ来るから、予定表もらえる?」


「あっ、はい! すぐ用意いたしますわ!」


 亜紀が慌てて立ち上がり、予定表を渡す。


 健は軽く目を通すと、


「じゃあ、また明日」


 そう言って部室を後にした。


 その背中を、亜紀は両手を胸の前で組みながら見つめていた。


「うわぁ……少女マンガのワンシーンを現実で見るとは思わなかった」


(コクコク)


「もう告白しちゃえばいいのにね」


 その言葉に、亜紀は顔を真っ赤にして否定する。


「わ、私はそんな風には思っていませんわ! そもそも将来の旦那様は相原財閥の次期党首として――」


「真面目に答えるな! ツッコミづらいわ!」


 理沙が強引に話を切る。


「亜紀の話はどうでもいい。今はフローラルだ」


「ちっ、面白かったのに」


「志保! 舌打ちするな!」


 空気を引き締めるように、理沙が全員を見渡す。


「健さんの言う通り、楽しく強くなろう。フットサルは楽しい。だから辛い練習も少しでも楽しく。それがフローラルの強さになる」


 一呼吸置いて――


「明日から、本気でやるぞ」


「おう!」

読んでいただきありがとうございます!


「チームで勝つ楽しさ」をテーマに書いています。

「勝つためにつらい練習に耐える」を否定しているわけではありません。


理想論ですけど、それでも良ければぜひ最後まで付き合ってください!

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