第26話 勝つための作戦
動きのあるシーンって本当に難しい
1試合目終了のブザーが体育館に鳴り響く。
オレンジマジックとの対戦はやはり劣勢で終わった。スコアも0対3と、明らかに実力差があった。
「強いって。ものすごく強い! 明らかに技術が違うよ~」
(コクコク)
サッカー経験者の志保が悲鳴を上げると、柚季も同意するように頷いた。
「しかし、練習試合はともかく、大会ではスクラッチに一度も勝ったことがないって言っていたし……ってことは――」
そう言いながら、理沙は隣のコートへ視線を向ける。つられるように、メンバー全員がそちらを見る。
そこには、コート中央で楽しそうにボールを蹴る健の姿があった。
「やっぱり健さんの戦略ですかね?」
舞が、皆が思っていることを口にする。それに亜紀が即座に反応した。
「やっぱり健さんは凄いですわ。あんな方がコーチをしてくださっているのに勝てないなんて……次は必ず勝ちましょう! ……と言いますか、フローラルってまだ一度も勝ったことがありませんわね」
そう言いながら、亜紀の声は次第に小さくなっていく。
他のメンバーもそれに引っ張られるように俯き、場の空気が重く沈んでいった。
そんな空気を、部長の理沙が切り裂く。
「いやいや、暗くなってどうする。だから次は勝とう」
「でも、勝てるイメージは全くしないよ。スクラッチの時よりも全然しない」
志保が正直な気持ちを口にする。
対戦してすぐに分かった。
オレンジマジックは、スクラッチ以上に基礎技術が完成されている。パス精度、トラップ、オフザボールの動き――どれを取ってもレベルが高い。
さらに、フローラルが5人なのに対し、オレンジマジックは8人。
交代自由のフットサルでは、この差は大きい。
何度シミュレーションしても突破口が見えない。志保は思わずため息をついた。
そんな志保の肩に、舞がそっと手を置く。
「あきらめたらそこで試合終了です。漫画の受け売りだけど、その通りだと思うよ。みんなで勝つ方法を考えよう」
亜紀も拳を握りしめる。
「そうですわ。このまま策も考えずに戦うなんて愚者のやること。相原財閥次期党首として、それは断じて許されませんわ」
「しかし、作戦と言ってもな。うちは人数もポジションも限られているし……そんな都合のいい作戦なんて――」
理沙がそう言いかけた、その瞬間。
「あるよ、作戦」
いつの間にか背後に立っていた健が、会話に割って入った。
「勝てるかどうかは分からないけど、少なくともいい試合ができる作戦はね」
「うわっ!?」
「健さんまで、ゆかり先生みたいな登場しないでくださいよ!」
理沙と舞が驚いてバランスを崩しかける。
「何か作戦あるんですか?」
「さすが健さんですわ!」
「兄貴、もったいぶらないで早く教えるの」
「お前たちは本当にブレないな……」
理沙が呆れ顔でツッコミを入れる中、志保と亜紀は健に詰め寄る。
「どんな作戦?」
「私はどんな作戦でも応えてみせますわ!」
「いや、近いって」
健は困ったように後ずさる。
「とりあえず座って。ちゃんと説明するから」
ようやく落ち着いたメンバーを前に、健は軽く咳払いをした。
「今回は口出ししないつもりだったけど、困ってるみたいだからヒントだけな。
戦略の基本は“相手の長所を消して、自分たちの長所を出す”こと」
ゆっくりと、丁寧に続ける。
「オレンジの強みは基礎技術の高さ。そこをどう消すか。
そして、こっちの強みはスピード。そこをどう活かすか」
一度言葉を切り、にやりと笑う。
「ここまで教えたんだから、あとは自分たちで考えてみな」
そう言うと、健は手を振って隣のコートへ戻っていった。
「えっ、それだけ!?」
「もう少し具体的なアドバイスが欲しいですわ!」
志保と亜紀が引き止めようとするが、健はすでにプレーに戻っている。
残された5人は、呆然と立ち尽くした。
しかし、2試合目の時間は迫っている。
「ど、どうしますの?」
亜紀が不安げに周囲を見回す。だが、誰も答えられない。
沈黙が流れる。
その時――
「皆、聞いてほしいの」
柚季が静かに口を開いた。
普段、自分から意見を言うことのない柚季。その言葉に、全員が驚く。
「な、何?」
「柚季ちゃんが作戦?」
「私の作戦、聞いてくれる?」
理沙が前に出る。
「志保、ちょっと黙ってろ。……どんな作戦だ?」
柚季はタブレットを取り出し、映像を再生した。
「これってさっきの試合? いつの間に撮ったの!?」
舞が驚くが、柚季は構わず説明を始める。
「僕が気付いたことは――」
淡々と語られる分析。
しかしその内容は的確で、誰もが納得せざるを得なかった。
説明が終わる頃には、全員の表情が変わっていた。
迷いは消え、自信が宿っている。
理沙が立ち上がる。
「よし、柚季の作戦で行こう。ダメならまた考える。行動あるのみだ。――行くぞ!」
「おー!」
その声とともに、5人はコートへと駆け出した。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
ついに試合が動き始めました。
この先、フローラルがどう戦っていくのか、ぜひ見守っていただけると嬉しいです。
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