第24話 “勝つチーム”との差
何事も下調べが大事だと思う今日この頃です
あれから一か月が過ぎ、もうすぐ夏休みに入ろうとしていた。
志保たちは健の指導によって、少しずつ確実にレベルアップしている手応えを感じていた。
「これならリベンジできそうですわね」
「あまり天狗になるなよ。相手の方が経験豊富だし、あれから上手くなってるかもしれないし」
自信満々の亜紀を、理沙がたしなめる。
「でもさ、明日はスクラッチの女性陣、みんな集まってくれるのかな? 健さんの話だと、全員揃うことの方が珍しいって言ってたじゃない?」
着替え終わった舞が会話に加わる。志保と柚季も合流し、ホワイトボードの前に集まった。
毎週土曜日は、スクラッチの練習に混ぜてもらっている。フローラルだけではゲーム形式の練習ができないため、健の提案で参加させてもらっていた。
しかし、あれから一度も女性陣との試合は行われていない。
スクラッチは基本的に社会人チームであり、全員が揃うことは少ない。
健曰く――
「メンバーは全部で三十人くらいいるんじゃないかな。数えたことないからわからない」
とのことだった。
実際に練習に来るのは十〜十五人ほど。仕事や家庭の事情で参加できない人の方が多く、女性陣も一人か二人しか来ないのが現状だった。
「確かにリベンジはしたいですが、このままではいつまで経っても出来ませんわね」
「そうだよね。女性で毎回いるのは由香さんだけで、他の人は来たり来なかったり。これじゃリベンジにならないよ」
亜紀の言葉に、志保が頷く。
「夏の高校フットサル大会にも、このままじゃ間に合わないの」
タブレットを操作していた柚季が、画面を見せた。そこには大会の概要が表示されている。
現在、サッカーのように協会や高体連が主催する大規模な大会は、フットサルには存在しない。
甲子園や国立競技場のような明確な舞台もない。
だからこそ志保たちは、非公式ながら「全国大会」と銘打たれた夏高フットサル大会を目標にしていた。
「なになに……今回の女子部門は予選なし……いきなり東京? 無理でしょ! 自分たちの実力もわからないのに、東京なんて無理~」
志保が悲鳴を上げる。理沙と舞は苦笑するしかなかった。
「いいですわ。神奈川にある相原家の別荘を提供しましょう。宿泊費は無料ですし、お食事もご用意いたしますわ。これで大会は問題ありませんわね」
亜紀がドヤ顔で胸を張る。
「大会に出るの? 本当に?」
「いや、驚くのはそこじゃないだろ」
志保が食いつき、理沙が冷静にツッコむ。
「ご飯も出るなら交通費だけで済むわね」
「いや、舞さんもそこじゃないと思う」
「理沙さんは相変わらずツッコミクイーンなの」
「だからやりたくてやってるわけじゃないから。別荘は置いておいて、いきなり東京大会はまずくないか? 確かに最終目標だけど、段階は踏んだ方がいいと思う」
理沙が冷静に結論を出す。
自分たちの実力もわからないまま大会に出るのは無謀だ。レベルの高いチームが集まる中で、何も対策なしに挑むのは危険すぎる。
しかし、試合をしなければ実力も測れない。
沈黙が流れる。
その時、部室の扉が開いた。
「とりあえず、うちのチームに勝ってからだね。うちの女性陣、前に近場の大会で優勝してるよ」
そう言って入ってきたのは健だった。
「さすが健さんですわ。健さんの指導なら優勝なんて当然ですわ」
亜紀が目を輝かせて称賛する。健は少し引きつつ、全員を見渡した。
誰もが自信に満ちた表情をしている。
実際、個人技だけならスクラッチとの差はほとんどない。むしろ毎日練習しているフローラルの方が、上達のスピードは速い。
しかし――圧倒的に試合経験が足りない。
連携は試合でしか磨かれない。人数の少ないフローラルでは、それが難しかった。
土曜のスクラッチで試合形式はできるが、男性陣が本気になると歯が立たない。
健が「少し手加減してくれ」と頼んでも、最初だけ。すぐに本気になる。
健は苦笑するしかなかった。
(そういえば直弥のやつ、「任せろ」って言ってたな……)
少しだけ不安を覚える。
「健さん? おーい」
気づけば、メンバーたちが覗き込んでいた。
「ごめんごめん。何だっけ?」
「スクラッチってそんなに強いの? 技術的には負けてないと思うけど」
「お前は礼儀を覚えろ!」
理沙の拳骨が落ち、志保は言葉を失う。
それを無視して、舞が尋ねる。
「スクラッチの女性チームって強いんですか?」
「うーん……強いっていうより、“勝つ”って感じかな」
健の曖昧な答えに、全員が苦笑する。
「もっと自信を持ってくださいですわ」
「いや、それだとフローラルがメインになってるから。あの女性陣、技術はそこまででもないのに勝つんだよな」
健は首をかしげる。
「まあ、明日も全員は揃わないと思うけど、貴重な練習の機会だ。集中していこう」
そう言って、その日の練習は締められた。
ここまで読んでいた頂いてありがとうございます。
書きやすいキャラは的には志保、理沙、柚季なんですよね。
ツンデレ要素満載の亜紀、癒し系の舞が意外に物語に絡ませづらい。
得意不得意のジャンルなんですかね。これからも応援よろしくお願いします。




