第23話 部長の覚悟
ギャグ作品のはずだったのにな。どうしてこうなったんでしょう。
「今日は凄い疲れたね……さすがに足が重い」
珍しく、舞が弱音を口にした。
これまで一度も弱音を吐かず、常に志保の隣で走り、声を出してみんなを引っ張ってきた舞。
そんな舞の姿を見て、志保は思った。
(舞さんでも弱音を吐くんだ)
そして、少し笑いながら言った。
「私もさすがに今日は疲れたよ」
だが、その2人とは対照的に――残りの3人は歩くのもやっとだった。
脚を引きずり、今にも倒れそうな状態である。
「絶対にこいつら人間じゃない……」
「その意見には激しく同意いたしますわ……」
(コクコク)
理沙の言葉に、亜紀と柚季が力なく頷いた。
その時、前を歩いていた志保が突然振り返る。
そして――怪しい目で2人を見つめた。
「これからは私がボールを運ぶからね。いいパス出すから、絶対に決めてね」
目が光っている。
「ちょ、ちょっと目が怖いですわ、志保さん……」
亜紀と柚季が震え上がる。
そんなやり取りをよそに、理沙は別のことを考えていた。
(私にゲームメイクなんてできるのか……? 守備の要って……大丈夫なのか?)
健の言葉が頭の中で蘇る。
――志保ちゃんを一番後ろに置いたのが敗因。
あの時、自分も志保も反論した。
「志保が一番後ろにいないと守備が不安になるし、パスも回らなくなる可能性があるじゃないですか」
「私はちゃんとみんなを見て、フォローして、ゲームを作ってたよ!」
だが、健はそれを軽く受け流した。
「誰もダメだなんて言ってないよ」
そして続けた。
「でもね、一番上手い志保ちゃんがゴールに一番近い位置にいると、奪われた時にすぐ致命傷になる」
「正直、理沙ちゃん、亜紀ちゃん、柚季はまだトラップもドリブルも不安がある。マークも外せてない」
「だから志保ちゃんが仕掛けるしかなくなる」
「そこで、奈央さんを当てる」
「ドリブルを止めれば、苦し紛れのパスになる」
「それをカットすればいい。もしくはトラップミスを誘う」
「奪えれば、すぐに舞ちゃんと1対1」
――完璧な戦術だった。
その説明を聞いた瞬間、全員が言葉を失った。
試合を思い返せば、思い当たる場面はいくらでもある。
舞が小さく呟く。
「……なるほどね」
確かに、失点シーンはほとんど1対1だった。
組織で守れている場面では、決定的なピンチは少なかった。
個々の技術差は大きくない。
むしろ志保がいる分、フローラルの方が上にすら思える。
それでも――負けた。
理由は明確だった。
(戦術と経験……)
誰も、もう反論しなかった。
「じゃあ、明日からはその形でやっていこう」
健の言葉に、全員が素直に頷いた。
――――――
「私にできるのかな……」
帰り道、理沙がぽつりと呟いた。
「ゲームコントロールとか、守備の要とか……」
その声を、志保は聞き逃さなかった。
後ろから飛びつき、耳元で囁く。
「理沙なら大丈夫だよ。だって理沙だもん」
そして――
ふっと息を吹きかけた。
「な、何やってんのよ、志保!」
理沙が顔を真っ赤にして飛び跳ねる。
「いや、プレッシャー減らしてあげようと思って」
「途中まではいい雰囲気だったのに台無しだよ、志保ちゃん」
舞がクスクスと笑う。
「大丈夫ですわ。健さんが間違うはずありませんわ」
「私も全力でフォローします。自信を持ってください」
「兄貴は人を見る目があるの。兄貴が大丈夫って言うなら大丈夫なの」
亜紀と柚季も言葉を重ねる。
みんなが自分を支えてくれている。
本来なら、自分が引っ張る立場なのに。
(こんなんじゃダメだ……)
理沙は心の中で拳を握る。
(明日からじゃない。今日からやる)
(家でもできることはある。まずはリフティングから)
決意を固めたその時――
志保が優しく笑った。
「理沙、今“ちゃんとしなきゃ”って思ったでしょ?」
「いいんだよ。頼ってくれて」
「仲間じゃん」
「フローラルはチームなんだから」
「一人で抱え込まないでよ」
その言葉に、理沙の顔が赤くなる。
周りを見ると――
亜紀も、柚季も、舞も。
みんなが優しく笑っていた。
「部長だからって、一人で背負わなくていいよ」
「勝っても負けても、チームの責任ですわ」
(コクコク)
その瞬間、理沙の肩から力が抜けた。
(そっか……)
(私、一人じゃないんだ)
「さあ! 明日からも練習して――」
志保が空を見上げ、大きな声で叫ぶ。
「【スクラッチ】の女子チームを倒すぞー!」
「おー!!」
青空に、5人の声が響き渡った。
読んでいただきありがとうございます!
気付けばスポーツ作品を書いています。
少しでも志保たちの思いが伝わっていたら嬉しいです。
ここからさらに盛り上がるので、ぜひ最後まで付き合ってください!




