第22話 えっ!?ポジション変えるの!?
日本代表の試合を見ていて、(なぜあんな簡単なミスをするの?)と思いますが、自分でやるとわかりますね
ゆかりを含め、全員が揃ったのを確認した健は口を開いた。
「じゃあ、今からやる練習は、明日から必ずやってね」
そう言って、見本を見せ始める。
健の指導はとにかく分かりやすかった。
なぜこの練習が必要なのか、どんな場面で役に立つのか――それを丁寧に説明してくれる。
(なるほど……理由を理解させてからやらせる。だからみんな納得して動けるんだ)
志保と舞が納得したように頷く。
一見簡単そうに見える動き。しかし、実際にやってみると、経験者の志保でさえ簡単にはできない。
「できないのは当たり前。できるようになるための練習なんだから、失敗していい」
「ほら、下を向かない。視野を広げるために、顔はすぐ上げること。慣れたら下を見ずにトラップする」
「止まってトラップしない。フットサルはコートが狭い。止まったらすぐに詰められる。ボールを動かしながら自分も動く」
健の声が体育館に響く。
「あの……ゴレイロの私も、ここまでやらないとダメですか?」
舞が遠慮がちに尋ねる。
健は当然と言わんばかりに答えた。
「当然。フットサルはゴレイロも攻撃に参加する。これくらいはできないと」
そう言って、舞に動くよう促す。
体育館をぐるぐると回り続ける練習。人数が少ない分、順番の回りが早く、休む暇もない。
「こ、これ……結構疲れるね」
「うん……さすがに私も脚が動かなくなってきた」
理沙と舞が弱音を吐く。
そこに、亜紀が割って入った。
「はぁ、はぁ……でも、これは……健さんが、私たちのために考えてくれた練習ですわ。これしきで……バテていては……期待に応えられませんわ……」
息も絶え絶え。それでも虚勢を張る亜紀。
だがその身体は正直だった。膝は震え、今にも崩れそうだ。
「あ、あなたたちはまだいいわよ……わ、私なんて、最近運動してないんだから……」
ゆかりは体育館の床に倒れ込み、生ける屍のようになっていた。
「今日はこれくらいにしようか。あとでミーティングするから、着替えたら呼んで」
健の一言で、全員がその場に崩れ落ちる。
「多分、健さん……Sだね……」
「僕も……こんな兄貴、知らなかったの……」
志保の言葉に、柚季が同意する。
普段は優しい兄。しかし今目の前にいるのは、容赦のない指導者だった。
(兄貴のデータ、更新が必要なの……)
柚季は静かに息を整えた。
「さあ、着替えてミーティングだ。早くしないと俺が部室に入れない」
その言葉で、6人は重い体を引きずるように部室へ向かった。
――――――
ホワイトボードの前に立つ健。
制服に着替えた5人はベンチに座り、ゆかりはまだ回復できず横になっていた。
「ごめん……今日は私はいないものと思って……」
青白い顔でそう言うと、そのまま沈黙する。
完全にスルーして、健は話を始めた。
「今日の練習の意味は分かったよね? フットサルは常に動くスポーツ。止まってボールを受ける場面はほとんどない」
「だから、今日のメニューは今後も継続する。レベルに合わせて段階的に上げていく」
そう言って、練習メニューの紙を配る。
内容を見たメンバーたちは気づいた。
――個人ごとに内容が違う。
「健さん、この個人練習って……」
理沙が戸惑いながら尋ねる。
(私と志保の内容、逆じゃない?)
疑問が浮かぶ。
すると健はあっさりと言った。
「結論から言うね。ポジションチェンジする」
「志保ちゃんがアラ。理沙ちゃんがフィクソ」
「えっ!? 私、そんなにダメだった?」
志保が勢いよく詰め寄る。
顔の距離が近い。
「ちょっと! 近いって!」
健が後ずさる。
そこへ――
「志保さん、少しは落ち着きなさいですわ!」
亜紀が割って入り、二人を引き離した。
「邪魔!」
「あなたこそ近づきすぎですわ!」
言い争いが始まる。
舞が慌てて仲裁に入る。
一方で理沙は――動かない。
頭の中で、健の言葉を整理していた。
(なんでポジションを変える必要がある?)
試合の敗因は経験差。戦術の差。
自分たちの形は間違っていなかったはずだ。
(でも……健さんは“根本的に違う”って言ってる)
納得できない。
理沙は立ち上がった。
「なんでポジションチェンジなんですか? 理由を教えてください」
「うわ、こっちもか……」
健が苦笑する。
だが理沙は引かない。
(簡単に変えられてたまるか)
真剣な視線。
その空気に、志保たちも言い争いを止めた。
「……分かった。ちゃんと説明する」
健は両手を上げた。
「とりあえず座って。納得できなかったら元に戻してもいい」
その言葉で、全員が落ち着きを取り戻す。
ベンチに座り直す5人。
健はホワイトボードの前に立った。
「じゃあ、説明するね」
そう言って――
ホワイトボードに大きく、
【戦略】
【戦術】
と書き始めた。
ここまで読んでくれてありがとうございます!
フローラル、まだまだこれからです。
このメンバーでどこまで行けるのか、一緒に見届けてもらえると嬉しいです!
応援してくれると、みんなもっと頑張ります!




