第20話 最強コーチ、爆誕!
どんどん自分の思っている方向からずれますね。
午後からの持久走や筋トレで、志保と舞を除く3人は部室のベンチに倒れ込んでいた。
「もう、これぐらいでバテていたら駄目だよ。フローラルは5人しかいないんだから」
「そうだね。誰かが脚を攣ったり怪我をしたりしたら、そこでチームとしてアウトだしね」
練習が終わっても平気な顔をしている志保と舞。
そんな2人を見て、亜紀は呆れたように呟いた。
「やっぱりこの人たちは人間じゃないですわ……」
「その亜紀の意見には激しく同意だ」
(コクコクコク)
理沙と柚季も同意しながらぐったりしている。
そんな3人をよそに、志保と舞はホワイトボードを用意し、何やら書き始めた。
やがて書き終えたボードを舞が持ち上げ、3人の前に移動する。
そこには大きく――
【戦術】
【戦略】
と書かれていた。
「はい、今日のミーティングのテーマはこれ!」
志保が元気よくボードを叩く。
「でも、戦術とか戦略ってどうやって考えるんだ?」
身体を起こしながら理沙が聞く。
「そこなんだよね。どうしようか?」
志保は照れ笑いを浮かべた。
メンバー全員が呆れてため息をつく。
「誰か、フットサルのコーチの当てなんて……あるわけないよね」
舞が遠慮がちに言い、すぐに自分で否定する。
部室に沈黙が落ちた。
その時――
「大丈夫、コーチならもうすぐ来るから」
いつの間にかベンチに座っていたゆかりが、缶コーヒーを飲みながら言った。
生徒たちは一斉に悲鳴を上げる。
「うわ~! いつの間に!?」
「はあ、はあ……先生、その登場の仕方やめませんか?」
「心臓に悪いですわ……」
「尊敬してますけど、それだけはやめてください」
(コクコクコク)
しかし、ゆかりは全く気にせずコーヒーを飲み続ける。
「ゆかりちゃん、コーチ来るって本当!?」
志保が顔を真っ赤にして詰め寄る。
「ちょっと近い近い。それと“ゆかりちゃん”って……」
ゆかりが押し返そうとした瞬間、他の4人も一斉に顔を寄せた。
「ちょっと、落ち着いてってば!」
ゆかりが慌てる。
その時、部室のドアがノックされた。
「あ、来たみたいね」
全員の視線がドアに向く。
「どうぞ~」
ゆかりの声に応じて、ゆっくりとドアが開いた。
入ってきた人物に、全員が目を見開く。
――足立健。
柚季の兄であり、スクラッチのキャプテンだった。
「えぇ~!? なんで健さんがコーチ!?」
「打倒スクラッチなのに敵チームのキャプテンが?」
志保と理沙が同時に叫ぶ。
「まだコーチやるって言ったわけじゃないけどね」
健はため息をついた。
そしてゆかりへ視線を向ける。
(聞いてないんですけど……)
無言の抗議。
ゆかりは視線を逸らし、鼻歌を歌い始めた。
健は完全に呆れる。
そんな中、亜紀が一歩前に出た。
「あ、あの……私は健さんにコーチになってほしいですわ!」
両手を握りしめ、真っ直ぐに訴える。
「もっと強くなりたいんです。そのためには優秀なコーチが必要ですわ」
顔がどんどん近づいていく。
「そ、そうかな……?」
健は後ずさる。
「絶対にそうですわ! あの強さは健さんのおかげです!」
距離、ほぼゼロ。
「あの、近いって……」
その一言で、亜紀は我に返る。
――顔、数センチ。
部室の空気が凍る。
(うずうず)
志保のイタズラ心が爆発した。
「あっ、ごめん! 躓いた!」
軽く背中を押す。
――キス寸前。
だが健が顔を逸らし、代わりに亜紀を抱き止めた。
まるで恋人のように。
「おぉ~!」
歓声。
「きゃあああ!」
亜紀、全力離脱。
そのまま部室を飛び出した。
「亜紀!」
理沙と舞が心配そうに見送る。
だが志保は――
「ふっふっふ……健さん、報酬は受け取りましたね」
仁王立ち。
「はあ?」
健、完全に混乱。
「亜紀ちゃん、細かった?」
(ウンウン)
「柔らかかった?」
(ウンウン)
「はい、報酬成立。コーチ決定」
(ウンウン)
「って、なるかぁ!」
健、ブチ切れ。
だが――
「チッチッチ……」
志保が指を振る。
パチン、と手を叩く。
柚季、登場。
タブレットを突きつける。
そこには――抱き合う二人の写真。
「……おい、柚季」
健、詰む。
「これ、ネットに流していいですか?」
「タイトルは『相原財閥後継者に恋愛発覚』なの」
完全に脅迫。
(なんでこうなるんだ……)
普通に大学行って、バイトしてただけなのに。
気づけば高校生に囲まれている。
しかも妹付き。
(5分で人生詰むとかどういう状況だよ……)
そして健は、静かに呟いた。
「……分かった。コーチ、やる」
読んでくれてありがとう!
フローラルメンバーに振り回される健。
これからも振り回されまくりだと思います。
物語はちゃんと進みますので安心してください。
応援よろしくお願いします!




