第19話 フローラル
ついにチーム名が決まりました。
「あ~、もう悔しい、悔しい、悔しい! 理不尽なイエローカードをもらった気分だよ!」
昨日のスクラッチとの試合の負けを、未だに引きずっている志保。練習のために部室で着替えながら、イライラしていた。
「本当に悔しいですわ。結局、1回目は0対1。2回目の対戦は0対3。屈辱ですわ。この私の初試合が敗北で終わるなんて……屈辱以外の何物でもありませんわ」
亜紀も同じように苛立っている。そんな二人を見て、理沙が落ち着かせるように声をかけた。
「しょうがないだろ。私もあれだけ差があるとは思わなかった。だから、着替えたら昨日の反省会を先にしよう。それを練習に生かそう」
「ホワイトボード、大活躍だね」
着替え終わった理沙がホワイトボードを出すと、志保が落書きをし始める。が、無言で後ろから殴られた。
「痛い~」
志保が半泣きでしゃがみ込む。その様子を見ていた亜紀が、興味なさそうに言った。
「またコントの練習ですか?」
舞と柚季も着替え終わり、ベンチに座る。
「昨日は完敗でしたね。あそこまで差があるとは思っていませんでした。ゴールを守りきれなくて、ごめんなさい」
舞が頭を下げる。
「舞さんのせいじゃないですよ。チーム全体の問題ですから」
理沙が慌てて頭を上げさせた。
「そうですわ。この借りは5倍返しですわ。当面の目標はあのチームに勝つこと。次に対戦する時はギッタギタですわ」
亜紀も闘志を燃やす。
しかし、柚季が静かに口を挟んだ。
「でも、完璧に戦術で負けたの。帰って兄貴に聞いたら『戦術と戦略』って言われたの」
その一言で、場が静まる。
「戦術と戦略か……難しいな」
「私たちじゃ、戦術の“せ”の字もわかりませんわね」
理沙と亜紀が頷く。
「まあ、この話は後だ。まずは基礎だな。やっぱり試合でも技術は絶対必要だと感じたし」
そう言って体育館へ向かおうとした、その時――
「待って。もっと重要なことがある」
志保が真剣な顔で言った。
「……なんだ?」
静まり返る部室。
「私たち、チーム名がない」
「はあ?」
見事にハモる4人。
「だってさ、健さんのチーム【スクラッチ】ってカッコいいじゃん? 大会とか見ても、みんなカッコいいチーム名あるでしょ。私たちも考えようよ!」
しかし――
全員、無言で部室を出ようとする。
「ちょっと待ってよ~!」
基礎練習後の休憩時間。
「やっぱり監督とかコーチが必要かな」
志保のつぶやきに、理沙が頷く。
「うん。昨日の試合で戦術の重要性は痛感した」
「あとチーム名も」
「それはどうでもいい」
冷たいツッコミが飛ぶ。
そこへ亜紀が腕を組んで入ってきた。
「チーム名は重要ですわ。この私、相原財閥次期党首が所属しているのですから」
「だよね!」
志保が即座に便乗する。
「問題は、何も思いつかないことなんだよな……」
理沙がため息をついた、その時――
「三橋!」
亜紀が手を叩く。
「はい、こちらに用意しております」(プルプル)
「うぉっ!?」
いつの間にか背後に立っていた老人。
「なんでみんな、そういう登場の仕方なの!?」
志保と理沙が同時に後ずさる。
その瞬間、志保がひらめいた。
「あっ! 第三者に決めてもらえばいいんだよ!」
全員の視線が三橋に集まる。
三橋は一歩前に出て、静かに語り始めた。
「戸崎志保様は【ライラック】。“友情”“無邪気”」
「佐原理沙様は【アカツメクサ】。“勤勉”“実直”」
「相原亜紀様は【スターチス】。“永久不変”」
「足立柚季様は【イエローサルタン】。“強い意志”」
「遠藤舞様は【桔梗】。“優しい温かさ”“清楚”」
そして――
「チーム名は【フローラル】はいかがでしょうか。意味は“花のような”」
「フローラル……」
「いいね」
「かなり良いですわ」
「うん、好き」
(コクコク)
自然と笑顔が広がる。
「決まりだね! フローラル!」
全員でハイタッチ。
「三橋、良い仕事をしましたわ」
「ありがとうございます」(プルプル)
三橋は静かに去っていく。
「おじいちゃん、ありがとう~!」
振り返らない背中に、志保は頭を下げた。
「さあ、昼まで練習やるよ! 午後はミーティングとランニング!」
「助けて~!」
部室に、元気な悲鳴が響いた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
この先、フローラルがどう戦っていくのか、ぜひ見守っていただけると嬉しいです。
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