第17話 はじめての対外試合
ちょっとだけ恋心的要素を入れてみました。
次の日、志保たちは市営の体育館前に集まっていた。
「あれ、ゆかり先生がいないよ?」
志保がのんびりとした口調で理沙に問いかける。
「先生は職員会議で遅れてくるらしい。先に行っていてって言われてるから、行こう」
「そうなんだ。でも、柚季ちゃんのお兄さんのチームだし、大丈夫よね?」
舞がそう言って自分を安心させる。しかし、柚季は相変わらず無言のままだった。
「んじゃ、張り切っていってみよう~」
空気を読まない志保が体育館入口のドアを開けて歩き出すと、他のメンバーもその後に続く。
だが、その笑顔の裏にある思いには誰も気づいていなかった。
(今日は私がみんなを楽しませる。そしてサッカーの面白さを知ってもらう。頑張る)
そう心に誓いながら、志保は歩いていた。
廊下を進み、ドアの前に立つ五人。志保は理沙たちとアイコンタクトを取る。
(行くよ)
小さく頷くと、みんなも頷き返した。
「たのも~」
その瞬間――
「危ない!」
声と同時に、フットサルボールが志保たちに向かって飛んできた。
「きゃ!」
「うわっ!」
とっさに顔をかばう志保、尻餅をつく亜紀。
だが、ボールは当たる寸前で一人の男性に止められていた。
「ごめん、ごめん。驚かせちゃったね」
そう言って、男性は亜紀に手を差し伸べる。亜紀は顔を赤らめながら立ち上がった。
「柚季、この子たちがフットサル部か?」
男性の問いに、柚季は無言で頷く。
「そっか。初めまして。柚季の兄、足立健です。このフットサルチーム【スクラッチ】の代表。よろしく」
笑顔で自己紹介する健。
柚季に似た目元、童顔の印象。しかし、芸能事務所にいそうなほどのイケメン。身長は175センチほどだろうか。
柚季以外の四人は、一瞬で顔を赤くした。
「じゃあ着替えてアップしてくれるかな? もう始めるしね。そこの部屋が女性更衣室だから」
そう言って健は振り向き、
「おーい、そろそろ始めるぞー。怪我すんなよ」
と仲間に声をかける。
その様子を見て、志保たちも急いで更衣室へ向かった。
「柚季ちゃん、お兄ちゃんすごいイケメンだね? 高校生なの?」
舞が着替えながら尋ねる。
「違うの。大学一年生。イケメンかどうかは分からないけど、そこそこモテるの」
「だな。あれは芸能界いけるレベルだろ」
「いいな~、あんな優しそうなお兄ちゃん」
「ふ、ふん……まあ、かなりのイケメンであることは認めますし、礼儀もある点は評価できますわね」
顔を赤くしながら亜紀が言うと、理沙がニヤリとする。
「おや~? 亜紀が他人を認めるなんて珍しいな。もしかして――」
「な、何を言っているのですか! 私は事実を述べただけですわ!」
さらに顔を赤くする亜紀。
その横で柚季がぽつり。
「兄貴、今彼女いないの。でも告白はかなりされてるの」
「な、何ですって!? べ、別に興味はありませんけど!」
そんなやり取りの中、外からボールの音が聞こえてくる。
「急ぐぞ。せっかく来たんだ。何か一つでも吸収して帰るぞ」
「楽しんで、帰るときはみんなで笑って帰ろうね」
志保の言葉に、全員の緊張が少し和らぐ。
(絶対にもっとフットサルを好きにさせる)
志保は再び心に誓った。
「着替え終わった? じゃあ柔軟とアップしながら聞かせてくれるかな?」
健がホワイトボードを持って話しかけてくる。
「それぞれ名前とポジション教えて」
志保が代表して説明し、健はそれをボードに書き込んでいく。
「了解。じゃあ志保ちゃんは緑、理沙ちゃんは黄色、柚季は青、亜紀ちゃんは赤、舞ちゃんはピンク。それぞれのチームに入ってね」
ビブスを配り、各チームに振り分ける。
「よろしく!」
年上のメンバーたちに声をかけられ、志保たちは少し緊張しつつも頷いた。
「じゃあ青対黄色、緑対赤で試合!」
笛が鳴り、体育館に音が響く。
その頃、ゆかりが体育館に到着していた。
こっそり中を覗く姿は明らかに怪しい。
「あの~、そこで何してるんですか?」
声をかけられ、慌てて振り向く。
「わ、私、フットサル部顧問の篠原ゆかりです」
「ああ、先生ですか。僕は柚季の兄、健です。中へどうぞ」
ベンチに案内されたゆかりは、生徒たちのプレーを見て目を輝かせた。
(みんな、ちゃんとやれてる……!)
試合が終わり、志保たちが駆け寄る。
「先生、遅いよ~」
「ごめんごめん。でも、みんなすごかったよ」
笑顔が弾ける。
そこへ健がやってくる。
「次は男性だけでやるから見学してて。そのあと女性だけで試合するから」
「えっ!? 私たちだけで試合!?」
「慣れない敬語で舌噛むなよ」
理沙がツッコミを入れる。
「あ、あの……私たちだけで試合してもよろしいのですか?」
珍しく丁寧な亜紀の言葉。
「もちろん。そのために来たんでしょ?」
健はそう言ってコートへ戻っていった。
「初試合だよ……」
「落ち着け……落ち着け……」
理沙が自分に言い聞かせる。
だが――
亜紀だけは黙ってコートを見ていた。
その視線の先には、健のプレー。
圧倒的な存在感。
ボールが吸い付くようなコントロール。
リズムあるステップ。
そして、笑顔。
「カッコいい……」
思わず漏れた言葉。
「はい?」
「え?」
「なに?」
三人の声が重なる。
「な、何も言ってませんわ!」
真っ赤になって否定する亜紀。
その様子に全員がニヤニヤする。
「でも、確かに上手いな」
「で、ですわよね! あくまで研究ですわ!」
必死に言い訳する亜紀。
舞がフォローする。
「理想的なプレーだね。私たちもああなろう」
「うん。初試合、楽しもう」
その言葉と同時に、試合終了のブザーが鳴る。
健がこちらへ歩いてくる。
「じゃあ女性だけで試合しようか」
体育館に、新しい緊張が走った。
読んでくれてありがとう!
ここからどんどん面白くなるのでぜひ続きもどうぞ!
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