第13話 名前で呼ぼう
体育会系ってこんな感じなんですかね?
体育館に着いた五人は部室を探した。部室はすぐに見つかり、五人が恐る恐る中を覗くと、窓から差し込む陽の光が部屋の中を明るく照らしていた。
「おぉぉぉ~」
五人から感動の歓声が上がる。
「これが私たちの部室ですわね」
「私のロッカー、ここ!」
「あっ、ずるいですわ、戸崎さん。そういうことはくじ引きかジャンケンと昔から決まっていますわ」
志保と亜紀が、まるで一昔前の漫画のようなドタバタ劇を始める。その横では、我関せずとばかりに柚季が勝手に自分のロッカーを決めて荷物をしまい始めていた。
「待ちなさいですわ。あなたもマイペースに物事を進めすぎですわ。これだから庶民の方々は」
「まあまあ」
亜紀が得意のアメリカンジェスチャーで呆れた態度を取ると、見かねた舞が止めに入った。結局、ロッカーはそれぞれが好きな場所を使うことになった。
五人が荷物をしまっていると、部室のドアが開き、ゆかりが入ってきた。
「みんな、いる? どう、自分たちの部室は?」
ゆかりが一人一人の顔を見回す。
「最高です!」
「嬉しいですわ」
「なんか、すごく楽しいことが始まる予感がします」
五人の笑顔が、ゆかりには輝いて見えた。先生として、生徒の笑顔を見られることほど嬉しいことはない。ゆかりも満足そうに頷く。
「そっか。良かったわね。じゃあ、これは先生からフットサル部創設のお祝い、第1弾」
そう言いながら、ゆかりはコンビニの袋からジュースを取り出し、みんなに配り始めた。
「先生、ありがとう~」
生徒たちの嬉しそうな声が部室に響き渡る。
「じゃあ、乾杯しましょう。キャプテンは志保ちゃん?」
「違います。キャプテンは理沙です」
「あら、そうなの? まあ、その方が私としても安心できるけど」
「先生、それ酷い」
「酷いのはどっちだよ」
理沙がジト目で志保を睨み、冷静にツッコミを入れる。しかし、その視線にまったく気づかない志保は、のほほんとした声で言った。
「理沙、乾杯の前に一言お願いします」
舞に背中を押され、みんなの中心に出た理沙は咳払いを一つした。
「じゃあ、一応代表して一言言わせていただきます。遠藤先輩が入部してくれたことで、ついにフットサル部が始動できるようになりました。これからは力を合わせて、フットサル部を盛り上げていきましょう。乾杯!」
そう言ってジュースを持った手を高く上げると、他の四人とゆかりも続いて「乾杯!」と声を上げ、缶ジュースを合わせた。
「これで明日から練習だね。でも、フットサルの練習ってどうやってやるんだろう? 私はサッカーの練習法しか知らないし」
「やっぱり本とか買って、練習法を調べないといけないと思う」
志保の疑問に理沙が答えていると、舞が恐る恐る手を挙げて会話を止めた。
「とりあえず練習法は置いておいて、みんなにお願いがあるの。これからしばらくはこの五人で練習していくでしょ? やっぱりコミュニケーションが大事だと思うの」
「はあ、まあ、そうですわね」
それがどうしたと言わんばかりに亜紀が返事をする。
「それでね、私に対してもそうなんだけど、みんな下の名前で呼ぶことを徹底したいの」
「えっ? つまり遠藤先輩のことを……舞って呼んでもいいってことですか?」
理沙が恐る恐る舞に聞く。舞はその通りと言わんばかりに頷いた。
「強いチームに上下関係はない。だからこれからは、私のことは舞って呼んでね」
「そ、それは無理ですわ。目上の方を呼び捨てだなんて、私にはできかねますわ」
少し困った顔で亜紀がそう言うと、舞は首を横に振った。
「先輩とか年上だからとか、試合中には気を使っていられないでしょ? だからこれは絶対に必要なことなの。大丈夫、絶対に怒らない。その方が私も、あなたたちの仲間になれたって実感するから」
舞が優しく諭すように説明すると、その言葉にゆかりも便乗した。
「確かに一理あると思うわ。舞ちゃんがそう言ってくれるんだから、みんなそうしなさい」
ゆかりの言葉に戸惑いを見せつつも、四人は「分かりました」と素直に返事をした。
「じゃあ、せめて舞さんでいいですか? さすがに呼び捨てはちょっと」
理沙の言葉に、舞はやれやれという顔で苦笑した。
「しょうがないよね。いいよ、舞さんで」
「じゃあ、舞ちゃん、亜紀ちゃん、柚季ちゃん、理沙、これからよろしくね」
志保がそう言うと、理沙が少し怒り気味に詰め寄る。
「お前の辞書に謙虚とか礼儀って言葉はないのか?」
「ない! そんな辞書すらない! 私の辞書にはサッカー用語だけ!」
「確かになさそうですわ」
「えっ、そこは否定する場面でしょ?」
(コクコク)
「柚季ちゃんまで……えーん」
亜紀と柚季にまでツッコまれ、志保は大げさに泣くふりをする。
理沙はそんな志保を無視して言った。
「私もみんなのことを名前で呼ぶように努力する」
「しょうがないですわね。私の下の名前を呼ぶことを許可してあげますわ。もちろん、私も皆さんの名前で呼ぶよう努力しますわ」
(コクコク)
亜紀も柚季も、名前で呼ぶことに了承した。
読んでくれてありがとうございます!
志保たちは今日も元気です。
多分次回も元気です。
応援よろしくお願いします!




