休戦協定と残る爪痕
「まず前提として、四天王を討ったことは現段階では公表しない。魔人族との抗争が激化する可能性が高いからだ。俺はこれを皮切りに他の四天王、そして魔王をも組み伏せ、その後人類種間での戦争を禁止させる」
全員の前で高らかに宣言してみたものの、現実味が湧かないのか、一部の女子を除いて呆けている。
嬉しそうに手を叩いているのはシャルとエクルだけだ。
これが信頼度の差か。
ここでセピアが苛立った表情で物申してくる。
「そんなことすれば、魔人族の立場が一方的に悪くなるだけじゃない! 認められないわ」
「必ずしもそうとは限らないが、もちろん有り得る話だ。だからこそ俺はバーガンディ達主戦力を殺さないし、お前達二人を利用させてもらう」
「なっ……私とボルドーを利用する!?」
「当然だ。セピア、お前の親はどんな世界を願った? 無差別に復讐することで気は晴れたのか?」
黙って俯くセピアに対し、ボルドーが優しく慰める様に声を掛ける。
「セピア、あなたをけしかけたのはあたしよ。あなたが責任を感じる必要はないの」
「そうだなボルドー。セピアが動いたキッカケもあんただし、間違えに気付いても止められなかったことは、大いに責任がある。だが俺は本人の意志を訊いてるんだ。少し黙っていてくれ」
仲間の感情に寄り添い過ぎるボルドーも、これはこれで指導者向きではない。
バーガンディと足して二で割りたいくらい正反対で、案外相性の良さそうな二人なんだよな。
ボルドーを責める言葉を聞いて、セピアはヤケクソ混じりの声色で語り始めた。
「……晴れないわよ。気分なんて最悪だった! 冒険者を殺す度に自分の心が磨り減って、段々なにも感じなくなっていったのに、シアン達を殺すのがすごく怖かった。いきなり躊躇う身勝手さにもうんざりしたわ!!」
「セピアさん、それは身勝手ではありません。ただあなたにとって大切なものが増えただけです!」
「シャルさん……優しいのねあなたは」
「ショーマ様はもっとお優しいですよ」
シャルの話し方には不思議な包容力がある。
荒んだ心を包み込む様な、慈愛に満ちた心地好さが。
セピアが落ち着きを取り戻したところで、俺からも本題に入る事にした。
「ボルドー、あんたに償えとは言わない。だが責任を感じているなら、せめてセピアの今後の為に力を貸してくれ」
「もちろんセピアの為になるならなんでもするけど、具体的にはどうすればいいの?」
「簡単だ。あんたは北の山脈を統治し、魔族に人里を荒らさせないよう務めてほしい。こちらからは、セピアを含めたシアンのパーティだけを調査に向かわせ、当面の時間稼ぎをする」
「え、あたしにあの場所を任せてくれるのかい?」
「無論だ、むしろあんたしかいない。その代わりバーガンディとの協力は不可欠だぞ。魔人が反乱を起こせないよう、二人揃って抑止力になるんだ」
「バーガンディ様と? でもあたしは魔王軍にも入ってないのよ?」
「俺はそれでも一向に構わん。東側の魔人を統べるだけならば、魔王軍にこだわる必要性はない」
四天王のひと言で意向に即した交渉が成立し、バーガンディとボルドー、そして俺とセピアによる同盟が結ばれた。
そもそもラフィル川はブラウニーの山まで続いているし、すぐ隣の山脈を守る上でも手を結び易い。
その日はそれぞれの持ち場に帰る事になったが、翌日のセピアとシアンの再会は少し楽しみだ。
「ではショーマ殿、近日中にカンナディアで会えることを楽しみにしているよ」
「あぁ、色々と世話になったなミモザ」
「とんでもない。それはお互い様だ」
川を渡る前に方角が違うミモザとも別れ、ギルドへの報告について考えていると、スマルトが不安そうに話し掛けてくる。
「ショーマ、倒した四天王の回復をした上、腕を治す約束までしてしまって、本当に大丈夫なのか?」
「あいつが俺の言う通りに上手くやってくれれば、それぐらいしてもお釣りがくる。もし完治した途端に反旗を翻されても、俺が圧倒してしまえるだけの力を身に付けておけばいい」
「うーむ……君は他人に甘いのか厳しいのか分からない男だよな」
「ショーマちんって、基本的にめっちゃお人好しじゃない? 甘々で過保護〜みたいな。てかさ、話変わるんだけど、シャルさんとキスしてたのはなんなの?」
「エクル、お前ずっとそれ覚えてたのか」
「あったりまえじゃん! あの時シャルさんのMP、一気に回復してなかった??」
尋ねるまでもなく、魔法の継続時間で気付くよな普通に。
俺はシャルから目を逸らしつつ、エクルに事の真相を手短に伝えた。
「なにそれーっ!? そういうのは早く言ってよー!」
「いや言ったところで、エクルやスマルトとはキスできないだろうが」
「スマルトは分かるけと、エクルとでもダメ? シャルさんとも恋人とかじゃないんでしょ?」
「いやお前さ、スマルトの前でなに言ってんのマジで??」




