思惑を束ねた先へと
「ボルドーの件は協力してやる。その代わり一旦あいつらと話しをさせろ。あと人里を襲わないよう、手下達にも言い聞かせておけ」
「俺はこの未開拓地の魔獣くらいも倒せん奴に興味は無い。部下もまぁ、独断で暴れねぇように釘刺しといてやるよ」
「それで構わん。冒険者達も出来る限り北方には立ち入らせない」
バーガンディがセピア達を連れに根城へと戻るのを見計らって、シャルの下に歩み寄った。
黙って後ろで見ていたけれど、彼女は俺のやり方をどう思っただろうか。
なんにせよ、まずはシャルのMPを回復せねばなるまい。
「ショーマ様、遂に四天王まで倒されましたね」
「あぁ、だがシャルを守れなかった。本当にすまん」
「いえ、そんな――…んっ」
罪悪感を拭い切れないまま、おもむろにシャルと唇を重ねる。
いつもの彼女は、胸の辺りで手を合わせて握っているのに、今回は首の後ろに両腕を回され、なんだか別の意味が込められている気がした。
と言うかシチュエーション的に、こっちが勘違いしてしまいそう。
「もっ、申し訳ありません! つい調子に乗ってしまいました!」
「……シャルと村にとっての仇を、俺の勝手で見逃してしまったのも、すまなかった」
「いえ、私達を救って下さったのはショーマ様です。私はショーマ様のご意志に従います。それに私は――」
「あぁ、そう言えばエクル達も回復してやらねばな」
正面からシャルの顔を見ていられず、強引に話しを断ち切ってしまった。
さっきのキスのせいか、鼓動が尋常じゃない強さで打ち付けてくる。
火照った顔面を隠す様に、気絶している獣人三人に回復魔法を使用し、ここまでの経緯を包み隠さず語った。
エクルは能天気に喜んでいるが、あとの二人は複雑な様子。
「すっごーいショーマちん! ホントに勝っちゃったんだ!」
「それは見事だ。しかしショーマ殿、魔人との口約束など信用して良いのか?」
「ミモザの懸念は妥当だが、少なくともバーガンディに関しては、他の魔人より和解し易いと思っている。万が一何か起こりそうな時は、俺が先に手を打つさ」
「ショーマ殿……魔人との諍いを鎮めるならば、カンナディアギルドもなんとかせねばな。ラフィル内への冒険者の派遣を止め、魔人討伐に燃える者達を、別の目的に導く必要がある」
「そういう連中もいるのか」
「無論だ。魔人に仲間を殺された冒険者は数多いからな」
そんな会話をしている頃、セピアとボルドーが木の生い茂る地上に出てきた。
顔色も悪くなく、本当に辛い目には遭ってないらしい。
「ショーマ……さん。それにスマルトとエクルも来てたのね」
「久しぶりだね少年。約束の日はすっぽかしてしまって悪かったよ」
「事情は聞いてる。ここに来ないとセピアを返さんとでも言われたんだろ?」
「まぁそんなとこね。それよりバーガンディ様から聞いたけど、あなたは魔人との共存を望んでるの?」
「あぁ。そこにいるセピアはまさに象徴的存在だし、争うくらいなら全員丸め込みたいと考えている」
「ちょっと待ってよ! 私は君達冒険者を皆殺しにしようとしたんだよ!? どう象徴になるって言うの!?」
分かってて言ってるんだよなこの羊女は?
俺が回答する前に、ボルドーがセピアの肩に手を置き、静かな声で諭した。
「セピア、もう悪ぶらなくていいのよ」
「でもボルドー姉さん、私はお母さん達の仇を討つの! 冒険者がいたら、今度こそみんなを奪われてしまうわ!」
「そうならない為に少年が動いてくれている。それにセピアだって、あの虎くんを殺したくないんでしょ?」
「シアンとは別に……そんなんじゃ……」
あっちもこっちも色恋沙汰で、どうにもやりにくいな。
その分弱みを握り易くもあるけど。
それから戻ってきたバーガンディと少し二人で言葉を交わすが、どうやら強者との戦いを望む戦闘狂はこの男と魔王のみで、他の四天王達は人里への侵攻に積極的らしい。
本人曰く、個人戦力は四天王随一でも、狡猾で厄介なのは西や南の指導者なのだとか。
「よくそこまで話す気になったな」
「あー、俺は面倒事は嫌いなんだ。自分の欲求さえ満たされればそれでいい。さっさとボルドーを手に入れて、またてめぇとやり合える日が来るなら、俺は願ったり叶ったりだ」
「とことん上に立つ器じゃないなお前は」
「魔人らしいと言ってくれ。本来俺らは、力で敵を屈服させることに愉悦を感じる。先に相手を弱らせたり、集団で嬲る様なやり方するくらいなら、殴り合って死にてぇもんなんだわ」
どこの戦闘民族だコイツらは。
しかし思いがけず気に入られた上、都合良く敵の情報も手に入ったわけだし、最初のリーダー格がバーガンディだったのは良かったのだろう。
あとは冒険者側の問題、そしてボルドーに良い条件を提示してやれば、東側は一旦解決だ。




