安息とはならず
「すっかり日が暮れてしまったな。まぁ一日で帰ってこられただけでもずいぶんマシか」
「そうですね。早くミィに会いたいです♪」
「あぁ、俺もだよシャル。しかしなんでコイツらまでリーヴァルについてきたんだ?」
「ショーマちんひどーい! エクル達も宿探してるんだからぁ!」
「昨日借家を返したばかりでな。今夜からの寝床が無いんだ」
「お前ら計画性ゼロかよ。落ち着いてから契約解除しろ」
「いや、遠征先が危険地帯だったし、後腐れなく旅立てるようにとな」
「スマルト、お前は一生四等級止まりな気がしてきたわ……」
ラフィル川からの帰りはギルドが手配してくれていた馬車に乗り、のんびり身体を休めながら揺られていた。
馭者がギルド職員だったので遠征の完了だけは伝え、詳しくは翌日にキサラディギルドへと出向いて報告になる。
そこまではいいのだが、パーティ四人全員がリーヴァルで降りた現状が腑に落ちない。
出発の前日に家を捨てるとか、特攻隊かこの犬男は。
ちなみにエクルとは、馬車に乗る前の会話がどうにも気になってしまい、あまり目も合わせていない。
想い人の前で他の男とのキスを受け入れるとか、そんな尻軽女だとは思っていなかったからな。
見損なうぞこのうさ耳。
「おかえりショーマ君、シャルちゃん! お客さんまで連れてきてくれたのかい?」
「ただいまアンリ。急で悪いが、二人部屋を一つ追加か、もっと広い部屋は空いてるか?」
「ごめんねー! 今夜はちょーっと立て込んでて、一人部屋しか空いてないのよ」
アンリノットの扉を開けると、夕食時で賑わう店内では、従業員達が忙しなく働いていた。
エクルとスマルトにも部屋を用意せねばと思ったのだが、いかんせん数が足りない。
とりあえず元々借りてる部屋に集まり、最後の一部屋を借りる事になった。
男女別で二人ずつにする予定だったのだが……
ミィとも合流し、部屋で食事をしながら和気あいあいとする面々を眺めつつ、俺は今日一日を振り返っている。
セピアの件は一旦解決として、今後冒険者をどう手引きするか。
キサラディはまだしも、カンナディアには協力者が不足している。
魔人側もどこまで抑えきれるか。
やはり他の指導者を含め早めに制圧しないと、今度はバーガンディ達が敵認定されるかも知れない。
そして、この場でご機嫌そうに喋っているミィは――
「ショーマ? ミィ、見てる?」
「あぁ。ミィ達ブラウニーは、他種族との交流をあまり持たないんだよな? なんでミィは俺の連れとそこまで馴染めてるんだ?」
「んー、ショーマ、好き! ショーマの仲間、みんな、ミィの仲間!」
「なるほどな。今まではそういう奴がいなかったのか?」
俺の直感が正しければ、ブラウニー達はただの人見知り一族ではない。
虐殺された過去が原因で、不思議な力をひた隠しにするのは当然として、まだ人里を避ける理由があるはず。
でなければミィみたいな存在がいて、この街の住人がまともに会った事もないなんて不自然過ぎる。
少し黙っていたミィは唐突にペンを手に取り、術式を記述する様に付与魔法を施した。
独りでに動き出す筆記具が、何やら紙に綴り始める。
『ブラウニーは大切な物を守ってるの。それは誰にも知られちゃいけない、ブラウニー族だけの秘密。知られると戦争に使われてしまうから』
手紙は俺に預けられ、書き手の許可を得てシャルにも読ませた。
文章の意味を考えていると、シャルからミィに質問が投げ掛けられる。
「これが理由で、ブラウニーは他種族との接触を最低限にしていたの?」
「……うん」
小さく頷いたミィに対して、シャルは若干悲しそうな表情を浮かべた。
俺としては、ペンに書かせていたから手記と話し口調が違ったのかと、余計な部分に納得していたのだけれど。
この手紙の内容については、なんとなくだが予想はできる。
ブラウニーの話題はここで終わらせ、置いてけぼりを食らっていた二人を含め、今晩の部屋割りに関して話し合う事にした。
ベッドは三つ。
人数は大人四人と小人一人。
どう割り振っても、誰かしら窮屈になってしまう。
「とりあえず女子三人はこの部屋にするか。一人部屋の方も布団くらい敷けそうだし、俺は床でも構わない」
「待ってよショーマちん! リーダーを床で寝かせるわけないじゃん」
「エクルさんの言う通りですショーマ様。私がショーマ様と同室になり、床を使わせていただきます」
「それもおかしいよシャルさん! シャルさんも色々あって疲れてるだろうし、ベッド使いなよ! エクルがショーマちんの横で寝るから」
なんだこれ。
なんでシャルとエクルが部屋を取り合ってるんだ?
しかも俺と一緒がいいとか、本気で意味が分からん。
エクルはむしろスマルトと同室になりたいだろうが。
当のスマルトは不敵な笑みで耳打ちしてくる。
「モテるなショーマ。これは女子達による君の正妻争いだぞ」
「なんでそうなる。なにかやむを得ない事情でもあるんだろうよ」
「いやいや、火中の栗は当事者が拾わねば、彼女達だって報われないだろう?」
「スマルト、お前にだけは言われたくないんだが……」




