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第31話 旗艦級を墜とせ(下)

『はぁいユージ、待ちくたびれちゃったわ』


 スクリーンに映し出されたのは、豊かな赤毛を少しだけウェーブにした切れ長の碧眼を持つ女性。


「礼奈子、君の出番だ。必殺の超電磁砲で敵旗艦を狙う」


『ふふ、了解。二人はずいぶん張り切っているようだけど……わたくしの準備も万端よ』


 柔らかな笑みを浮かべると、ぱちんとウィンク。

 落ち着いた声色に、彼女の魅力を最大限に引き出すナチュラルメイク。

 ぱっと見は清楚で綺麗な大人の女性、という印象なのだが。


『ふふ、子猫ちゃんには出せないわたくしの魅力を見せてあげる。ユージはあたしの『担当』だからね』


 スキレットに入れたドン○リをあおり、長い脚を組む礼奈子。

 成人女性だというのに、へそ出しのセーラー服を身に着け、すらりと伸びた生足の足元は僅かにヒールのついたコインローファー。

 幾ら機体の操縦は俺が行っているとはいえ、コックピット内で飲酒はどうかと思う……必要なことではあるのだが。


『このド○ペリで今月のユージの売り上げはトップ3入りね。シャンパンタワーも入れちゃおうかしら』


(おおぅ……)


 思わず頭を抱える俺。

 素面では三人のパイロットの中でいちばんまともな性格をしている礼奈子だが、コックピットに座り、アルコールが入ると豹変。

 俺のことを昔入れ込んでいたホストだと思い込むのだ。

 これがハイレベルな(?)ヤンデレシフトを引き起こすカギになるとはいえ、毎回応対する俺の胃(仮想)の事も考えて欲しい。


「いつもありがとう、礼奈子。この戦いが終わったら参号機のコックピットで打ち上げをしよう」


 頭痛と胃痛を覚えながらも、口は優しい言葉を紡いでいく。

 前世(最近、敢えてそう呼んでいる)で5年以上地下アイドルグループのマネージャー兼プロデューサーを務めた経験は伊達ではない。


『ふふっ、それじゃいつものハンガーで、24時。つまみはチーズでいいかしら?』


「あ、ああ」


 ピピピピッ


 コックピット内に鳴り響くアラーム音が、超電磁砲の充電完了を告げる。

 参号機のコックピット内はいつもチーズ臭い。なぜかは聞かないでほしい。


『……参号機にヤンデレシフト発生を観測。超電磁砲射撃可能まであと五秒』


 すっかりドン引きした博士の声色。


「…………」


 いたたまれない空気が、仮想空間内に流れる。

 おいなんか言え博士。


『うふ、長ぁい』


 背中の砲身を腹側まで移動させ、発射コードを入力する礼奈子。

 参号機の両椀が超電磁砲の長大な砲身を抱え込み、優しく撫でる……酷い絵面である。


『発射ぁ♡』


 ヴンッ…………ガシュッ!


 火砲とは違う発射音。膨大な電磁スパークをまき散らしながら、一発限りの大口径砲弾が発射される。


 ていうか何が発射♡だ、この色ボケ女。

 そう突っ込みたい衝動を必死に抑える。


 ヴウウウウウッ……ゴガアッ!!


 超高速の弾丸は、旗艦級の装甲に一瞬跳ね返されそうになるものの、ヤンデレシフトが空間のゆがみを発生させ、装甲をねじ切る。


『弾けなさいっ』


 同時に、起爆スイッチを入れる礼奈子。


 ズッ、ドオオオオオオオオオオオオンッ!


 大口径砲弾に仕込まれた数百kgの高性能炸薬が一気に弾け、成層圏のはるか上空で巨大な爆発が起きた。


『っっ!? 敵旗艦級の爆砕を確認。状況終了。帰還してくれたまえ!』


 人類初の旗艦級の撃墜。

 先日に引き続き達成された快挙に、博士の声も上ずっている。司令室内に湧き上がった歓声が、博士のヘッドセットを通じて俺の耳に届く。


「……はぁ~~っ」


 プレッシャーから解放され、大きく息を吐く。

 身体があれば、床に倒れこんでいただろう。

 俺にこの快挙を喜ぶ余力はない。三機に増えたカグツチ弐型の繊細な姿勢制御に慣性制御……何よりヤンデレ少女たちのコントロールに俺の精神メンタルは限界である。


『ふへへっ、これで優っちとぉ』

『ふふ、これで優史さんと』

『ああ、これでユージとっ』


 三者三葉の含み笑いが、スピーカーから聞こえてくる。


『ふむ……素晴らしい戦果ではあるが、大丈夫なのかねぇアレ』


「いや、アンタが集めた人材でしょうが!」


 呆れた様子の博士に向け、思わず全力でツッコミを入れる俺なのだった。



 ***  ***


『ということで、ワタシは戦略自衛隊幕僚長への報告資料をまとめるから、君は彼女たちのアフターケアをよろしく』


「……了解です」


 逃げやがったなこの女。

 そう思うが、今の俺に博士を追いかけるすべは無い。俺に与えられたのは、決戦兵器の制御コアとしての仮想空間だけだ。


「やるしかないか……」


 幾らえりすぐりのヤンデレ少女たちとはいえ、俺たちが従事しているのは得体のしれない機械生命体との戦争である。

 彼女たちの疲弊した(多分)メンタルを癒すため、俺はとびっきりのしっとりイケメンヴォイスを準備するのだった。


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