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第30話 旗艦級を墜とせ(中)

『サンマタくん、敵旗艦は対空火器を満載したフリゲート級を伴っている。これは厄介だぞぉ』


 また博士から入電。3Dマップに今次反抗作戦の主目標である旗艦級の位置がプロットされる。その周囲を8の字を描いて飛ぶ、艦載機よりは大きい光点。

 これが敵のフリゲート級に違いない。


三俣みまたです、博士。フリゲート級の装甲は、壱号機のカノン砲では厳しいですね。弐号機を使います」


『うむ。弐号機のパイルバンカーは貫通力を二割ほど上げてみたが、ショックアブソーバーの試験が未だ完全ではない。くれぐれも気を付けてくれたまえ』


 毎日のように飛んでも装備を出してくるくせに、どの口がそう言います? そう反論したい衝動を抑え、秘匿通信を弐号機に切り替える。


『……ちょっと待ちくたびれました。私の出番、ですね?』


 スクリーンの映像が、青みがかった黒髪を切りそろえた莉乃の姿に切り替わる。


「ああ。弐号機のパイルバンカーで、敵のフリゲート艦を撃破する」


『ん、了解です。その前に、配信の調整をさせてください』

『右ウィング上の外部カメラを使用。私と優史さんの活躍シーンを全世界に流します。見ない奴は社会的に抹殺』


 素直に頷いたかと思うと、これまた物騒なことを言いながら配信用のアプリを操作する莉乃。

 電脳少女でもある莉乃が乗る弐号機には機体の各所にカメラが設置されており、【広報活動】の一環として戦闘の様子を時間差で配信している。

 今回の反抗作戦は、世界中に配信されることになっていた。


「……莉乃、コックピット映像も別窓で載せて。せっかく可愛いんだから、視聴者たちに見せてやろう」


 莉乃にそう促す。

 美少女が操縦する決戦兵器……世間の人々を安心させるには、キャッチーな画も必要なのだ。


『……む。私に劣情をぶつけるのは、”王子様”である優史さんだけでいいのですが。ちっ、コックピット内カメラの位置が相変わらず悪いですね』


 舌打ちをする割に、カメラをやけにローアングルにセットする莉乃。

 紺色の長袖セーラー服を身につけ、タイツを履くという露出度ゼロの莉乃だが、少しだけ膝を開きスカートの中がカメラに映るように調整する。


『スクショした奴は、アクセス元を突き止めるのでよろしくお願いします……ふふ♡』


 毒づきながら、お尻をもじもじと動かす莉乃。

 そう、彼女は重度のむっつりかつSとMの両面を持つ女だ。


『優史さんには、限界まで明度調整した特別版を進呈します。どうです?』


 俺のストレージに暗号化された動画がアップされる。超高画質で、スカートの中身は……莉乃め、下着を履いてないのか。

 ずきずきと頭痛がする。


「ありがとう莉乃。嬉しいよ。はぁ、俺に身体があればなぁ」


 莉乃はクールぶっているが、こちらの感情の動きに弱い。

 遠い目をして、大きくため息をついてみる。


『!! 大丈夫です。実はあの裏垢空間をさらに改修して……!』


 案の定、掛かり気味になる莉乃。


「感覚共有レベルを上げる、まだ一般公開されていない最新型のダイブ空間スペース用プラグイン……わざわざ俺達のために準備してくれたのか」


 予め調べておいた莉乃の『秘密』を秘匿通信で共有する。

 彼女は二人だけの秘密、というヤツが大好きだ。


『……流石です。すでに把握されていましたか。某軍需企業の機密サーバーをハッキングして手に入れました。優史さんの前では隠し事は出来ませんね』


 ほう、と莉乃の熱い吐息がコクピット内の湿度を上昇させる。


 おいこら、ただの犯罪じゃねーか。そう突っ込みたい気持ちを押さえ、甘い声色を調整する。少しウェッティなトーンがいいだろう。


「実は莉乃の全てを知っておきたくて、探してしまったんだ。……ごめんな?」


 スクリーン越しではあるが、画角を調整して上目遣い。これも彼女が好きな仕草。もちろん計算である。


『!! ……い、いえ。むしろ望むところです。私の”王子様”である優史さんには、すべてをさらけ出しておきたいので』


 眼鏡の奥のブラウンの瞳を揺らし、頬を染めて下を向く莉乃。


『……そうだ、プラグインのテストで作成した美嘉さんのシャワー動画とオ○ニー動画をダークウェブに流しておきましょう。あのマシュマロ女、先日優史さんのボディを撫でていましたからね』


 そのままぶつぶつと危険なことをつぶやき始めたので、アップされた動画を無害なシーンに変換しておく。

 そんなことをしなくても、君が一番だから。歯が浮きそうなセリフを二人専用のメッセージアプリに送信する。


 ヴイイイインッ


『あ~うん、弐号機のオムニゲート機関、逆位相発生。ヤンデレシフト問題なしだねぇ』


 先ほどより困惑した様子の博士の声が俺の耳に届く。


「大丈夫です。ハッキングの痕跡は完璧に消しておきました。アクセス元は追えないはずです」


『そ、そうか。 それにしてもサンマタくんの手管よ……ワタシとしてはいつ君が刺されるか心配になってくるな』


「ミマタです」


 いやだから、貴方がさせているんですよ?

 先ほどと同じことを考えている間に、弐号機の攻撃準備も完了したようだ。

 背負った巨大なトンネル掘削用のパイルバンカーが弐号機の右腕に移動し、先端部分の空間がぐにゃりと曲がる。


『逆位相係数が270を超えている。これなら問題なくフリゲート級の装甲を抜けるだろう!』


 困惑状態から一転、歓声を上げる博士。

 敵を撃破するには、この通称ヤンデレシフトと呼ばれるオムニゲート機関が生み出す空間の逆位相(つまり歪みだ)が重要になる。

 ……ネーミングは正直何とかしてほしいが。


「莉乃、パイルバンカー起動。ぶちかましてやれ!」


『了解です、優史さん。ふふふふふ……本来なら貫かれる側の私が、固い防壁を貫くなんて。優史さんに置き換えて考えると興奮しますね』


(え、そこに興奮すんの!?)


 下腹部がキュッと縮むような感覚を覚えながら、弐号機のスラスターを全開にする。


 ガンッ、バンッ!


 防御用のオムニゲート補機も問題なく稼働し、フリゲート艦の対空砲火を弾いていく。


『これで、終わりです!』


 ゴガアアアアアアアアアッ!!


 突き出された弐号機のパイルバンカーが、全長100メートルほどのフリゲート級の装甲に突き刺さり、真っ二つに両断した。

 補助エンジンの出力を使い、反動をまんべんなく慣性制御で散らす。

 反動が変換された熱エネルギーが、ヴェイパーコーンになり弐号機の周囲を彩る。


「……はぁ、胃がいくつあっても足りないぞ。いやまあ、実際には無いんだが」


 莉乃との秘匿通信を切り、一息つく。

 下腹部をさするイメージを脳内に展開しておく。


『あとは敵の旗艦級だけだねぇ。コイツを墜とせれば、極東地区に対する軌道攻撃を30パーセントは減らせる。素晴らしい成果じゃないか!』


 ぎしっ


 僅かな圧迫感が各種センサーを通じて俺の脳に伝わる。


「椅子代わりにするのはやめてくれません? 一応国家予算の数十パーセントを使ったんですよね?」


 近接用のサブカメラをオンにし、博士の姿を視界に捉える。

 ダークスーツの上から白衣を羽織り、角砂糖が浮かぶココアが入ったカップを両手で持っている。


『はっはっは! 予算などと言うモノはねぇ。一度国会を通してしまえば幾らでもおかわりが出来るのさ。特にこんな時代は』


「うわ、問題発言だ」


 ぜったい納税者には聞かせられないセリフを吐きながら、ココアを啜る博士。


『さて。旗艦級を葬るにはヤンデレシフトを纏った超電磁砲レールガンが必須だ。そろそろ彼女の出番じゃないのかね?』


 どこか楽しそうな声とともに、圧迫感が消える。


「……離陸から7分35秒経っていますから、電力チャージも終わったでしょう」


 僅かに躊躇しながら、秘匿回線を参号機に繋ぐ。

 機体全体が超電磁砲のバッテリーと砲身になっている参号機に乗っているのは……初の実戦を迎える、とびっきりの気性難パイロットである。


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