5 初めての解体
私は洞窟の奥に獣を持って行った。
初期装備で渡されているナイフを取り出す。
そう、解体をやらないといけないのだ。
「く、アーサー・ランサムよ、我に力を」
『スカラベ号の夏休み』を思い出しながら、死骸の四肢を切り落とそうとした。
でも皮から肉に刃物を貫通させるまでに時間はかかったし、骨は切れない。
関節を四苦八苦しながら引っぱる。生臭い臭いに悩まされながらだと力も入らないよ‥
「誰か手伝って~」
情けないが1人じゃ無理だ。食い意地の張った後藤君と冒険者鈴木君の手を借りて、足を落とし、皮をはぐ。
内臓は我慢しながら1人でかき出した。肝臓と心臓はたべたいから残すけど。
「水魔法か洗浄魔法お願い」
血でベトベトする両腕を洗い流してもらう。
やっと肉の形になったそれを、小鍋に入れ煮込んだ。味付けは暁君の部屋で見つけた『ヤミ―棒』を砕いて入れる。
勇者と賢者と炎魔法持ちの堀田さんが交互に魔法で火をおこした。
たき火がしたかったけれど、この洞窟にちょうど良い枯れ木は見つからなかったのだ。
魔法だけだと煮えるまで時間はかかったが、じっくり低温調理だと思えばいい。
「味はどう?」
言った自分も微妙な顔で固い肉を咀嚼する。
肉は臭みが多かったからたくさん食べたいとは思わない。ま、1人当たりの割り当ては少ないからみんな我慢して食べた。食器はないから指を使って。
飲み物はバージョンアップできた。病弱の矢島さんが経口補水液を出せるようになったから。
500mlのペットボトルを6本出したところで矢島さんのMPは限界を迎える。みんなの水袋に少しずつついで水で薄めて飲んだが、それでも甘い水はおいしかった。
2日目の夜は昨晩より暖かくして眠むれた。
しかし3日目になって、空腹が本当に耐えられなくなってくる。
「もうマズイパンもないのか‥」
初めに渡されたパンが尽きた。
A班を探索に出し、みんなのスキルをチェックする。
私は暁君にもらったノートに1人1人の追加情報を書きこんでいた。
攻撃魔法や補助魔法がちょっとずつ増えていくが、インフラ系のスキルは増えた中にはない。
(有効なスキルを獲得しないと、明日あたり私が倒れそうだな)
ボーっとしながらも私は手に入りそうなスキルを思いつく。
「子供たち連れて頑張ってるんだからお弁当くらい出してよ‥」
ピコンと音を立ててステータス画面が変化した。
『新スキルを獲得しました』
「よっしゃあ」
ステータス画面で新スキルの内容を確認した私は大声を上げちゃう。みんなビクッとしていた。
「スキル発動、お弁当!」
目の前にあのマズイいパンが現れる。
MPの消費は1ポイント。
私の総MPは10だから、10個出すことは可能だ。
3分割してみんなで分けた。
(喜んだ割には大したことないけど、スキルレベル1ってあるよね。レベルアップすればおいしくなるんじゃないかな)
「MP回復ってどうすればできそう?」
食後、全然満足していないお腹をかかえながら全員に相談してみた。
「まあ、寝れば良さげですけど」
「宿屋があればなぁ」
とりあえず洞窟に横になってみよう。
うん、かったいしデコボコしている。疲れなんか取れなさそう。
「暁君、君の部屋で休んでいい?」
「え、いいですけど洗浄魔法の後にして下さい」
分かってるよ。
「く、ベッドフカフカだぁ~」
暁君がピコピコゲームをしているそばで、私は体をのばす。
ぶっ倒れるように寝てしまった。
「あ、先生やっと起きて来た」
4時間後、私は目覚めて部屋を出る。洞窟内にはゲッソリした生徒たち。
「どうした?」
急いで聞くと、男子がケンカして大変だったらしい。
(あ、リーダーが本拠地を離れたからだ)
生徒たちはまだピリピリしている。
これではおちおち昼寝もできない。
(絶対的にストレスがたまる環境なんだから暴力とかいじめとか気を付けなきゃ)
ケンカの当事者に話を聞けば、理由はささいなこと。
せまい洞窟では距離を取らせるのも難しいんだよな。
それでも休めたのは良かった。
夜までにMPが全回復したので、マズいパンなら出せる。
探索組が狩った獲物と合わせれば、それなりに栄養が取れるだろう。
「あの、こっちもどうぞ」
矢島さんはビタミン剤をさし出してくれた。
「おお、ありがたい」
ビタミン不足は下手したら命にかかわるから、矢島さんがいてくれて良かった。
作中で紹介した『スカラベ号の夏休み』は『ツバメ号とアマゾン号』と同じくイギリスの児童文学者アーサーランサムの著作です。都会育ちの姉弟がウサギを解体するシーンがリアルなのですよ。




