48 抑えられない不安!
「先生、もし元の世界に帰ったとして、時間はどれくらいたってると思います?」
ある日の朝食時、江崎さんからこんな質問をされた。
「まあ、世界が違うから何とも言えないね。浦島太郎みたいになるか、ここにいた時間がそのまま経過しているか、前の時間そのままに戻るか」
「ですよね」
もし、何百年も後の時代に戻されたら悲劇だろう。浦島太郎と違って同じ環境の友人がいることは救いになるだろうが。
「私だって家族には会いたいよ」
「あたしもです」
どんなに世間を騒がせても、せめてこっちで過ごした時間と同じだけで帰りたい。
「前の時間そのままパターンが1番無難なのか。それならいいな」
その江崎さんの言葉が、なぜか脳内でくり返された。
(元の時間‥あれ、もしいきなり高校の教室に戻されたら‥)
頭がクラっとする。
「どうしました? 先生戻ってこーい」
黙り込んでしまった私を、江崎さんがゆさぶる。
私はひらめいた疑問をそのまま彼女に投げかけた。
「ねえ、もし、もしもだよ、誰かが魔王を倒してさ、急に元の世界に戻ったとするよね」
「はい」
「召喚された時とほぼ同じ時間に戻ったら‥あなたたち、学校の勉強について行けるのかしら?」
江崎さんだけじゃなく、聞こえる位置にいる子全員がフリーズした。
それからだ。1日のうち2時間は授業の復習にあてることが決まったのは。
「午前中は勉強にあてましょう」
「えええ~」
私は嫌がる生徒に洗脳をかける。教科書や参考書を出してくれたのは、なんと江崎さん。
「あたしの本棚ならスキルで出せるんで‥嫌だけど」
「ジョブは遊び人なのに教科書も出せるんだ」
中村さんが不思議がったので教えて上げた。
「スタディの語源は遊びです。スクールは余暇だったかな。働かなくていい人が熱中することこそ勉強だったとか」
私の雑学に、生徒全員が顔をしかめている。
この世界での1週間は6日だ。
私は3日ずつ町と村を行き来していたから、両方で教えることにした。
しかしそれでは休みがなくなってしまう。休みなしなんて耐えられない。
だから私が教えるのはそれぞれ2日だけにして、それ以外は自習させた。
洗脳スキルをいかんなく発揮してね。
(英語と世界史はなんとか教えられるけど、それ以外はあんまり分からないんだよ)
とにかく、分からない単元は復習だけにしよう。
高校生の時は分からなかったが、今なら教材を読むだけで理解できたりする。
和田さんとか得意な子に聞きながら、私も勉強した。
別に新しい単元に進むわけではないのだ。
加藤君のインターネットスキルで動画だって視聴できる。
勉強系の動画を生徒と一緒に見た。
そして得意な子には苦手な子のサポートを頼む。
学校と言うより、寺子屋のような光景が、毎日くり広げられた。
ロヴェンテさんにも思い切ってたずねてみた。
「簡単な読み書き、教えるのできます。あ、嫌なら無理にすすめませんけど」
彼は目を見開いている。
「お、お節介でしたか?」
「いや、助かる」
思ったより喜んでくれた。
なので町にいる時は、授業の後にロヴェンテさんの訪問が時々あった。
字を教えてお昼を一緒に取る。
「ここまで良くしてもらうのは悪い」
別に無償で全然かまわなかったのに、ロヴェンテさんはちゃんと料金をはらうと言って聞かない。
「ここまでしてもらったら、銀貨2枚の月謝は当然だ」
「そんなにもらえませんよ。せめて半銀貨1枚くらいなら」
「では銀貨1枚だな。これ以上下げられない」
月ごとに銀貨1枚で手をうった。
律儀な人だ。
異世界転移物で、帰ってきた高校生はどうしているのでしょうな?
大人になってから教科書読み返すと、色々理解できます。




