42 順応
寝こんでいる間は毎日のようにロヴェンテさんが顔を出してくれた。
大体は生徒が何人かいるのを確認してすぐ帰って行く。
私は妙に意識してしまってあんまり話せない。
そして私の熱も数日で収まった。
町へ出ることが増えたので、ロヴェンテさんの来訪も自然になくなってしまう。
ちょっとだけ、さみしいのかもしれなかった。
私が寝こんでいる間も、生徒たちは見知らぬ文明をどんどん吸収していた。
「そうか、仕立て屋があるってことは既製服がないんだ、この世界」
「塩が高いし、砂糖なんて高級品過ぎて売ってねぇ」
文字を読める子の方が異世界への順応も早かった。
全く読めない後藤君とかもいたけれど、読める子に教わって全員数字は覚えた。
(店が色々あるから流通は整っているんだな)
驚いたのは街に上下水道があったこと。
井戸でくみ上げる水は領主の館から流れてくるのだとか。
魔法で生み出された浄水で、現地人なら生で飲める。
私は遠慮しちゃったけど。
そして、それ以上に下水道はありがたい。
実在した中世ヨーロッパ都市の不潔さと言ったらありえないのだ。
排泄物を直接、通路に捨てるんだよ!
(古代の上下水道が残っているのか? 分からないけど助かった)
中世ヨーロッパ的な世界があるのなら、古代ローマっぽい時代があってもおかしくない。
インフラを整えられる文明バンザイ!
店にイモがあってもジャガイモではない。野菜は安いが肉は高い。
貧富の差は大きいようで、服や靴は高かった。
(皮のバッグが高いから、みんな袋をしょっているんだ)
「あんた、変な格好をしているねえ」
製品を見ているとすぐおばちゃんに声をかけられる。
「はい、遠くから来たもので」
「あら女の子じゃない。男みたいなナリだから分からなかったよ」
「ええ、私の町ではこれが普通なんですよ」
「へえ~靴もずいぶん珍妙だ」
おばちゃんが話好きって言うのは世界が違っても共通するらしい。
私は古着屋で服と靴を買ってみる。
装いを変えるだけで街になじんだけど、靴は粗末で歩きづらかった。
この街の様子だと、ここは中世と近世と近代が混ざったような雰囲気。魔法があることが影響しているのかも。
それなりに町の様子にくわしくなった私は、宿を解約した。
新しい宿で借りた部屋は月貸しで、料金は4人分だけ。
それまでは12人分はらっていたから、かなりのコストカットになるだろう。
間宮さんには路地裏へ転送陣を作ってもらって、ほとんどの子を入り口以外から出入りさせた。
(これはあきらかにズルだけど、目立ちたくないんだよね)
生徒たちも服を買い替えて、赤ジャージ姿はだんだん消えて行く。
それからやっぱりちゃんとした拠点が欲しかったので、ダンジョン入り口の村で家を買った。
以前借りたのを、今度は所有することにしたのだ。
金貨は村では使えないらしいから、銀貨がつまった袋を届ける。
次見に行った時には板の屋根ができていた。
「この村に住みたがる奴は珍しいのよ」
村長さんが教えてくれる。
どうりで村人がチラホラ野次馬に来るはずだ。
「手伝ってくれる奴が多かったから、二階の部屋も作っといたぞ」
「うわぁ、ありがとうございます」
それだけあれば、12人が暮らしていてもおかしくない。
間宮さんの転送陣スキルが上がって、入り口と出口を2か所ずつ出せるようになった。
街の宿と村の近くをつないでもらい、私たちは2重生活をすることに。
村の家に直接つないでもいいのだけれど、村では出入りする人間が完全に把握されている。
「街道を使っていないのに村に入ったのを知られたくないからね」
「なるほど」
間宮さんもすぐ納得。
「便利なのを隠すって、面倒くさいですね」
「うん」
街道を少しそれた森の中の岩場を目印にしてみた。
まあ、転送陣は触れて魔力を流さないといけないので、落ちている枝や草で隠せば大丈夫だろう。
ちょっと手間がかかるけど、村まで徒歩20分になるのだ。やっておいて損はない。
生徒たちから希望を聞いて、街に滞在する組と村で暮らす組に分けた。
風邪なので注意力が散漫です。眠い‥
中世ヨーロッパの不潔さは、古代文明が残したインフラで解決させました。




