41 発熱
翌日からは生徒たちに町を探索させる。
私は宿でノンビリしながら、情報を持ち帰ってもらった。
「ワタセン、八百屋で食材買ってきた。けっこう安いんですよ」
「服を買いたかったんですけど、古着屋しかありませんでした」
「串焼きが銅貨1枚で買えました」
この町の様子や相場が段々分かってくる。
「武器屋を見つけました! 防具も売っています」
とうとうやっと、ちゃんとした武器が手に入った。
「ふ、オレもやっと剣を持つ日が来たのだな」
誰だ中二病をこじらせているのは。
でも今までの武器が包丁や高枝切りばさみだったから、本物の剣や弓に憧れる気持ちは分かる。
そして生徒を町に出すと、文字が読める子と読めない子に分かれることが分かった。
「数字は何とか読めるんで買い物はできましたけど、冒険者ギルドの依頼が分からなくて」
「あ、わたしも。係の人に読んでもらっちゃった」
文字が読める子はステータス画面に『他言語理解』のスキルが表示されている。
これは全員が獲得できるスキルではないらしい。
「明日以降は読める子と一緒に行くといいよ」
規則性が分かるかも。
そして‥私の気がぬけた。
(この世界でも、みんなやっていけそうだね)
そう油断したのがいけなかったのだろう。
次の日、目を覚ました時にはもう頭がガンガンしていた。熱を出したらしい。
「しばらくは安静にして下さい」
矢島さんに解熱剤を処方してもらった。
食欲はなかったけれど、矢島さんはお粥やヨーグルトも出してくれたからありがたく受け取る。
宿スキルを使う気力もないので、矢島さんの保健室で横になっていた。
「先生がここで寝るの初めてですよね」
隣のベッドでは矢島さんが腰かけ、マンガを読んでいる。
薬臭い空間だが、具合が悪い時はこの臭いも妙に心地よい。
他の生徒たちは私のことなど気にせず出かけて行った。
ダンジョンの時とは違うメンバーでグループができたようだ。
コンコン、と宿屋の扉がたたかれる。
「どなたですか」
「あ、えっとその、見舞いに来た」
ロヴェンテさんだ。
「どうぞ」
矢島さんがカギを開け、保健室へ入って来た彼は目を泳がせている。
「不用心じゃないか? カギを開ける前に、本人かどうか確かめないなんて」
あ、そうか。魔法もある世界なんだから成りすましも可能なんだな。
「とりあえず、これ。別にいらないだろうが」
渡された小さな壺にはハチミツが入っていた。
「ありがとうございます」
お礼にお弁当を出す。
たっぷり寝たからか、人数分はちゃんと出せた。
「無理するな。それと2人きりは危ないから、今日は俺もここにいる」
なんと警備も言い出してくれた。一応暁君も自室にこもっているのだけど、ありがたい。
しばらくぐっすり寝て、保健室から出ると、ロヴェンテさんは、誰も使わなかったベッドにくつろいでいた。
「体調は?」
「だいぶマシです」
薬で熱は落ち着いている。
どうにかホテルの扉を一枚だけ出せた。
「無理はするなよ」
「これくらいなら大丈夫ですよ。汗かいたから、シャワーを浴びたくて」
矢島さんも一緒に入って来た。アイス枕や保冷剤を冷蔵庫にしまいこんでいる。
朝に凍らせてもらったのは全部溶けちゃったようだ。
私はジュースを取り出す。冷えたジュースはおいしかった。
風呂から出ると体がぐったりして、動くのが辛い。
熱出すと入浴が体力を使うことを思い出すんだよね。
ホテルのベッドに倒れこむ。
目が覚めた時も、まだロヴェンテさんはいた。
「ロヴェンテさんって、先生のこと好きなんじゃ」
保健室に薬を取りに行くと、矢島さんがポロっとこぼした。
「まさかー」
「いやいやいや、そうとしか見えないんですけど」
まじめな矢島さんが適当言うのもおかしいので、ちょっと本気にしてみる。
(え、私異世界で彼氏できるの? ロヴェンテさんなら‥嫌じゃないし‥え、私結婚できるの? でも子供が産まれたらどうなるん? 異世界ハーフ?)
頭がグルグルしてきた。
「寝る。このことは先送りで」
「あ、はい。おやすみなさい」
生徒たちの帰宅も待たず、私は熟睡してしまった。




